一話 死んで生まれた
初投稿です。宜しくです!
私は決して善人ではない。私は決してヒーローではない。私は決して他人から赦されても良い存在ではない。それはよく解っている。
過去に私は沢山の人間を殺してきた。軍を辞めて、ある会社に入ったのがそうする事になったきっかけだ。最初に殺したのは会社の金を横領して持ち逃げした男だ。殺した後に罪悪感や倫理観等に押し潰されそうになり吐いた。次に殺したのはライバル会社の雇っていたガードマンや傭兵達だった。罪悪感は感じたけど、不思議と吐き気は無かった。それからは似た様な奴らを沢山殺した。この時期は殺人の罪悪感から逃げるためにひたすらオタク趣味と言われるモノに没頭した。乙女ゲームと呼ばれるモノも沢山やった。とにかくナニカに逃げたかったんだ。
ある時、私はまた人を殺した。その日殺したのは幸せな家庭を築いていたある貿易会社の社長だった。罪悪感は全く無かった。その時私は悟った。
「あぁ、私は人を辞めたのだろう」
人を殺すのに罪悪感を感じなくなったら、殺した人間に少しの同情すら出来なくなったらもう人として何処かオカシイのだ。
だから、いつ殺されても可笑しくないというのも思ってた。実際に命を狙われた事も少なくないし、狙ってきた人間も徹底して尋問を行い雇い主を吐かせて殺した。こんな人間殺されて当然だろう。最近なんてコトをしながら乙ゲーの攻略ルートを思案してるくらいなのだから。いつ破滅してもおかしく無かった。
そんな私には[コレ]はきっと、神様からのプレゼントだ。まあ、信じた事はないけどね。
「おい、ホームに人が落ちたぞ!」
「子供が押しやがったんだ!!」
「な、電車だ!誰か非常ボタン押せ!」
きっと、私が殺した誰かの子供だったのかも。子供の前で親を殺した事もあった。多分こうして欲しかったからだ。
光が目の前に迫っている。
ワタシを救ってくれるのかな。
ヒカリが目の前に迫っている。
雄叫びのような声が耳に痛い。
アリガトウ。どこかの少年。
ワタシを終わらせてくれてアリガトウ。
「アリガトウ」
私はヒカリと雄叫びに呑まれた。
そこで私の一生は終わった。地獄の底に堕ちても普通な私の一生は潰えた。
いや。
「おぎゃあああああ。おぎゃあああああ」
何故?
「元気な女の子の赤ちゃんですよ。おめでとうです!」
どうして?
「あぁ、私の子供。唯雅、貴女の名前は」
オカシイだろう!?
「藍崎 唯雅よ」
転生。きっと私が最もしてはイケナイ事。人の生を軽んじるという事すら考えずに人を殺してきた私がしてはイケナイ事。
沢山の生を奪った私が死に、新たに生を受ける。失意の内に死んだ人達、いや、私が殺した人への皮肉にも程がある。
私は決して善人ではない。だから生きるべきではない。
私は決してヒーローではない。誰かを救った事はない。
私は決して他人から赦されても良い存在ではない。
そんな私が新たな生を持つのはいいのだろうか。
答える人は誰もいない。
手術室の中に私の産声だけが。私を嘲り嗤っているかのように響いている。
藍崎 唯雅
私がこの名前の意味に気付くのは後々の事だ。
次回『名前』
それは知りたくなかった真実