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ビリー・アイリッシュ『Happier Than Ever』(2021年)

●1stアルバムの衝撃は薄れたが…


早咲きの才能、現在19歳のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の2ndフルアルバム。


ビョークのようにミステリアスな音楽だが、スケールが大きい音楽であるビョークに比べ、ビリーは多くの曲がもっと狭く密室的な空間で歌っているような印象を受ける。ASMRとしても聴けるウィスパーボイスによるボーカルと、極限までスタイリッシュであるサウンドの音数の少なさがリスナーとの間に親密な空気感を醸し出す。


ただ、1stアルバムは上記の要素が強かったが、今作ではスケールアップした曲も散見される。(インダストリアルの打ち込みが特徴的な#13「NDA」や曲の中盤からスタジアムロックのように盛り上がる#15「Happier Than Ever」など。)1stアルバムで人気が急上昇したため、2ndアルバムは大会場にも映えるようなアレンジの曲を収録したのかもしれない。


ボーカルの表現は心の陰をあけすけに歌う独白にも、ささやかな秘密めいた告白のようにも聞こえる。ローテンションとハイテンションの間では、ローテンションに近いボーカルとサウンドだからこそ、この独白や告白の温度感に沿うのだろう。元恋人からDVを受けた自身の経験をふまえたシングル曲#12「Your Power」は深刻な告白であると同時に社会や同じ女性へのメッセージである温かなアコースティックバラードとなっている。


音に深さがあるのももちろんのこと、表現にもクリエイティブな奥行きがあり、深さがある。音の隙間と言葉の隙間が雄弁に語るのだ。音数の少なさと音空間の隙間の大きさは、足し算の美学のウォールオブサウンドの逆を行く引き算の美学であり、壁(ウォール≒ATフィールド)が無い音楽ゆえの魅力が詰まっていて、直に僕の心を捉えた。心から心に伝わったのだ。


しかし、前作の「bad guy」ほどの一発で心をつかまれるキャッチーでインパクトのある曲は無いように思う。「bad guy」はサブベースの低音が鳴り響き、邪悪ささえ感じる露悪的な音だが、そんなワルさ漂う音や、それとは対照的な"音楽に誠実に向き合う姿勢"を併せもった姿に僕は惹かれたのだ。今作はそのノリは薄れてしまっている。


"今までで一番幸せ"という意味のタイトルに似つかわしくない、ビリーが平然としながら涙を流しているジャケットに、表現の豊かさをそこに見る。こんなに複雑かつ自然体な表現をできる人はそうはいない。次作に引き続き期待したいと思う。


Score 7.7/10.0

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