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一年目 梅雨 六月中旬

六月に入り既に二週間は過ぎた。天気は雨。今日で一週間連続で雨だ。


雨は嫌いではない。むしろ好きだ。じめじめするのは少し頂けないが、それを含めて日本の雨は美しい。


先ず、雨の色だ。色が無いように見えるが自然を通して見ると、緑だったり土の色だったりと見える。ただ見るだけでも青く見えるので綺麗だ。

次に、雨の音。普通の雨でもただ降るだけでなく、草花に当たると一気に涼やかに辺りに響く。篠突く雨のような激しい雨は、勇ましい音が聴こえる。

後は匂い。水の(はず)なのにあの土が混じったような独特の匂いは自然豊かな感じがする。降る直前に空気の匂いが変わるのも面白い。


まぁ、学童内にしか居られないので聿之江倫翔から逃げられないのが残念だが…。


…そう、逃げられないのだ。


「ねえ、あそぼうよー」


「…」


「あーそーぼー」


…今の状況を説明しよう。聿之江倫翔が私の腕に引っ付いているのだ。本が読みにくい。


「…嫌ですよ」


「なんで?」


「私は本が読みたいんです。遊びたいのなら他の人を誘ってください」


「君がいいの」


「…は?」


いきなり何を言い出すんだこいつは…。


「君がいいの!…ところで君の名前はなに?」


知らなかったのか!? 知っててもビックリだが。


「史本律花です」


「りつか…。うん、リッカって呼ぶね!」


「え、ちょ…」


「リッカ遊んでよー。あ、僕のことはりんとって呼んで!」


「あ、うん」


こいつの口はマシンガンか?口を挟む隙がない。しかも流れでこいつのことを名前呼びにするって言っちゃったよ。


「とりあえず、私は君とは遊びません」


「君じゃない。りんと!」


「…私は倫翔とは遊びません」



名前を呼んだ瞬間、聿之江倫翔の顔が嬉しそうに(ほころ)んだ。


__私の顔が熱くなる。


ただ名前を呼んだだけで嬉しそうにするなんて、不思議だ。でも、それ以上に不思議なのはその笑顔を見た瞬間に、私の顔が熱くなることだ。


どうしたんだろうか。風邪か?


「…やっぱり遊ばなくていいや」


「…?」


いきなりどうしたんだ?あんなに遊びたそうにしていたのに。


「遊ばなくていいからさ、僕に絵本よんで」


「それだったら別に良いけど」


「本当!?」



ほら、また嬉しそうに笑う。私の体も熱くなる。


「一冊だけですよ」


「うん!」



…簡単な昔話でも読みましょうかね。



「__昔、昔。あるところにお爺さんとお婆さんが…」




外の雨は、まだまだ降り止まない。

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