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暁の猫は流浪の果てに何を見る  作者: クロノネコタ
1/3

先の見えない状態で、はじめてます。

とりあえずの目標は週一アップで3か月…続くのか(・・?

血を流したような夕焼けに、瓦葺きの屋敷の影が浮かび上がる。

 薄ヶ原の穂を揺らす風が、不吉なものの到来を告げるようであった。


 日もとっぷりと暮れた頃、屋敷の一際太い梁のある屋根裏で、音もなくうごめく影がある。影たちは、梁の下の板の間の様子を窺っている。

 板の間には、座が五枚ほど並べられている。


 上座である床の間には、鎧に身を包んだ巨大な猿が胡座をかいている。

 大猿と対峙するように、白塗りののっぺらぼうが直垂ひたたれ姿で控えている。

 大猿とのっぺらぼうは、酒を酌み交わしつつ小さな膳を囲んで、何やら談義の最中である。


 大猿が勢いよく杯を空ける。

社守(やしろのかみ)、主には殿しんがりを任せるが、よくよく手配いたせよ」

「大殿、手配をしておる暇なぞござらぬよ…」


 社守やしろのかみの言葉が終わらぬうちに、天井から黒い塊が二つ落ちてくる。


「ほぅ、何者ぞ」


 落ちてきた塊の上に虎縞の毛玉がフワリと乗っている。

 虎縞の毛玉は、蝙蝠のような小さな羽が一対と団子のような尻尾、胡麻のような目鼻が付いていた。

「ビョウゥゥ」

 虎縞の毛玉は勝ち誇ったように声を上げる。


「おおっ、びょうよ。こっちゃ来」


 びょうと呼ばれた虎縞の毛玉は、ドングリのような小さな足でトコトコと社守やしろのかみの元へと走り寄る。


びょうよ、儂の下で働かんか」

「大殿、こ奴は姫の守りゆえ、姫が首を縦には振りますまい」

「ふんっ、そうか。では、社守やしろのかみ後は任せた」

「はっ」


 社守やしろのかみの返事と共に大猿は跡形もなく消える。

 落ちてきた黒い塊に目をやるも、跡形もなく消えていた。


「ふむ。びょうよ、我は時を稼がねばならぬ。姫を頼む」

「ビョウゥ」


 社守やしろのかみは、びょうと共に稲荷面の女子衆の集う座敷へ入ると、奥方を筆頭に戦装束の女たちが控える。

 びょうは姫を奥方の後ろに見つけると、社守やしろのかみの手からするりと逃れ姫の元へと駆けていく。


「奥、姫と共に逃れてはくれまいか」

「殿、何をおっしゃります。殿をお守りするのが私の役目。何があっても離れませぬ」


 奥方は、するすると社守やしろのかみに纏付き、鎧に変化する。

「奥、すまぬ。だが姫は何としても守らねばならぬ。皆と共に逃げてくれ」

父様ととさま」涙ぐむ姫。


 社守やしろのかみと違い、美しい顔がある。姫の着物が変化する。

 今の姫の様子は〈稲荷面の女子衆と同じ戦装束〉である。


「ビョウゥ」

「うむ、びょうが同行するのならば心配はいらぬな。姫、姫の力を欲しているものが居るのだ。行ってくれるな」


 社守やしろのかみの確認とも命令ともとれる言葉に、姫は目に涙をため唇をかみしめ頷く。


父様ととさま母様かかさま

「先ずは、この館を出ねばな。皆の者頼んだぞ」

「「「「「はっ」」」」」

「ビョウゥ」


 びょうの声と共に屋敷が暗転する。

 しかし、屋敷の風景が変わる様子はない。

「ビョッ…」

 びょうの驚きの声と共に、稲荷面の女子衆が身構える。


 ヒューーーーーーーッ

 空気を切り裂く音が響く。


 ドッドッドッドッドッ

 屋敷を取り囲むように、地面に刺さる音がする。

 緊張が走り、改めて身構える。


 バリバリッバリッ

 庭に刺さり、建物を突き抜ける巨大な鉄の〈槍〉


「ぎゃあぁぁぁ」庭に展開していた稲荷面の女子衆が次々と槍に貫かれ、焼け落ちる。


「なんと、鉄槍てっそうか」

 社守やしろのかみののっぺらぼうの顔が赤黒く変わる。


「獅子頭、居るか」

「はっ、ここに」

「女子衆を頼む」

「殿」

びょう、姫を…東瀛とうえいを頼む」

「ビョウゥゥゥゥゥ」


 びょうの咆哮に呼応するかのように鉄槍てっそうを目掛けていかずちが走る。


「奥」

「はいっ」


 社守やしろのかみの周りに風が集まる。

 旋風が巻き起こり、残った鉄槍てっそうを薙ぎ倒す。


父様ととさま母様かかさま…」


 獅子頭の吐く息が黒い霧となり、辺りを包み込む。

 びょうは、霧の中心にいる東瀛とうえいの懐に潜り込む。

 獅子頭の口の端が奇妙に上がるのを見たびょうは、更なる咆哮を上げ雷を呼ぶ。

 そして、闇が世界を支配する。

世界が変わる、自分も変わる…

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