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暁の猫は流浪の果てに何を見る  作者: クロノネコタ
3/3

軍議

 小島が点在する入り江の沖に、巨大な船が一隻停泊している。

 舳先に立つ一人の女性は、異国の衣を身に纏い、獣の耳と五本の尻尾を持っていた。

 かしずく男たちにも獣の耳と尻尾が見て取れる。

 対峙するのは獅子頭、狛犬のような渋い顔がさらに渋くなっている。

「御前ほどのあやかしにも出来ないことが有ろうとは」

 美しい顔に困ったような皺が刻まれる。

 その表情に魅入られながらも、獅子頭は冷や汗を流しビクビクしている。

「私に何をしろと?」

「能なしではあるまい?」かしずく男の一人が獅子頭に迫る。

「なにを!」怒鳴ってはみるものの返す言葉が無く、黙り込んでしまう。

「ほほほっ、よいよい。成ればなる」

 女は、大きな鉄の扇を軽々と操り涼を得る。

 獅子頭の目の端で水柱が上がる。

「大猿さえ居なくなれば、どうとでもやりようがある」

 脇に控えた男がつぶやく。

「取り巻きに手を焼いておるのではなかったか?」

 帆柱の辺りで控えている男から声があがる。

「トツクニの戦をナカへ持ち込めばどうなるか?」

 別の男が問う。

「ナカでもこの東の地は波風が立っておらぬ」

 また、別の男が言う。

ぬしの野心は風の種になろうぞ」

 獅子頭の後ろに立つ男が言う。

「種は育つか? 刈り取れるか?」

 目の前に立つ男が問う。

「儂に何を刈れと言うのか」

 獅子頭は困惑する。気がつけば、男たちに取り囲まれていた。

「ほう…マオはまだ現れておらぬのか」

 最後の男が独り言の様につぶやく。

 聞き慣れぬ言葉に、獅子頭は怪訝な顔をする。


 空中に布が舞い、落ちる。

 女の目の前の甲板に人が倒れている。


 薄衣に薄紫の打ち掛け、朱い袴と艶やかな黒髪が映える。

 ゆっくりと体を起こす。

 透けるような白い肌、黒曜石の大きな瞳、紅梅の小さな唇の少女が居た。

 少女は周りを見渡し、女を見る。

 黒曜石の瞳からホロホロと涙が落ちる。

 少女は女に手を伸ばし、女は恐れるように後ずさる。

「センリャ…」

「黙りゃ!」

 少女の言葉が終わらぬうちに、女の檄が飛ぶ。

 畏まる男たち。一息船が大きく揺れる。


 船の左舷に大きな水柱が上がる。


「胡嬢、如何しました?」

 女の様子に戸惑う男たち。

〈今の…此奴等は気づいておらぬのか?〉

「構うな。虫を一匹叩いただけじゃ」

「この地は虫が多うござりまするな」

「波風を立てぬための虫である。気にされるな」

「波風を立てねばならぬ。気を回されよ」

「ええいっ。やかましい! 何奴どいつ此奴こいつも同じ顔をしおって! かしらをすげ替えねばこの国が危ういというので、話を聞いておるのだ。我が野心など如何様いかようのものぞ!」

 獅子頭、キレる。

「ふんっ、世迷い言では民は守れまい。我はゼツ」

「我はホン。毛玉に気をつけよ」

「金色の猿は災いの元。我はショウ」

「時は少ない。我はエツ」

「我はユキ。道具を授けよう」

「この道具、お前たちに触ることは出来ぬ。我はチョウ」

「我はトウ。式を授ける」

「我はキョウ。()()()()()自ずから動く」

 胡嬢と呼ばれた女と男たちは船共々消失する。

 後には、小舟に揺られている獅子頭が残された。


 先に水面に叩きつけられた稲荷面の女子衆おなごしは、船に向かい水中を移動していた。

 目の前に大きなモノが落ちてくる。

 着物、黒髪を認める。

〈!〉

 力強く水を蹴り、近づく。

「ひっ…ガボッ」

 少女は女子衆おなごしを見ると、人差し指を口に当て、声もなく口を動かす。

『だいじょうぶ』

 女子衆おなごしが少女にふれてと思った瞬間、少女の姿が消えていた。

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