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ザ•リバティーンズ『All Quiet On The Eastern Esplanade』(2024年)

●逆襲のリバティーンズ


4人組UKロックバンド"ザ・リバティーンズ "(The Libertines)の4枚目のアルバム『All Quiet On The Eastern Esplanade』をレビューします。


【収録曲】

1 Run Run Run

2 Mustang

3 I Have a Friend

4 Merry Old England

5 Man with the Melody

6 Oh SHT

7 Night of the Hunter

8 Baron's Claw

9 Shiver

10 Be Young

11 Songs They Never Play on the Radio


アルバムタイトルは、ベストセラーを映画化し、1930年に公開された(最近もリメイクされた)『西部戦線異状なし(ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT)』をもじったと思われる。「Esplanade」は遊歩道という意味であり、オフィシャルな邦題は『東部遊歩道異常なし』だ。参照元の『西部戦線異状なし』とあわせて考えると、人をくったようなタイトルにすでに彼らの個性がある。


まずは、リバティーンズの総論を。リバティーンズで僕が最推しするのが、彼らのデビューアルバム『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』だ。


とにもかくにも、この 『Up The Bracket』の「Death on the Stairs」を聴いてほしい。二人のギターボーカル、ピート・ドハーティとカール・バラーの親密と反発が一体となったような関係性と、競い合うような場の掌握力が本当にスリリング! ロシアの女性二人組のユニット「タトゥー」の二人のような親密ぶりがリバティーンズの音の魅力に表れていて、自分はゲイではないけどすごく萌える(燃える)。


疾走感に風を感じられる。4人のメンバーの中で一番テクニシャンだと思われるゲイリー・パウエルの鉄壁のドラムの上に乗る、酩酊者のような下手ウマヘロヘロギター。悪ぶった脈打つグルーヴに良いことも悪いことも忘れられる。この音楽は衝動をとらえている。


2000年代初頭に起こった「ガレージロック・リバイバル」の現象。この現象でリバティーンズと並び立って紹介されるストロークスやアークティックモンキーズ、フランツ・フェルディナンド。これら3バンドの音には精妙な洗練ぶりを感じるし、ストロークスのモダンな音はガレージロックという言葉の印象とは離れた上質さがあるように感じる。


だが、リバティーンズの音はエレガンスよりもバンド演奏をそのまま真空パックしたような空気感を重視したように聴こえる。だから、彼らの音源は一枚目のアルバムの『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』が一番良い。無軌道な青春と乱暴な初期衝動が余すところなく真空パックされているのだ。二枚目と三枚目も悪くはないのだが、一枚目の衝撃からはほど遠い。


さて、本作をみていこう。


本作は収録曲#7「Night Of The Hunter」に顕著なようにイマドキのバンド(The 1975)のようなエレガンスも感じる。クラシック(たとえばラヴェル「ボレロ」やドヴォルザーク「新世界より」)のようなフレーバーさえ感じる。アルバム全体がパブロックからAORになったような感触なのだ。まあ、AORと呼ぶには少し荒っぽいサウンドだけど。


複数の曲にストリングス、ホーンセクション、コーラスが取り入れられ、直線的な熱よりも、多様性の豊かさが音に表れている。パンクバンドがポストパンクやニューウェーブに音楽性を変えていったように、これがリバティーンズの彼らの成熟なのだろう。ギターボーカルの二人の密室的な親密さがもっと音楽的に開かれて(拓かれて)いったのだと思う。


#6「Oh Shit」が本作において、一番間口が広いだろうか。ポピュラリティーと作家性が同居する必殺ロックンロールだ。そんな曲にこのタイトルをつけるひねくれ方がいいね。


#9「Shiver」はジョン・ハッサールによるベース演奏が魅力的な一曲だ。リバティーンズでベース演奏を意識することは少なかったのだけど、この曲のベースは温かなアタック音かつメロディアスで素晴らしい。そして、僕が本作で最も好きでオススメするのもこの曲である。


本アルバム全曲をとおして、ソングライティングや楽器フレーズの傾向が、ベタだけど安手にならない才覚の鋭さが素晴らしい。変化球の曲で予定調和を崩したり、オーセンティックなロックンロールを演奏したり。どちらにおいても、彼らの筆致が強く刻まれている。


今のところ、僕が一番に好きなのは前述した一枚目のアルバム(『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』)なのだが、その一枚目をゆうに超える本作の完成度は今までの彼らのキャリアの中で随一だと思う。好感の具合と完成度の高さは違うものさしなんだよね。とにもかくにも、本作は佳作でした。


Score 8.8/10.0

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