おかえり。
ドアを開けると猫が座っていた。
毛並みのそろった 可愛い白猫だった。
君が 帰ってきた。
ごめんね。急に泣き出したりしたら、びっくりするよね。でも、涙が止まらないんだ。そんな不思議そうな顔で見ないでよ。ほら、その顔も君そっくりだ。
「おかえりなさい。」僕はそういって君を部屋に入れる。様子をうかがいながら何も言わず部屋に入る君。そして机の上の写真立てを見て君は、ないた。
「そうだよ、それは君だ。」君はもう一度、大きな声でないた。
お腹すいてる?
僕は君に聞く。君は こくんとうなずく。ちょっと待っててね。
近くのスーパー空いてないしなあ・・・どうしよう。
これ 食べるかな?僕は戸棚からツナの缶詰を出した。
僕はプラスチックのお皿にツナ缶を開けた。机の上にそれを置くと君はにおいをかいだ。
そして 可愛く舌を出して食べ始めた。
そうだ 君はマグロが好きだったね。
残さず食べ終わると君は満足げな顔をして僕の方を見た。じっと見つめてくる。その瞳はやっぱり。君だ。そして深々と頭を下げた。それは、ありがとうにも見えたし、ごめんなさいとも見えるお辞儀だった。
いいよ。大丈夫。君はちゃんと戻ってきてくれたじゃないか。
僕がそういうと君はまたないた。
それから 僕と猫の君との生活が始まった。
行ってきます。待っててね。帰りに君のご飯を買ってくるね。
「にゃー。」
また 僕の一日は楽しいものになった。
君が僕を待ってる。また君と話ができる。君の声を聴ける。
それで十分。僕には君が必要なんだ。
君は人間の時と同じで可愛い。ずっとそばにいて欲しいと思っていた君が人間としてじゃなくてもこれからずっと隣にいてくれるんだと思うと幸せでたまらない。
「ただいま。」
僕はそっとドアを開ける。
「にゃー!」
君はソファの上で丸くなっていた。なでてやると、照れたような顔をして座った。
君は僕の膝には座らない。僕に寄り添っても来ない。舌を出して顔をなめることもない。ただいつものように僕のそばに座って、時々僕に向かってにゃーと言う。
そう、君が生徒だった時と同じ。
もちろん僕もキスしたりしない。頭も撫でない。抱っこもしない。だって君だから。
しないって宣言しちゃうのは良くないかもな。しないんじゃない、まだできないんだ。
これからちょっとづつでいい。もっと君を知りたい。
そう思いながら隣にちょこんと座った君を見ていたら、君は極まりの悪そうな顔で僕を見てきた。
なにそれ。笑える。
とでも言いたそうな顔だ。
僕は自分のご飯と君のご飯を用意する。君には君用の缶詰。もちろん中身はマグロ。
一応 買ってきたミルクも器に注いでおいた。
いただきます。と僕が言うと君は小さな手を目の前で合わせて小さな声でにゃといった。
そして大好きなツナをパクパクと食べ始めた。
「ごちそうさま。」
「にゃ。」
結局君はミルクを一口も飲まなかった。そういえば、君は牛乳が嫌いだって言ってたね。
今度からはミルク出さなくていいか。
おなかにいっぱいになった僕と君はソファでゆっくりしていた。すると君は突然起き上がって、本棚まで行くと何かを引っ張り出してきた。それは 君が好きって言っていたDVDだった。
見るの? 時間遅いけど、まあ明日土曜日だしいいか。
僕はテレビをつけてDVDをセットした。君はソファに飛び乗ってさっきみたいに座った。
そして目をキラキラさせてじっと映画を見ていた。
ちょっとだけ、僕はそばによった。君の体温が感じられるくらいまで。
君が知りたい。君を感じたい。
映画が終わると君は寝てしまった。そうか、一日のほとんど寝るんだもんな。
僕は君を優しくベットまで運んで、小さな毛布を掛けた。
おやすみ。僕も君の隣に横たわって、寝た。
カーテンの隙間から差し込む光で僕は起きた。こんなによく寝たのは何日ぶりだろう。
君の夢を見た気がする。僕の心は幸せで満ち足りていた。
君は僕が起きたのを感じ取ってか、もぞもぞ動き始めた。そして大きなあくびをすると、
可愛い手で目をこすって、起き上がった。
「おはよう。」
「にゃあ。」
また君との一日が始まった。
今日は車に乗ってどこか行こうか。君と桜を見に行くのもいい。お弁当でも作ろうかな。
小さいおにぎりの中に僕はツナを入れた。鰹節のおにぎりも作った。
卵焼き、焼き鮭、ハンバーグ、トマト。
全部君が食べられるようにあまり味付けはしなかった。
もちろんネギとか玉ねぎは入れないようにした。
君は僕が作っている間、じっと僕をいていた。
たまに振り向いてやると、君は照れてソファの影に隠れた。
でもまた出てきて、じっと僕を見る。僕が気になっているんだか、お弁当が気になっているんだか。そう思いながら、もう一度振り向くと君は「私はそんなに食いしん坊じゃないっ」
とでも言いたげなちょっとすねた顔で見返してきた。かわいい。
「わかってるよ。」
僕はそう答えた。
君は
それならよろしい。
と答えたようだった。
お弁当を詰め終わった。僕は君と車に乗る。桜が綺麗な近くの公園を目指す。
君は楽しそうに笑った。
公園の近くの駐車場に僕は車を止めた。ドアを開けてあげると、君はさっと飛び降りた。
え。まって。
気付くと君を抱きしめていた。君は驚いた顔で僕を見ている。慌てておろして、君に言う。
君がどこかに行っちゃうかと思ったんだ。また、僕の見つけられない場所に。
君は「んなわけないでしょ。」とにゃーとないた。
一緒に歩いた。桜を見ながら。ちょっと身長差ありすぎて、手を繋ぎたかったけど、繋げなかった。まあ でも 君が喜んでいる顔が見られてよかった。
君の顔に桜がついた。君はぶんぶんと顔を振って払おうとしたけど落とせなくて立ち止まって手で顔をこすった。
カシャ。
君は僕のスマホのシャッター音に驚いて、こっちを見た。
「な、、なんでとるのっ」君はそう伝えると僕からスマホを取ろうと跳ねた。
「いいじゃん。かわいかったから。つい。」
君は僕のスマホをつかむと離さなかった。
「わかったよう。消すから。返して。」
そういうと君はスマホを離してくれた。
僕は写真を消すふりをして、ポケットにしまった。君は相変わらずじと目でこっちを見ていたけど、また顔の桜を取ろうと頑張り始めた。
結局 桜の花びらは君の顔のとこについたままだった。君は僕に花びら取ってっていうけど僕は可愛いからそのまんまでいいよって君に言う。君は、桜を取ることを諦めた。
「そろそろお弁当食べようか。」
「にゃあ!」
二人で芝生に座ってお弁当を食べた。今日は特別。僕と君は同じものを食べる。
君は 幸せそうに ツナのおにぎりと卵焼きを食べた。僕がハンバーグを食べていたら欲しそうな顔していたから、箸で一口あげた。
君は照れ笑いで、それをパクっと食べた。
これって 間接キスじゃ・・・僕は ちょっと赤くなった。
こんなことで赤くなるなんて、あんたバカじゃないの? と君は微笑んでいた。
帰り道君は助手席で寝ていた。君が車に乗っているとおもうと、運転が慎重になる。
こんなことも初めてだよ。
ありがとう。僕のもとに戻ってきてくれて。
休みも明けまた 忙しい一週間が始まった。
君は僕のいないときにたいてい寝ていて、僕が帰ると起きてくれる。
僕がいるときにはなるべく起きていてくれようとするみたいだ。特に会話をするわけでもなんでもなくても。
君はよく本を読んだ。
字を読むなんて!っとびっくりするかもしれないが、「君」だから納得がいく。
君は本が好きだったもの。
そして何でもない日々を重ねるうちに、僕らの距離は少しづつ縮まっていった。
君はたまに僕に寄り添ってくるようになった。僕も君を抱きしめるようになった。
君が欲しい。
隣で寝てる君を見て僕はふとそう思った。君が欲しいという気持ちは抑えられなかった。
寝てる君にキスをする。
チュ。
君はびっくりして飛び上がる。
あれ 起きてたんだ。
でも もう僕は 止まらない。びっくりしている君をそのまま押し倒した。
口にキスをする。
君は・・・僕のキスに応えた。小さな手を僕のほっぺたに当てた。僕もその小さなほっぺたに手を当てて 君の口に舌を入れた。
すき だよ。
私も ずっと好き。
僕は君の首筋を舐める。君はくすぐったそうに首をくすめる。君も僕を舐める。
ざらざらしてるけど、君の舌は温かい。
・・・・・・
舐めあって、好きを共有した。
僕は君をぎゅっと抱きしめて、寝た。
「おはよう」ときみはないていた。
君は僕の上にさっと乗るとキスをした。
夢じゃなかった。よかった。
君と僕は、一つになれた。
愛してる。僕のもとに戻ってきてくれてありがとう。
私も、愛してる。あなたに出会えたこと、嬉しい。
こんな姿になっても、私を愛してくれて、ありがとう。
もう君と僕の間で伝わらないことは何もなかった。
ずっと 君といたい。
それから僕と君は幸せな日々を送った。
一緒に映画を見たり、音楽を聴いたり。好きなご飯食べて、好きな本を読んで。
君が僕の話を聞いて。僕は君の話を聞いて。
僕には君さえいれば十分だ。