出会い。
桜が綺麗に舞う季節。君はこの学校に入学してきた。自己紹介の時、なんて透き通った声なんだろうって驚いた。そして君は僕と近くの席だった。
僕は張り切って、名簿を読み上げる。一人一人の顔を見ながら、丁寧に読んでいく。君の名前は・・・そうか 「紅美 琉璃」か。全員の名前を呼び終わった。
今日から君たちは僕の生徒だ。
君は席も近いこともあってよく僕に話しかけてきた。委員会についてとか部活についてとか。こんなこと思っちゃいけないと思うけど、君は笑顔が素敵だ。
僕と話している時も、友達と笑ってるときも、実は可愛いなとか思ってるのは内緒。
日がたつにつれ君は僕にたわいもないことを聞いてくるようになった。なんだかちょっとうれしい。まあ女子高生がよく聞いてくることだけど、結婚してますか?とか趣味とかありますか?とかだ。僕はそれに素直に応じる。君は うんうんと良く聴いてくれた。君は生徒で、僕は教師だ。だからあまり長くは話すことはできないけど、毎日ちょっとづつそうやって話をしてたら君は僕にとって特別な生徒になっていった。
君と教室の窓越しに目が合うと、嬉しくてたまらなかった。
ああ こんなことで喜んじゃ先生失格だなあ、と思っても感情は制御が効かないものだから仕方ない。
ある日 帰り道君を見かけた。話しかけようかかけまいか悩んでいたら、君が僕に気が付いて駆け寄ってきた。僕は君と家が近いことを知った。電車で6駅しか離れてなかったのだから驚きだ。帰り道君と僕はいつもよりたくさん会話した。好きな映画の話とか、音楽とか、生徒と教師であることを忘れるようなそんな時間だった。別れ際、君は僕にまた一緒に帰れたらいいですねといった。
ちょっと照れくさくなって僕は、こくんとうなずいた。
そしてあっという間に一年が終わった。
修了式も終わり君は二年生になる。
君と僕は。。。よかったおんなじクラスだ。
って、生徒と同じようにドキドキしながらクラス替えの発表を待つ先生なんてなかなかいないだろうな。
始業式。君は僕に微笑んだ。同じクラスだねやったね。と言われた気分だった。
君は相変わらず僕に近い席。君は目が悪いからと言って前の席を譲らないんだ。
初めて一緒に帰ったあの時から、たまに一緒に帰るようになった。
君は 遅くまで部活動とか委員会とか参加しているから僕が早く帰る日はよく合う。
そう、基本的に水曜日。今日は水曜日、「会えるかな。」僕はそっとつぶやく。
君と会ってから僕は変わった。こんな気持ちいつぶりだろう。この歳になって純粋に人を思うなんて考えてもみなかったよ。
学校へ向かう途中考えてることは授業の構成とか成績のこととか。
そして君の事。
学校に着く。もちろん君はまだ来ていない。僕は職員室に行って学年の先生と軽くミーティングをして、授業の支度をする。それが終わると、朝のホームルームのために僕は教室に向かう。おはよう。と言って教室へ入ると、生徒たちがおはようとか、おはようございますとか、よっとか、それぞれの挨拶をしてくれる。
生徒というのはみんな、僕が持っていない何かを持っている。言葉では表せない、とってもキラキラしているもの。僕もきっと昔は持ってたんだろうな。
どこかに置いてきてしまった、そんな光る何かを君は僕にまた教えてくれようとしている。
そんな気がする。そして僕は君を見る。「先生、おはよう。」
そしてあっという間に時間が過ぎて、帰る時間になった。
僕は急いで支度して、ほかの先生に挨拶して、タイムカードを切って、靴を履いて、駅に向かう。
今日はちょっと遅くなったから、君には会えないかも。まあ、それはそれで仕方ない。そう思いながらも、心なしか歩調が速くなる。でも 君はいない。
先生!
振り返るとそこには 息を切らしてる君がいた。
歩くの早すぎ。
君はそういって笑った。
一緒に帰ろう!
(=・ω・=)にゃ~
僕と君は驚いて振り返った。
そこには黒猫がいた。
僕はひょいと猫を持ち上げてよしよしした。ネコは気持ちよさそうに、にゃー とないた。
猫好きなの?
君は聞く。僕はうなずく。昔から猫が好きなんだ。でも 妹が動物アレルギーだったから飼ったことはないんだけどね。
猫をおろした。僕は君とまた歩き出す。君は猫にじゃあねバイバイという。
猫は闇に消えていった。
それから猫の話で盛り上がって、帰りはずっと猫の話をしていた。
君の猫に必ず挨拶する話は笑えた。話をしているうちに君の最寄駅についた。
じゃあね。
小さく手を振った。君も僕も。君と別れた後はとてつもない虚無感に襲われる。今日は、話が盛り上がったせいかな。いつもより 別れが苦しかった。
明日も会えるくせに何考えてんだって、自分に言い聞かせる。
そして その帰り道。彼女は死んだ。