レッチリ『Unlimited Love』(2022年)
●おかえり、ジョン
Red Hot Chili Peppers、通算12作品目のニューアルバム。
コロナ禍で曲作りに励んでいたためか、充実したソングライティングの曲がそろったアルバムになっている。しかし、曲がたまっていたとはいえ、一枚に17曲収録は多すぎる気もするけど…。
このアルバムに関しては、ジョン・フルシアンテが復帰し、代役だったジョシュ・クリングホッファーが脱退してから最初の作品であることが最大のトピックだろう。"白いジミヘン"とも呼ばれるジョンの演奏は本作でも素晴らしい。
ジョン・フルシアンテが在籍していた時代のアルバムのうち、『Stadium Arcadium』(06')と『Californication』(99')は名盤だと思う。そして、ジョン・フルシアンテが復帰した本作は、この2枚のような歌心ある曲がそろい、この2枚よりもワビサビを感じさせるような渋くてかっこ良いアルバムになっている。アンソニー・キーディスの歌いぶりも抑揚の豊かな歌心と渋い味わいに拍車をかける。
洋楽史上でも偉大なベーシストである"フリー"のベースプレイも素晴らしい。メロディアスに前面に立って主張しながら一歩引いてロー(低音)も支える彼のプレイは、へっぽこベーシストの僕も憧れる名演だ。
ドラムのチャド・スミスも魅力的な演奏をする。ワイルドで抑揚があって、バスドラに魂がこもっているかのようだ。
一曲目の#1「Black Summer」からして佳作だ。彼らの過去曲とメロディが似ている気もするが、たとえメロディが同じでも、このメロディはずっと聴いていたいし、アレンジは最強の楽器隊による演奏だから、文句なく良い。
調べてみると、Black Summerとはオーストラリアで2019年から2020年にかけて起こった大規模な山火事とのことらしい。この曲はブラックサマーが始まった時期にハワイ旅行していたオーストラリア首相へのプロテストソングであると同時に、フリーの生まれ育った故郷オーストラリアへの郷土愛を曲にしたものと言われている。こういった曲の背景を調べていくのも、楽曲のさらに奥深い魅力を知る上でプラスになると思う。何も知らずに楽しめるのも"音楽"だが、背景まで知ることで更に楽しめるのも"音楽"なのだ。
レッチリは元はといえば、『Mother's Milk(母乳)』(89')の評判でオーバーグラウンドの人気を得たアーティストだ。『Mother's Milk』は切れ味するどいアンソニーのラップとジョンのギターカッティング、ファンクなフリーのスラップベースとチャドのドラムが高水準な、ミクスチャーロックの佳作だった。
『Mother's Milk』から、思えば遠くにきたもんだ。以降のアルバムでもその刺激的な音楽の片鱗を見せるものの、刺激よりも滋味を選ぶ曲が多くなった。そして、本作『Unlimited Love』はその最たるものである。
味わい深くなった彼らの作品から彼らの成熟を感じる。しかし、まだ枯れないぞという気概も感じる。これからの活動にも注目したい。
Score.7.9/10.0