表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お揚げの乗ったSS  作者: きつねそば
7/29

絶望的な時こそポジティブに

人里から、少し離れた山の中。木々に囲まれ、チョロチョロと小川の流れる風景を見渡す。

季節は秋。まだ色づきはじめたばかりの木の葉がチラホラと、大地に乱雑で自然な絨毯を敷き始めている。自分達の歩く靴跡さえも、ここでは自然のドゥードゥルアート(『落書き』を意味する美術用語)に過ぎないのだ。

整備された人間社会では味わえない、自然の美しさがここにはあった。

「…あのさ、安藤」

山の景色に魅せられた長い沈黙を突き破ったのは、共に山登りをしている友人、神導寺広人だった。

「俺達…遭難してね?」

疲労感をにじませる彼に向かって、私は言った。「山に抱かれているだけだよ」と……

「いや遭難してるだろこれ!どうするよ!もうすぐ日が暮れるって!!」

腕時計を一瞥し、彼が声をあらげる。私は極力落ち着いた声でこう言った。

「まぁいいじゃないか。遭難なんて、人生の中でなかなか経験できるものではない」

「いや人生最後の経験になりそうなんだけど…」

うまい。

「いいよ感想はっ!!つかその変なしゃべり方やめろうっとおしい」

「わかったよ、君がそういうなら仕方がない。自然体で話そうか」

私こと安藤ゆかりは、体を回転させ、優雅に髪をなびかせる。

「…その無意味に絵になる動きと台詞回しは、間違いなくいつものお前だよ…」

彼はため息混じりに感想を述べた。

「ふむ、確かに僕は普段はこうだが、たまにドキリとするくらい儚いときもあるんだよ?」

「それは自分で言うことか?」

「君が知らないのだから、言うべきだろう」

「そうかい…」

彼は倒れていた木に腰かける。

「で、どうする?このまま日が沈めば、暗闇で下手に動くと危険。かと言って野宿しようにも、俺らは着の身着のままだ」

山の夜は冷える。防寒具がなければ、凍えてしまうであろう。

「僕と抱き合うかい?」

「できるかっ!!」

彼は即座に否定してきた。実に早い対応だ。僕は少しだけショックだよ。

「嘘つけ、目が笑ってるぞ」

「バレては仕方ない」

君をからかうと実に楽しくてね。

「あまり良い趣味とは言えないな…」

「そうかい?」

この上なく楽しいのに。君もやってみるといい。

「誰にだよ!」

「君にだよ」

「自分いじって楽しむってどんな永久機関だっ!!」

彼はツッコむと同時に立ち上がり、ハァハァと息を荒げた。

「あ~もういいや、行くぞ」

「ん?どこにだい?」

「決まってるだろ。街にだよ」

言うと彼は空を指差した。若干暗くなりかけの空に、夕月が浮かんでいる。

「月は東から昇るから、街はあっちだ」

「ほぉ、やるね、君。感心したよ」

「別に凄くねーよ。たまたま月が目に入っただけだ」

急ぐぞ、と。彼が急かす。驚くほどあっさりと、僕達は山を抜けた。

「どうしてあんなに迷ったんだろうな…」

「知ってるかい?山の神様は女神なんだ」

「へぇ…それがなにか関係あるのか?」

何もわかっていない彼を見て、僕は自然と笑みがこぼれる。

「それはね、内緒さ」






山の神様は嫉妬深いことで有名なのでした。

めでたしめでたしノシ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ