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The Smile『Cutouts』(2024年)

●第二の我が家の不穏で親密な音楽


レディオヘッドのマルチプレーヤーであるトム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッドとジャズバンドのサンズ・オブ・ケメット(2022年解散)のドラマーであるトム・スキナーが2020年に結成したバンド「The Smile」(ザ・スマイル)の3rdアルバム『Cutouts』のレビュー。なお、2ndアルバム『Wall of Eyes』から9ヶ月ほどのスパンでのリリースとなる。


Google調べによると、「切り抜き」を意味するアルバムタイトル『Cutouts』の由来は、メンバーのトム・ヨークと、Radioheadの歴代のアルバムやポスターのアートワークを手がけてきた"スタンリー・ドンウッド"の二人がレコーディング中に描いたイラストがアルバムのアートワークとして使用されていることによる。


収録曲

01. Foreign Spies

02. Instant Psalm

03. Zero Sum

04. Colours Fly

05. Eyes & Mouth

06. Don't Get Me Started

07. Tiptoe

08. The Slip

09. No Words

10. Bodies Laughing


The Smileの曲を聴くと、ドラマーのトム・スキナーの存在もあってかリズムへのアプローチはレディへと同様に凝っているが、レディへと比べるとシンプルな演奏に感じる。


だが、神経症的にも感じる美しい不穏さはトム・ヨークのこれまでのキャリアでは一貫している。不穏だが、アーティスティックな規律があるところがトム・ヨークの関わる作品の肝だろう。


本作『Cutouts』においても彼の内面の不安で繊細なサイケデリアが展開されている。音楽ジャンルのサイケというよりは、狂気も悲しみも含めたひとりの人間の内面を万華鏡のように映したサイケという意味合いである。聴いていると、脳内の知的な回路が開かれて(拓かれて)いく感覚になって気持ちよい。彼らの天才的なクリエイティビティがリスナーの僕の頭の中で充溢し、脳の回路が充血する。


短刀で切っても直入できない複雑さを日本的なワビ・サビに通じる簡潔さで表現してみるThe Smileの姿勢に、ここ約20年ほどレディへのファンである自分も歓喜している。


本作やRadioheadの諸作が難解だと思って聴きたくないと思っている方には以下のことを言いたい。XではJ-POP界隈に片足つっこみ、洋楽も含めたロックミュージック界隈にもう片足をつっこんでいる僕からの(エラそうな)メッセージである。


「直球と変化球に優劣はないし、どちらが偉いとか正しいとかではないのだけど、少し難しく感じる音楽も背伸びして聴いてほしい。


何回か聴いているうちに、好きになる曲もあるはず。僕もそうだった。扉を開いた先には新しい光景が見えた。


逆に僕もフォロワーがポストするJ-POP王道曲が好きになった。」



本作『Cutouts』の曲を見ていこう。まずは、リード曲のひとつである#3「Zero Sum」から。


細かい奇妙なフレーズを繰り返すエレキギターがシュールな世界観を演出し、中盤ではホーンが豊かに鳴り響き、要所要所でパーカッションもよく効いた良曲だ。しかし、レディヘメンバーというワールドワイドなネームバリューもあるのに、一ヶ月前の発表から24万回再生しかないことに愕然としている。


誰かが言っていた、「Radioheadを音楽の中心に近づけるのではなく、音楽の中心をRadioheadに近づけるべきだ」という言葉に共鳴している僕は、この再生回数に不満をいだいている。少し名の知れたユーチューバーと同程度の回数ではないか。


次に#10「Bodies Laughing」。

この曲のMVは攻めている。B級ホラーゲーム的なアニメーションがただただ気色悪い。だが、そのMVに本曲はこの上なくマッチしている。緊張と安心の間で不穏にただよう技巧的なサウンドとトム・ヨークの滑らかで艶やかな歌声はゾンビ達をも魅了するのだろう。


本作『Cutouts』 全体を見ていくと、Radioheadの直近作『A Moon Shaped Pool』の2曲目からのような薄いビート感でありつつ革新的な曲もあれば、鮮やかなギターサウンドが特徴の割と明快な曲(でも一筋縄にはいかない)もあり、また、新鮮なリズムの脈動でリスナーの心が賦活する曲もある。そのような自由で様々な音楽性を楽しめる。ただ、新規のリスナーを獲得できるようなポピュラリティーのある楽曲がないのは残念だ。


先日、僕がレビューしたRADWIMPS野田洋次郎さんのソロの話とも通じるが、トム・ヨークとジョニーはRadioheadという巨大プロジェクトを動かすことに負担を感じているのだと思う。もちろん、コロナ禍を理由として最小限の人数で活動を開始したバンドではあるが、今、The Smileという表現の場所が彼らにとっての第二の我が家になったのではないだろうか。その我が家での3人の演奏は親密さにあふれている。少なくとも、トム・ヨークにとっては、彼を中心としたスーパーバンドであるアトムス・フォー・ピースよりも居心地が良いだろう。それが音にも表れている。


だけど、トムさん、ジョニーさん、Radioheadの作品も待ってますよー!


Score 9.1/10.0

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