一年目 夏 七月上旬
「__二人は幸せに暮らしましたとさ。お仕舞い」
読み聞かせって案外楽しい。聞かせている相手は倫翔だが。
パチパチパチ、と倫翔が拍手する。毎日毎日飽きないのだろうか。
「リッカって絵本よむのじょうずだね」
「そうですか?」
「うん!きいてて何か…こう、じかんがたつのをわすれちゃう!」
「五分位ですけどね」
「あれ?」
二人だけの穏やかな時間。
季節はもう夏。学童内は冷房がついているが、肌にまとわりつくような暑さからは完全には逃げ切れない。外では蝉が鳴き声を上げ始め、太陽からは刺すように日差しが降りかかる。
とりあえず、暑い。
「律花、何してるの?」
「…猿、だったっけ?」
「ちがうからね!?」
「嘘だよ。ともでしょう?」
「!うん、覚えてたんだね」
て、言っても最後に話したのは四月だけどね。
「で、何してたの?」
「読み聞かせ」
「オレも聞きたい!」
ともがそう言った瞬間、今まで黙ってた倫翔が声を上げた。
「ダメ!リッカの読み聞かせはぼくだけが聞くの!!」
「え、」
「何でだよ!いっつもお前聞いてんじゃん!オレも聞きたい!」
「落ち着いて…」
「ダメなのはダメ!」
「はあ!?」
口喧嘩が始まった。それも大きな声で。周りの視線が一気に此方へ向く。
目立ちたくない。
でも、どうしようか…。
「おい、律花、こっちだ」
突然腕を引かれて、その場から逃げ出した。二人は喧嘩に夢中で私に気付かない。
二人に気付かれないように、私達は外に出た。ドアを越えた瞬間に、一気に熱が襲ってきた。一分もすれば汗をかくだろう。
「だいじょうぶか?」
「…何とか。有難う亮弥」
意外や意外、私を助けてくれたのは亮弥だった。普段は話すことも無いのでこれには普通に驚いた。
「喧嘩がおさまるまで隠れてようぜ」
「そうだね」
私達は「木漏れ日の森」の大木の裏に座り込んだ。
「ねぇ、何で助けたの?」
「はぁ?」
「私達そんなにしゃべらないでしょ」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、何で…」
「別に、オレが助けたかったから。理由なんてそれでいいだろ」
「…ふーん」
そこからは二人とも、一言も話さなかった。
何だか不思議な気持ちだった。ただ、亮弥の隣は少し安心出来た。何時もぶっきらぼうで、男子の前で位しか笑わないのに、ちょっとした優しさが私にとっては嬉しかった。