世の中の音
時は今より未来。
少子高齢化が着々と進むこの世の中。情報化社会となった今日、世界中の人々が注目するものがある。
それは音楽だ。
「ねえ、その新曲私にも聞かせてよ。」
男女のカップルが1つのイヤホンをつけていちゃつきながら音楽を聞きながら歩いている。
音楽と言っても合唱ではなく、バンドだ。
バンドが流行った理由。それは、「ギターが弾けたらカッコいい」や「何か新しいことに挑戦してみよう」と始めたものもいるが、人々が一番影響を受けたのが、WUCだ。
WUCとは、毎年年末にイギリスのロンドンで行われるその年のNo.1ミュージシャンを決める大会だ。
この大会は20年前から始まったもので年々大会の規模も大きくなってきており、バンドをしている者なら誰もが憧れる大会だ。
奏多も家の影響で小さい頃から音楽があり、楽器が身近にあった。
学校の通学時も自分のヘッドホンを耳に当て、音楽を聞きながら登校するのが当たり前の生活になっている。
登校途中の交差点には大きなスクリーンがあり、そこではいつも様々な情報が流されている。
今日スクリーンに流れているのは、姉さんたち『SKY』の新曲のMV。
今では、街のあらゆる場所で音楽に関する情報が溢れている。
奏多は、多くの人たちがいる中、人と人との間を掻い潜って駅に向かった。
駅に着き、改札の前にやってくると、流石に通勤時間だけあって多くの人で込み合ってなかなか目当ての電車に乗り込むことができずに時間だけが過ぎていった。
ようやく電車に乗れたのは、登校時間にギリギリ間に合うか間に合わないかの時間だった。車内は通勤ラッシュの時間が過ぎていたが、まだ人が多く椅子に座ることはできず、立つ羽目になった。
「ねえ、『SKY』の新曲聞いた?」
「聞いた。特にサビのとこが良いよね。」
電車の中では、『SKY』の新曲や車内に貼られているポスターの話が聞こえてきた。
さすがは人気スターといった感じで話を聞いていて悪い気はしなかった。
「でも、私はKANADEの曲がいいと思うな。」
しかし、中には他の人とは別の意見を持っている人もいるようだった。
ある女性が話していたKANADEとは、インターネット上で曲を投稿している投稿人の仮名だ。
「でもさぁ、この人色々謎が多くて不気味じゃない。」
「別にそんなことないよ。今の時代、仮名で動画投稿するなんて当たり前だし、私はKANADEのそんな不思議なとこが好きなの。」
奏多自身、小さい頃から様々なアーティストの曲を聞いているが、KANADEのことはあまり知らない。
KANADEは、2年前に突如ネット上に現れ、いきなり投稿した曲の再生回数が100万回を超え、有名になった。
その後も、1か月に1回、または、2か月に1回のペースで曲を投稿を繰り返し、挙げられた曲は全て再生回数が平均100万回を超えるネット上での陰の有名人だ。
KANADEは、様々なジャンルの曲をつくり、多くの人に聞いてもらえるように工夫を凝らしている。
これまでに分かっていることは、国籍が日本ということだけで、それ以外は全て謎に包まれている。
ネット上では、プロのアーティストが名前を変えて投稿しているのではないかと噂が立っている。
一部の音楽プロダクションは、契約を結ぼうと動いているが、話を聞こうにも足取りすらわかっていない。
この他にも車内では海外ミュージシャンの話や今人気のミュージシャンの話など、音楽の話題が絶えることなく聞こえ、その話声が耳障りになった奏多は、ヘッドホン耳に当てて音楽を聞くことにした。
音楽を聞くと心が落ち着くなどと言われているが、奏多にとって音楽を聞いているときがまさに至福の時なのだ。
スマートフォンをいじっているうちに電車は各停車駅に止まっていき、気付いたときには車内の人の数はだいぶ減っており、空席も目立っていたのでこの機に乗じて空いている席に座った。
ようやく座れてホットしていた俺の目に映ってきたのは、同じ号車の隅に立っている女の子だった。
彼女は見た感じ奏多より背が高く黒髪ショートヘアで毛先のブリーチがピンクの髪型で奏多と同じブレザーの制服を着ていた。
「同じ学校の人かな。」
手足が細く、顔も小さく、まるでモデルのような体型。
どこかで見たことがあるような気がするが、奏多は思い出せなかった。
彼女に見とれていると車内アナウンスが流れ、しばらくして停車駅に到着した。
扉が開くと、僕は電車を降り、改札を出て学校に向かおうとしたが、
「あれ何だろう。」
駅を出たところで何か落ちているのに気づき腰を落とした。
近くにいる生徒もそれに気づいてはいたが、全員見ぬふりをしてその場を後にしていた。
何かと思い手に取ってみるとそれは顔写真付きの学生証だった。
しかも落とし主はさっき電車の中で見た人の物だった。
学生証の氏名欄には"瑞樹歌唄"と書いてあった。
拾わずにおいておくわけにもいかないので奏多は学生証を拾って学校に向かおうとすると、学校から朝礼開始のチャイムが鳴った。
それを聞き奏多は急ぎ足で学校に向かった。
「これからは気をつけろよ。」
学校に着いて早々、奏多は正門の前で生活指導の鬼瓦哲司から説教を受けていた。
やってしまった。実は、今日奏多は東名大学付属学校に転校してきたのだ。
後から聞いた話だが、鬼瓦は普段から厳しいが、遅刻には特に厳しいことで有名らしい。
少しくらい遅れたくらいでうるさい先生だ。
「聞いてるか転校生。」
「はい、聞こえてます。」
転向初日という言い訳で説教は早く終わり奏多は、職員室で担任の先生に挨拶に向かった。
「転校早々散々だったな。」
先生は、冗談交じりに俺の肩を強く叩いてきた。
朝から口うるさい先生やテンションの高い先生と話したせいか疲れた。
「蒼井奏多です。これからよろしくお願いします。」
ホームルーム。奏多は、教室で軽く挨拶をして空いている席に着いた。
「奏多?」
空いている席の横を見ると、見覚えのある顔がそこにはあった。
「玲奈。」
偶然にも隣は幼馴染の福井玲奈だった。