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思い
私はジルに答えた
声を出してはいけなかった
それは、分かっていた
そんな事をすれば…?
私はどうなるのだろう
『…お願い、ことばを出さないで』
『…分かった』
うまく、声を出さないで、答えられたらしい
『いい?今から僕の言うことを聞いてくれる?』
『…聞く…』
『…こんなにすぐに、事態が動くとは思っていなかったんだ』
『どうしたの?』
『もし、もしもだよ?僕を少しでも助けてくれる気があるなら…』
何の話だろうか…ジルの切羽詰まる思いだけが、伝わる
言葉が出ない
『僕の、番になってくれないだろうか』
「何それ?」と、言いたいところを私は飲み込む
『ふ、むむ?』飲み込み過ぎて、言葉でもつぶやきでも何もない、変な言葉が流れ出る
「何それ?」と、聞こえたのは私の声ではないと思うのだけれど、
絶対、聞こえた
滑るように美しく、でも確かに誰かが近づく気配がした
「あ!」
と言う声がして…
プツンと、何かが途切れてしまった
元から何もなかったかのように