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リアム・ギャラガー『C'mon You Know』(2022年)

●生命力を鳴らせ!


元オアシス、元ビーディー・アイのリードボーカルであるリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)のソロ3枚目となるフルアルバム。通常盤とデラックス盤で構成が違うが、以下、デラックスVer.のレビューをお届けします。


リアムの独特の粘り気がある発音で突破力のある歌唱、クランチや歪みのトーンで魅せる痛快なギター、風通しの良いサウンドがあわさっただけで彼の世界に一気に持っていかれる。それはオアシスの頃から変わらない。


ここで本作から何曲か触れておこう。


#1「More Power」は、女声コーラスでアルバムの幕を上げるのが新鮮だった。曲終盤までにかけての音空間とスケールの広がり方にアルバムに対しての期待感がわく。


この曲からラストまで、王道の曲もあるが、彼のキャリア上でもっともオルタナティブな演奏と展開を軸に魅せていく。#10「I'm Free」なんて中盤からレゲエが混じったりしてまさしくフリーダム!


タイトル曲の#4「C'mon You Know」。"It’s gonna be alright"(大丈夫さ)や、"stand up if you feel alive"(生きていると感じるなら立ち上がれ)などの歌詞でリスナーを前向きに鼓舞する曲。密度の濃い人生を送ってきたリアムが言うと説得力があるんだよな。


バラードの#5「Too Good For Giving Up」。90年代のデビューから破天荒な側面ばかりが注目された彼だけど、この曲には優しさを感じる。きっと、リアムは良い人なのだと思う。(悪い人でも別に良いけど。)


#6 「It Was Not Meant To Be」。ボーカルの声と歌いぶりの特質が活きつつ、曲調は少しメランコリックな方が彼の持ち味が出る。この曲はまさにそんな曲!


#7「Everything’s Electric」はフー・ファイターズのデイヴ・グロール(元ニルヴァーナのドラム)との共作。いかにもなオアシス節が炸裂している。オアシス節といえば、#11「Better Days」も胸のすくオアシス節が炸裂していて爽快だ。


#9「Moscow Rules」はオアシスの音楽性に寄らず(だけどビートルズの実験性フレーバーはある)音楽でドープ&ディープに冒険しているところに好感した。ビートルズフレーバーといえば、#12「Oh Sweet Children」にも感じた。ビートルズとジョン・レノン経由のグルーミー(≒憂鬱風味)で美しいメロディの歌だ。



ここで、オアシス以降の歴史を見てみると、1stアルバム『Definitely Maybe』(1994年)、2ndアルバム『(What's the Story)Morning Glory?』(1995年)が素晴らしすぎて、それ以降の作品はこの2つのアルバムの焼き直しにさえ思えるのだ。


オアシスがデビューした90年代初頭はUS発のグランジのムーブメントがUKを席巻していた。死にたい絶望を歪んだギターで鮮烈にぶちまけたグランジへのUKからの回答が1stアルバム収録曲「Live Forever」だ。ビートルズ直系のメロディを躍動感あふれるギターサウンドと共に歌う。


もちろん、3rdアルバム以降も「Stand By Me」など名曲もあるし、ほとんどの曲が良曲なのだが、1stと2ndの音楽的アイデアを使い回しているようにも感じる。メロトロンやシンセサイザーなど飛び道具を使ったこともあったが、音楽性には微妙な変化しかもたらしていない。


ビーディー・アイ時代はオアシスと比べられることへの葛藤が音楽に見え隠れしていた。だが、今作においては(というよりソロ3枚で継続して)、オアシスの延長線上にある音楽を実にケレン味なく鳴らしている。野球でいえば、オアシス級の即効性のある速球でありつつ、ソロの持ち味であるフォークやカーブも取り入れて魅力あるものにしている。


このリアムソロ3枚目のアルバムである『C'mon You Know』に関していえば、オアシス時代のメインのソングライターである兄ノエル・ギャラガーはもちろん関わっていないが(そもそもギャラガー兄弟の仲が決裂してオアシスは2009年に活動休止に至った)、オアシス時代の音楽性をベースにして面白いところに音楽を転がしているなという印象を受けた。今までのリアムのキャリア上でもっとも冒険しているアルバムかもしれない。



オアシスとブラーはブリットポップ2大巨頭として90年代UKロックシーンで火花を散らした。オアシスのリアムとブラーのデーモン・アルバーンを比べれてみれば、豊かな音楽的引き出しと創造性を持ち、音楽性のフォルムを作品によって様々に変えたブラー(その後のゴリラズも)の方が音楽的な成功を得たといってよいだろう(個人的意見だが)。


日本の最重要ロックバンド"うみのて"の笹口騒音さんの音楽的姿勢はデーモンに近い。笹口さんは4つバンドを持っているが、各バンドで音楽性は違うし、各作品でも違う。


たとえるなら、デーモンや笹口騒音さんは草なぎ剛で、リアムはキムタクだ。デーモンがカメレオン型俳優で音楽性をコロコロ変えていたとすると、リアムはどんな時でもリアム自身であるタイプの俳優だろう。ただ、本作はいつものリアムよりも挑戦的で革新的だと思う。進化したキムタクなのだ。


そう、いろいろと留保が多くなってしまったが、本作『C'mon You Know』を僕は支持する。かつて、「Live Forever」と歌い、生きることへの意欲を歌にすることをやめていない姿勢はキムタクが昔から今までキムタクであるように、本作でも一貫していると思うからだ。


先日に僕がレビューしたバンド「Bloc Party」をアートスクールの学校祭バンドとして過去に揶揄したギャラガー兄弟(のちに撤回)。リアムのやっていることもアートだが、アートでありつつアートを飛び越えて大衆(僕もその一人)に訴えかけるバイタリティの力強さがある。これからの活動も応援しています!


Score 8.2/10.

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