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THE 1975『Notes On A Conditional Form』(2020年)

●世界を変えたいという真っ直ぐな思い


世界が待望していたTHE 1975の新譜。


僕は過去の『とかげ日記』にTHE 1975についてこう書いてきた。


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僕はThe 1975はハイプだと言い続けてきた。新曲も凡庸なエレクトロポップに毛が生えた程度のエッジーさじゃないか。


メロディはポップだとしても、なぜここまで支持されるか分からない。どなたか、彼らの革新性について解説してください。


Tame ImpalaとThe 1975に関しては、他の大衆ポップスと変わらないエレクトロ・ポップを聴くぐらいならマッドチェスターを聴くし、オシャレなだけのインディー・ポップを聴くぐらいなら、小沢健二やスピッツを聴くよ。だけど、The 1975の"I Always Wanna Die"のサビの筆舌に尽くしがたい気持ち良さ、これはイイ。今の洋楽に欠けているのは、歌メロの即効性だよ。

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しかし、本作を聴いて考えを改めた。音がとてもブライトな良い音なのだ。歯切れ良く高音が出ているし、低音もこもっていない。音楽性に革新性がないとしても、このサウンドプロダクションはモダンだし、革新性がある。


#16「If You're Too Shy (Let Me Know)」とか、80年代サウンドも2020年代になると、こんなにブライトで抜けが良くなるのかと驚いた。


ドラムサウンドがふくよかに良く響き、スネアのヒット音が気持ち良い。打ち込みの音のデザインも洗練されている。リズムが生き生きと響き、自分の心に活力が湧くのを感じる。


20曲以上ある長尺のアルバムだが、音の良さに耳をすましているだけで気持ち良くなり、終わるまでの時間が短く感じられた。


音が良いだけではなく、ソングライティングも優れている。歌メロがいちいちキャッチーなのだ。


歌詞も素晴らしい。経済や社会の課題、地球温暖化問題、宗教観、LGBTQ、ジェンダー平等などに触れる社会派の歌詞。また、"I've always got a frail state of mind(いつも心が脆くなっていくばかりだよ)"と歌われる#4「Frail State of Mind」を始めとしてボーカルのマシューの内面にも迫っている。


本作はグレタ・トゥーンベリの気候変動問題についての演説をサウンドに載せた#1「The 1975」で幕を開ける。穏やかで厳かなサウンドに載るグレタの丁寧な発語の演説を聴いていると、リスナーの僕も自分の行動を振り返って襟を正したくなる。


その後に控えるのは、激しくパンキッシュな#2「People」だ。この「People」の歌詞も社会派だ。


Well, my generation wanna fuck Barack Obama

Living in a sauna with legal marijuana

うん、僕らの世代はバラクオバマを欲している

サウナのような地球に住みながら、合法的なマリファナを求めているのさ


サウナとは温暖化した地球を揶揄した歌詞だろう。その地球に住みながら、地球温暖化の議論はせずにマリファナの合法化を求めていると歌う痛烈な皮肉だ。攻撃的なサウンドだからこそ、より深く胸に刺さる。他の曲でのジェントルで紳士なサウンドから離れた地点で鳴らされる「People」の音楽性は僕にとって新鮮な響きがあった。


最後に収録されている、ゆったりとしたビートで温かに奏でられる#22「Guys」。この曲では、“the first time we went to Japan was the best thing that ever happened”(僕らが初めて日本に行った時のことが今までで最高の出来事だった)と歌われ、自身のバンドを愛していることが伝わってくる上、日本を愛してくれていることも伝わってきて嬉しい。


日本でも新型コロナの影響で世間の目が社会と世界に向けざるを得ない日常になっている。コロナ禍は、80年代以降、政治の匂いが脱臭された日本の文化に、再び社会的な視点を取り戻すチャンスだ。


文化に逃避主義を求める時代は終わったんだよ。僕らは社会と向かい合って、脆くなった社会を再び建て直していこう。その時に本作『Notes On A Conditional Form』が素敵なサウンドトラックになるだろう。


本作の和訳タイトルは「仮定形に関する注釈」だが、より良い社会を仮定形のように夢想するマシューの"世界を変えたい"という真っ直ぐな思いを感じたアルバムだった。


Score 9.1/10.0

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