襲われたんだけど
「ねぇ、なんでそんなに死にそうな顔してるの?」
「ちょっと話し掛けないでくれるか?」
「う、うん」
あー死にてー、どーしよ、死のっかなー。
同人誌母さんか弟に絶対見られる、死にたい、てか死んだも同然だな。うん死のう。
「ちょっとちょっとたけし、なんか森から抜けるどころか、どんどん森の深くまで入ってる気がするんだけど……」
「え」
マジだ。とりあえず歩こうとか言っちゃったけど、さっきいた場所より全然鬱蒼としてるんですけど。まじミスったな。どうしよう泣きそう。
「ねぇ、私たち出れるよね?この森から出れるよね?」
「だまれ!そうやって俺の精神を追い詰めるな!訴えるぞ!」
「とりあえず歩こうって言ったの誰よ!どうするの、この後モンスターなんか出たら!どうするの!ねぇ!?」
「おいあんまり騒ぐな、騒いだらモンスターが寄ってくるかもしれないだろ」
「さっきまでたけしも騒いでた癖に」
俺の得意技は自分を棚に上げることです。てへ。
「しかし参ったな……、マリア、本当にごめんな。俺がとりあえず歩こうと言ったばかりに」
「えっ……いや、別に、あのままあそこに居るよりは、ねぇ」
「そうか、じゃあいいや」
「ちょっと!私の優しい気遣いを!」
そして暫く無言で歩く。時折マリアが俺をチラチラ見て「なにか話せー、暇だー」と訴えてくるが、無視。
「あ!」
突然マリアが大きな声を出した。さっき騒ぐなって言っただろ。
「ねぇねぇ!なんか光があるんだけど!町かな!村かな!ちょっと先行くね!」
「あ、おいバカ!」
マリアの駆けて行く方を見ると、驚いた。二つ赤色に光る点が見え……ん?
「ねぇねぇ!さっきからあの光私たちの方へ来てるみたいよ!助けかしら!」
「……」
「ねぇねぇ!この光よく見ると目みたいなんだけど……え?目?」
「マリア」
「はい」
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺たちはダッシュで逃げた。
後ろを見ると熊にも似た、一軒家ほどの高さがあろう体躯の生き物が追ってきていた。やばい速い速い。
「おいマリア!なんか攻撃魔法とかねぇのか!?」
「うぇぇぇぇん、あるけどいま使えるかどうか……」
そうかこいつ制限掛かってるんだよな。
後ろの影がどんどん大きくなる。
くそっ、もう追い付かれる!
「ねぇ、たけし。一か八かで死んだフリしない?」
「バカお前それ死ぬからホントに」
「じゃあ木登りは?」
「俺の元々いた世界にアイツと似たような生物居たが木登り得意だぞ」
「もう死亡確定じゃん!?」
バイバイ。
「あーんもー!制限掛かってなきゃたけしを置いて逃げてたのに!なんで足まで遅くなってるのよ!」
「おい、てめ、責任をとって冒険の手助けをしてくれるとか言った奴はどこのどいつだ」
「誰よ、そんなバカみたいなこと言うやつ」
こいつぅ、どうしようこいつを突き飛ばして熊みたいな奴の餌にしようかな。その間に俺は逃げる、完璧だな。
「ということでさようなら、マリア。お前顔と体だけは良かったからな」
「えっ、ちょっちょっ、なに言って」
「うるせぇ!急を要するんだよ!さっさと餌になれよ!」
「ちょっと酷い!流石に酷い!キミ人間じゃないよ!」
「人ってのはな、命が危機に晒されると変わるモノなんだよ」
「やだ!ねぇ、死にたくない!責任とるから!お願い許して!」
我ながら酷いと思った。でもまさか、本気でそんなことするわけないじゃん、え?ホントだよ?
「やばいやばい追い付かれるっ!」
真後ろにその影が迫っていた。
俺は目を瞑った。もう殺されるかな、死んだかな?もう死んでる?もう死んだか。
目を開けた。
「あり?生きてる?」
横を見るとマリアも肩で息をしながらポカンとしていた。
「生き物は?」
後ろを見ると熊のような生き物は、既に絶命していた。
その巨体の上にショートの綺麗な金髪が眩しい女の子が立っていた。
「驚いた……どうしてここに人族が」
その女の子は俺たちを眺めて、ひどく動揺していた。