一年目 春 四月十日
私、史本律花は本が大好きである。何時も部屋の隅で一人ポツンと本を読んでいる。お陰で小学校一年生ながらに漢字・言葉遣い・知識がとんでもない事になってしまった。反省と後悔は一切していない。小一からこんな感じだと当然周囲の大人は私を気味悪がった。父さんと母さんは何故か「もっとやれ」状態だ。本を買ってくれるから別にいいけど…。
まあ、大人達には呂律を少し回らなくして、ちょっとした敬語を使えば直ぐに私に対しての認識を改める。
……チョロいな。
小一にしてそんな事を既に悟った私は、今日も誰の目にも留まらぬよう本のページを捲るのだった。
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ところで皆さんは、「学童」というものを知っていますか?親が仕事で子供の面倒を見れないとき、小学校にある学童保育という場所に預けるんです。預けられた子供は、放課後に学童やグラウンドで遊びます。大体四年生まで預けられます。
まあ、放課後に友達と遊ぶ所と思ってくだされば十分です。
ただいま私は、そんな学童にて本を読んでいます。時間は三時前。もうすぐおやつの時間です。小学校に入学したばかりで、まだ授業らしい授業はせずに学活等で時間を潰し、お昼過ぎには学童に居ます。一週間はそんな日々が続くでしょうね。
「おやつですよ~」
どうやらおやつの時間のようだ。因みに、今の声は井辻先生だ。
おやつは班ごとに食べる。私は五班で前列のロッカー側である。
…本棚から一番遠いからこの班嫌なんだよな。
四年生の班長がおやつを軽く独占しながら他の人に配っている中、再び井辻先生の声が学童内に響き渡った。
「はい、皆さん聞いてください。今日から新しいお友達が一人増えます。…それじゃあ、自己紹介をどうぞ!」
井辻先生と一緒に皆の前に立っているのは、小柄な男の子だった。
「いちのえりんとです。よろしくお願いします!」
緊張しているのか、少し声が震えていた。
「は~い、一年生の聿之江倫翔君です!皆仲良くしてあげてね!」
…仲良くなんて言われても、喋ることは無いと思うよ。どうせ、他の男の子と遊ぶでしょ?
___そんな事を考えていた私は、これからも今までみたいな日々が続くと思っていた。まさか、この何気無い日常の風景から、私の運命が変わるなんて思いもしていなかった。