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薄氷の王子  作者: 雨月
2/2

王子目線

最近よく兄様に連れ出される。

理由はもちろん、よく分かっていた。

僕のためだと。


でも、無駄だと言う事を兄様もそろそろ知るべきだ。

僕の存在すべてが人々に疎まれて嫌われている。

半年前のあの事件から、僕の動かない表情に感情。

低い体温に、恐ろしい氷の魔力、そして容姿すべてが疎まれている。


だから何処に行っても歓迎されないのは慣れてしまったし、元々そんなに人に好かれる訳でも無かったけれど。


元々この容姿で有るが故に、幼く拙い言葉を喋ると嘲笑されることが多かった。


「美しい外見に寄らず、案外普通ですのね」

「まぁある程度拙い方が、人間味が有ると言うもの」


父や母、兄の知らない所だからと不敬な事を言われる。

そんな言葉の意味を飲み込める年になったら、喋ることがとても恐ろしくなった。

父様や母様兄様には申し訳ないけれど、僕が喋らないのは、とても恐ろしいから、只それだけだった。



「ヴィオレット、今日は私の友の家に行こうと思ってね」


馬車の中で流れる風景を見ていると兄様が穏やかに微笑んでいた。

僕も、そんな風に微笑めたら、なんて考えるのは兄様を羨んでいるからなのかな。


僕は黙ったまま、コクリと頷いた。


「昔からの付き合いでね。ヴィオレットは知らないかもしれないけどね。」


最近は父と共に公務へ行っている兄様はとても忙しい。

それなのに少しでも暇が出来たら僕を連れ出すのだから、本当に申し訳ない。


そして兄様はこれから向かう家のことを教えてくれた。

ローズヴェルト公爵家、嫡子

リエル・ローズヴェルト


兄の昔からの友人らしく、王家主催のお茶会に5歳のころ出会ったらしい。

とても頭がよく、王族である兄様を言い負かすことの出来る切れ者だそうだ。


そしてローズヴェルト家は

とても庭園が素晴らしいらしい。

兄様は男のくせに花が好きな僕のために、友人に頼んで庭園を見せてもらう約束をしたのだと言った。


第二とは言え王子が、花が好き等という情報を教える程信頼しているだと思うと、また兄様を羨む気持ちが胸を締め付ける。


(僕もいつか、そんな風に信頼できる人に出逢えたら…たった一人で良いから。なんて…僕はなんて馬鹿なんだ。)


そんな事を考えていたら僕らを揺らしていた馬車が静かに速度を落としゆっくりと止まった。


馬車から降りると、兄様と同じくらいの年の人が待っていた。


「急に連絡を寄越したかと思えば、本当にヴェールは変わらないな」


「リエル」

豪快に笑う彼に兄様も年相応な笑顔を浮かべて、悪い悪いと肩を竦めていた。

金髪に端正な顔立ちで、兄様とは系統の違う美丈夫だ。

そういえば、僕の7歳の誕生パーティーで一度簡単に挨拶をした気がする。

珍しく兄様が嬉しそうに話していたから印象に残っていたのかもしれないが。


「ようこそ、御出でくださいました。ヴィオレット王子。」


コクリと頷くと、さあどうぞと屋敷を案内してくれる。


「我が家の庭園は様々な花が有りますが、薔薇に一番力を注いでおります」


案内しながら、庭園について教えてくれてた。

「薔薇かぁ、いいね。あ、そう言えば君の妹君は?」

「あぁ、うちのお姫様はお転婆だから何処にいるのやら…」

苦笑しながら部屋に呼びに行ったら居なかったと言いながら可愛くて仕方ないと言うような表情だ。

「それは残念…パーティーの時も体調を崩して来られなかっただろ?ヴィオレットと同い年だし仲良くなれればと思ったんだがな」

どうやら兄様の目的はその令嬢と会せることらしかった。


でも、僕は少し息を吐いた。

だって令嬢達は苦手なのだ。僕の顔を見て見惚れながら、僕を悍ましい者で有ると思ってるらしかった。

そんなの僕に言われせれば相手の方が怖い。


「この先が庭園ですよ」

そういったリエル・ローズヴェルトの声と同時に、先からとても楽し気な笑い声が聞こえてくる。


「素敵よ!!リリーとても似合ってるわ!!」


1人の少女と1人の女性が花が溢れる場所に座り笑いあっている。

少女は屈託のない笑顔を浮かべて、服装から侍女だと思われる女性の頭に花冠を乗せて満足げだ。

何がそんなに面白いのか分からないがずっと2人で楽しそうに笑い合ってる。

そんな様子は柄にもないけど、まるで花の妖精みたいだった。


リエル・ローズヴェルトがここにいたのかと笑い、声を掛ける

「おーい!ローゼメリー!!」

リエルの声に反応した少女が立ち上がり、駆けてくる。

僕の見てきた令嬢達からは想像もできない姿に、ちょっと呆然としてしまう。

「お兄さま!!」

髪が風で広がることも気にしないで

ドレスから足が見える事気にせず兄の元へ走り抱き着く

そんな少女をリエルも抱き止め、抱きながらくるくると回ると少女から嬉しそうな悲鳴が上がる。


「ここにいたのかローゼ!」


「ふふふ、ごめんなさいお兄様」


全く悪いことをしたと思っていない風に屈託なく微笑んだ。


ピンクゴールドの髪が風に揺れながら兄に抱かれて笑う少女に僕は目を奪われる。


「何をしていたんだ?」


リエルは愛おしそうに妹に微笑みかけると、

ローゼメリーは自分の頭に付けていた花冠をリエルの頭に載せて満足げに微笑んだ。


「お兄様にさしあげます、お花の冠を作っていたの」


「ああ、だからリリーの頭にも花冠があるんだな」


そう言って微笑みあう兄妹には僕たちの存在は一切ないみたいで兄様は呆れたように笑った。


「おいリエル!可愛い妹君をそろそろ紹介してくれないか?」


兄様の声で、妹を下した。


「妹のローゼメリーだ」


「ローゼメリー・ローズヴェルトと申します」


来客の存在に気づかなかったのか、すこし頬を染めて淑女の礼をとるのは令嬢そのものだ。


「初めまして、レディ。ヴェール・スティアートと弟のヴィオレット・スティアートだ。弟は君と同い年なんだ。よかったら仲良くしてほしい」


その兄様の言葉で僕の方を向いたローゼメリー嬢は先ほどの様に屈託なく笑って頷き


「こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致しますね。ヴィオレット様」と優しく微笑んだ。

























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