ジルと私
「芙蓉?」
黙りこんでしまった私に、ジルが話しかける
「ジル…」
「何?」
「ここから、どうやって戻ればいいの?」
「うーん、多分目が覚めれば戻っているはずだと思うけれど」
「…瞑想中だったの…」
「芙蓉は、瞑想中だったのか…ものすごい聖者なら、永遠に瞑想しちゃうかもしれないけど、どうだろう?集中力が途切れたら戻れるんじゃないかな」
まぁ、そうだろう。私は巫女になるための学習中の瞑想だ。どれだけ長く瞑想できても、数時間は無理だろう。時間の問題か…
「そうだね、色々とありがとう。ジルは目が覚めそう?」
「まだ大丈夫かな、今は芙蓉の側にいてあげるよ」
ジルが笑う
ジルは翼竜だけれど、表情がよくわかる気がする
そして、とても可愛い
始めは、意志の疎通ができるとはいえ、翼竜と出会ったことなどないので恐怖心もあった
ただ、未知のものは魅力的でワクワクする
そして、何よりジルは穏やかで優しい
「ジルが自分の世界に戻ったら、もう二度と会えないのかな…」
ふと、つぶやいてしまった
「そうだねぇ…普通に考えたら、夢の中で同じ人に会うのは難しそうだね」
ジルは困ったような顔をして答えるが、少し楽しそう…?
「芙蓉しだいかもしれないけど」
「私しだいって?」
「芙蓉は、瞑想中だと言ったよね?夢を覚えているかどうかは、目覚めてみないとわからないけれど、瞑想中なら、意識はある程度コントロールできているだろうし…」
「瞑想中に見たことは、確かに覚えているけれど」
「あとは、芙蓉が僕と繋がっていたいかどうかだよ」
『ジルと繋がっていたいって…』
なんだろう、この恥ずかしいような気持ちは…
「それにしても、芙蓉は僕を怖がらないね」
「ジルは怖くないもの」
「どうしてそう思うの?」
「…優しい、目をしてる」
「そう?でも、それなら芙蓉もすごく自然で…」
ジルが、ごにょごにょ言った?何?
私の顔が疑問符になったので、ジルは、ため息をついて
「…かわいいと思います…」
「…そ、そんな…」
私は、今どんな顔をしているのだろう…顔が熱い…嬉しい
「あの…立場上、不謹慎なのですが、ありがとうございます…」
ジルは、そんな私を見てふわっと笑った
それから少しの間、私とジルはそれぞれの住んでいる世界のことについて話した
ジルの世界では、翼竜や獣人や、いわゆる人類や
けっこう、色々な種類の生き物が意志の疎通ができる世界だが、
小さな争いもあれば、仲良くなることも珍しいことではないらしい
力を頼りにするものもあれば、当然恐怖心を持つものもいる
悪い奴はどこの世界にも、どんな種の中にもいる
そんな話にとても共感する
ジルはジルで、私の巫女という立場に興味を持ったようだった
突然、ジルが何かの気配に気づいたようだった
私の中にも何かが動く気配がした
「芙蓉、時間がきたみたいだね」
ジルは笑顔だった
「ジル、私ね…」
『また会いたい』
その言葉は、声にならなかった
意識が引き戻されるその時、
ジルは笑顔のまま、ゆっくり翼を揺らめかせたように見えた
それは、さよならなのか
再びの出会いを思ってくれたのか、知る術はなかった
もしも、読んでくださった方がいたら
ありがとうございます