35.伊坂なな
今週は大分疲れた。なぜって? 一年生の階に上級生が訪れるのは稀だ。またその逆もしかり。なのにあの先輩は堂々と面倒くさいお荷物連れてやって来たから。久しぶりに廊下からきゃーきゃー聞こえるからイベントか? とか思っちゃった自分を呪いたい。私達の教室の入り口でわざわざ私の名前をどでかい声であの目立つ先輩に呼ばれ、その日一日生きた心地がしなかった。
「ななー! おにーさんが遊びに来てやったぞ! リリアにはこいつな」
ただでさえ目立つ髪の毛。嫌でも目がいく。この人はまともだと思った自分はバカだ。後ろには幸坂先輩までいる。私とあーちゃんとリリアでお弁当を広げていたところにずかずかとやって来た。
「ななとケー番交換しそこねたからな。聞きに来た」
にぱっと愛くるしい笑みを浮かべる。嘘は付いてないんだろうな。難いのいい男を可愛いいと思うなんて……末期。
「……交換しなきゃだめ?」
私は椅子に座っているから先輩を見上げている。その体制を利用しないてはない。顔をすこし傾けて涙目であくまでもお願いしてみた。
「駄目だ。俺ら先輩と後輩って仲だろ? お互いの電話番号も知らないなんてお話にならない」
「どんな理屈ですか?」
「俺様の理屈」
助けを求める為に隣をチラ見するとあーちゃんとリリアはすでに幸坂先輩と交換している最中でした。早々諦め携帯ごと先輩にお渡しした。よしゃっとガッツポーズする先輩。そんなに嬉しいのか? と若干乾いた感想が頭を通りすぎた。
「そう言えばななさ、あいつとも知り合いなんだろ」
「あいつとは誰ですか?」
「あー。黒髪の……名前なんだっけな」
「……」
……ほとんどの人間は黒髪だわ。先輩見たいに真っ赤な髪の人間は希少だわ。と意識を飛ばしてると携帯が帰ってきた。元気だったかい? 私の携帯。
「二年のサッカー部の副部長」
いまだ頭を抱えてる暁先輩に幸坂先輩が呟いた。話聞いてたのね。
「そうそう! そいつだよ!」
名前と顔が一致して嬉しそうですね。てか、幸坂先輩エスパーかよ。
「野々村雫には気を付けろよ」
「は?」
野々村先輩とは色々因縁がある間柄ですけど、何か?
テストも毎回一位でサッカー部の副部長で……。暁先輩より、世間的には好青年だと思いますよ。世間的には。
「まぁ、伝えたからな。それだけ。……王子帰んぞ」
携帯番号を交換してそそくさと自クラスへ戻っていった。
嘘はついていなかったみたい。
(ななとケー番交換しそこねたからな。聞きに来た)
それより気になるのは……。
「なーちゃん、ユーマと知り合い立ったんですね! 共通の友達がいて嬉しい。でも、副部長に気を付けろってなんなんでしょうね?」
「うんうん。私もそこ気になる。夏ならなんか知ってるかな?」
そこそこ仲のよい知り合いを危険人物呼ばわりされれば気になるよな。それがあの好青年なら尚更。
「私は二人が簡単に先輩にアドレス教えてて吃驚したぁ!」
心底吃驚した。これは本当。
「だってぇ~あの先輩方のアドレスはレアなんだよ~」
「あーちゃんそうなのですか?」
「そーなのですよ~」
あーちゃんとリリアの話題を無理矢理だが変えられた。
私はちゃんと"野々村雫"と言うあの人知る必要があるみたいだ。
きっとそれが、私とあの人との関係を印してくれる気がする。
「あーちゃんもリリアももっと警戒心持たなきゃだめだよ!」
私は心からそう言ったつもりだが二人は呆れたような顔をして私の頬を引っ張った。
「いーたーい」
だってねぇっと二人して顔を見合わせた後綺麗に声を合わせて言った。
「伊坂ななほど純粋鈍感娘はいないよー」
二人の笑顔が少し怖かったのは内緒。




