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The Lemon Twigs『Everything Harmony』感想&レビュー【良作!】

●今、この音楽を演奏する意味


The Lemon Twigsザ・レモン・ツイッグスは2015年結成のアメリカの4人組ロックバンド。新世代のバロックポップバンドとして支持を得ている。バロックポップとは、作曲手法や使用楽器【バイオリンやトランペットなどの管絃楽器etc】などクラシック音楽の要素を取り入れたロックミュージックのこと。


中心メンバーはブライアン・ダダリオとマイケル・ダダリオのダダリオ兄弟だ。2023年5月5日に発表された本作『Everything Harmony』は4枚目のアルバムとなる。レモン・ツイッグス(レモンの小枝)というバンド名の由来について、ブライアンは「特に意味はなくて、ジョークで付けた名前だったんだ。面白いかなって」と答えている。


レモン・ツイッグスがやろうとしていることは、とにかく良い歌を、良い音で。これに尽きると思う。小細工なしなところがプリミティブ(≒根源的)だ。プリミティブ・ロック・バンドを志向している日本のロックバンド「ダニーバグ」の杉本さんが彼らをフエイバリットに挙げているのもうなずける。


一曲目「When Winter Comes Around」のおごそかなカントリー調ソングやホーリーな美メロの讃美歌を想起させる素朴で魅力的な曲で始まる。そこから、最後の曲「New To Me」のビートルズ「Good Night」的な落ち着く美メロとアコースティックギターの深いまどろみの底に落とされるまで、13曲がどれも良曲で嬉しくなる。


60sや70sの往年の名曲も顔負けのクラシックでシンプルな骨格の美しさが光るレモンツイッグス。音楽性的に最も近いバンドの一つのはビートルズだと思う。ビートルズチルドレンというより、世代的にビートルズグランドソン(孫)かな。ビートルズと同じくコーラスや楽器隊の音色が美しいし、何よりもビートルズに負けずポップなのだ。


#3「Corner Of My Eye」の"I played the game of heartbreak."という歌詞にはビートルズの"Love was such an easy game to play"(「イエスタデイ」)という歌詞を連想したりした。あと、#10「Born To Be Lonely」など、本作全体を通して歌われるペーソス(≒哀愁)はビートルズ由来だと思う。


ビートルズを含めた60年代から70年代のクラシック・ロックとの近似を指摘したコメントはネット上に以前からあった。(たとえば、ザ・ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』(1966年発表)やクイーン『オペラ座の夜』(1975年発表)。)


だが、ググった限りではネット上で誰も指摘していないけど、個人的にはThe La's(ラーズ。唯一のアルバムは1990年発表)の要素も感じる。


#2「In My Head」は、ラーズのような清らかで完璧なポップソングだ。この曲の終盤には、La-la-laとずっと歌う箇所があるが、自分の頭をラララというフレーズで満たされる音楽的な歓びは無二だ。


#11「Ghost Run Free」は、重さがない幽霊のような涼やかな風が駆け抜ける良曲であり、ギターの鮮やかでキラキラしている音色と高音のボーカルの盛り上がりはまさにLa's「There She Goes」だ。


以上、レモンツイッグスの音楽性を見ていくと、クラシックなブリティッシュ・ロックのリバイバルだとも読み取れるだろう(ビーチ・ボーイズはアメリカのバンドだが)。日本のロックバンド「おとぎ話」のようにレトロな感覚をモダンな音で表現するアーティストは枚挙にいとまがない。


ロックの歴史をたどっても、ブラック・クロウズ(90年代)やアラバマ・シェイクス(00年代)などのサザンロック・リバイバルな音を鳴らすバンドや、ストロークスやアークティック・モンキーズ(両者共に00年代)などのロックンロールリバイバル勢など、様々な過去の音楽がリバイバルしてきた。


リバイバルのムーブメントでは、大半のバンドは模倣かエピゴーネン(≒亜流)になる。それを防ぐには過去の音楽を今リバイバルさせる必要性がなくてはいけない。でなければ、オリジネーター(やり始めた人)のものを聴けば良いとなってしまう。


その命題に誠実に向き合ったのがレモンツイッグスだろう。過去の音楽を今やる必要性を、いかにモダンに音を鳴らすかという姿勢で達成している。現在という時代のフィーリングを音に存分に取り込んでいる。モダンに作られた一音一音が職人技の包丁さばきのように繊細で驚く。生命の煌めきとペーソスをギュッと濃縮して一音に託しているのだ。


クラシック・ロックのリアルタイム当時の録音作品よりはもちろん、音の解像度が上がっている。それどころか、本作のこの録音は未来を先取りするくらい美しい。相当凝ってミキシングとマスタリングをしたのだろう。みずみずしさをより近く感じられるサウンドに舌鼓を打つ。この音のこだわりは、偏執狂のように音と向き合ったくるりのEP「愛の太陽」(2023年)にも負けていないだろう。


#5「What You Were Doing」には美メロの切実さがあるが、ただのポップソングにしないぞという姿勢が表れた長尺のアウトロに舌を巻く。その屈折こそが音楽への愛だ。アメリカのロックバンドだけど、ブリティッシュロック寄りに演奏しているのも屈折している。#7「Every Day Is The Worst Day Of My Life」(曲名のよーよー訳は「毎日が俺の人生で最低の日だ」)ではこのネガティブな曲名を歌詞の言葉にしてリピートして歌い続けるが、サウンドは全く暗くなく、一筋の光芒のような希望さえ感じる。この自然体な屈折こそ、このバンドの最大の魅力だろうと僕は考えている。


Score 7.8/10.0

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