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The Smile『A Light for Attracting Attention』(2022年)

●いつだってトムはロックの最先端


いわずとしれた現在進行形で伝説のバンド"レディオヘッド"のトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、そしてドラムはサンズ・オブ・ケメットのトム・スキナーによる新バンド、ザ・スマイル(The Smile)の一枚目のフルアルバム『A Light for Attracting Attention』をレビューします。


「注目を集めるための光」という意味のアルバムタイトルも、ダークな音楽を演奏しているのにThe Smileというアーティスト名であることも、人を食うような諧謔性があり、トム・ヨークの芸風が色濃く出ている。


サンズ・オブ・ケメットというバンドは初耳だったので調べてみると、現在のUKジャズシーンで人気のバンドとのこと。なるほど、トム・スキナーは、レディオヘッドのドラムであるフィル・セルウェイよりもジャズ的な軽さやテクニカルさがあるドラムだと思う。


また、本アルバムには他にもUKジャズ畑のアーティストが多数ゲストで演奏しているとのこと。ロック界隈ばかり聴いていると気づかないが、UKジャズのシーンは今、百花繚乱状態でとても盛り上がっているらしいという話をよく聞く。音楽の最先端のモードに対してトムもジョニーも感度が鋭いゆえの起用なのだろう。


#1「The Same」でアルバムは幕を上げるが、Radiohead『A Moon Shaped Pool』(2016年)のビートの薄い作風を更に不穏にしたかのような空気感に打ちのめされる。そこから憂鬱さをたたえながらふわりと浮かぶようなアルバムラスト#13「Skrting on the Surface」まで、研ぎ澄まされた神経はナイフのような鋭さを保ちながら音楽を紡ぎ続ける。



メンバー3人が演奏するリズムに実験性がより強いなど、よく聴けばレディヘと作風が違うのが分かる。だが、レディへの新譜として差し出されても違和感なく聴けるだろう。プロデュースとミキシングを手がけたのも、いつものレディへと同じく、ナイジェル・ゴドリッチだし。


ただ、レディへの過去作よりもパンチは無いなとも感じる。トムが魂を吐き出すかのようにヴォーカルに力を込めている「You Will Never Work in Television Again」や#12「We Don't Know What Tomorrow Brings」などの曲はあるものの、アルバム全体を通して分かりやすいフックが少ないように思う。


だが、The Smileの奏でる音楽は、繊細なファルセットを含めてその神経症的な美しさが僕の精神の神経症的な側面にマッチして気持ち良い。それはレディオヘッドの時と変わらない。『A Moon Shaped Pool』期からトムを覆う悲しみのムードが僕の心をきつく締めつける。


カッコいいだけではダメで、何か自分にとっての意味性がなければ特別なバンドにはならないと先日のレビューでも書いたが、それで言うならばレディへもThe Smileも特別なバンドである。この明度と粒度は自分にジャストでフィットするのだ。


レディオヘッドからの影響を公言し、三つ星シェフのように絶妙に自身の音楽に取り入れる笹口騒音さんのバンド"うみのて"など、レディオヘッドの音楽は海外はもちろん、日本のロックシーンに大きな影響を与えている。


ミュージシャンズミュージシャンであるトム・ヨークの創造性はThe Smileにバンド形態が変わっても枯れることはなくカラフルかつダークに花(華)を咲かせ続けている。これからも美メロかつ尖った音楽を届け続けてほしい。


Score 8.2/10.0

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