33.水無月葵
最近、夏が優しい……気がする。
いつも私の事なんて後回しなのにって、ななちゃんに相談したら凄く驚いた顔をしてその場で固まった。
見ちゃいけないもの見ちゃった様な顔。そんなに私変なこといったかなー?
この前の合宿で、ななちゃんとリリアに私が夏のこと好きだと告白した。リリアちゃんには予防線を張るような結果になっちゃったけど、後悔はしてない。
ライバルは一人でも減ってくれた方が嬉しいもん……なんて。
「夏ー、今日一緒に帰ろうよー」
「俺部活あるから」
「まってるからぁー」
ほら、ななちゃんが再起不能になっている今現在進行系で所謂、逆ナンされてる。
困った風にしてるけど、きっといい気になってるんだろーな。
そんなこと無いのは百も承知だけど、親友の分際で彼女面とか私が一番嫌いなタイプ。
夏から視線をななちゃんに戻し、無理矢理意識を戻しにかかる。
「ななちゃん、ひどいよー。私、真剣に相談してるんだからぁー」
肩をつかんで上下に揺さぶる。
「え、あーごめん」
いまだに心ここにあらず。帰ってきてぇー。
ななちゃんは私の後ろにある夏を見た。そして、また考え込む。
「柳原は結構女子に優しいし、性格もいいと一般的に思われてるからもてるんだろうね。イケメンの部類で取っつきやすいし、いい物件。学力はほっておいてね」
うんうん。学力無いのが惜しいんだよね。すっごく、わかるよ。あれだけ勉強教えたのにワーストとかねー。
「でも、私から見てあーちゃんは柳原にとってあそこにいる女子とは全然違うと思う」
勿論、ななちゃんの視線の先は夏に集る女の子達。
でも、それより以外だったのは……。
「ななちゃん、そんなに私の事考えてくれたんだね。凄く嬉しい、大好き」
ななちゃんに抱きついた。突然のことにななちゃん、またもやフリーズしそう。そんなところも可愛いけどね。
「わ、私も大好き」
そういって抱き返してくれる。
抱きしめ疲れて視線をあげるとバチっと夏と視線があった。
口パクで何か言ってる
《いっ、しょ、に、か、え、ろ》
そう伝え、私の出方を伺う夏。
さっき、部活があるからって断ってたじゃん。
ねぇ、そうゆうことされると期待しちゃうんだから。
知らないからね、後でお前とはずっと親友でいられると思ってる……とか、いったらぶっ飛ばすんだから‼
私もななちゃんや他の人にばれないように口を動かした。
《い、い、よ》
その日の帰り道、高校の裏口で夏と待ち合わせをした。
夏は中等部から今までずっとサッカー部だったから、一緒に……二人で帰るのは片手で数える位しかない。
鷹司くんとか、知らない女子と一緒とかだったらあるんだけどね。
レアケースなんだ、夏と二人っきりで帰るのは。
「ごめん、待たせた?」
「待ったよー。約束したの夏でしょ」
「ほんとーにごめん。葵が食べたいって言ってたパンケーキや行こーぜ。勿論、奢るからさ」
明るい調子で話題をふる夏。肩を並べて歩けてることが嬉しい。
そんなこと、口が裂けても言えないけど。
「遅れたくらいで、いちいち大袈裟なんだよ夏は」
「そうか? やば、あのバス乗らないと次来るまで待たないと……葵、走るぞ」
私の手をつかみ走り出す。あまりにも急すぎて、ついていくので精一杯。
「しゃっ、間に合った。っ……! 悪い大丈夫か?」
シュートが決まったときの様に喜ぶ夏に子供だなって思う。でも、それより急に走ったから顔真っ赤かも。あの夏が心配してくれる。
「大丈夫」
夏と二人で空いてる席に座る。別にね。急に走って息は上がったけど、顔が赤くなったのは意識してしまったから。
これはデートと呼ばれるものでいいのかな? 夏からしたら友達と遊びに行く感覚かもしれないけど。
ななちゃん助けてぇー。
「ほら、降りるぞ」
「わ、わかってるよー」
「ほいほい」
バスから降りれば、当たり前の様に手を繋いで。
私は気づいてるけど気づかない。
暗示の様にこの泥沼のような関係を続けていいのだろうかと自問自答する。
夏と一緒にいれれば嬉しい、楽しい。でも、私たちの関係は……。
幸せ過ぎて怖い。
「木苺のレアチーズパンケーキがおすすめだって。俺はこれにしよーかな」
「私は蜂蜜バニラパンケーキにする」
店員さーんと注文をする夏。女性の店員は夏の顔をみて、声がワントーン上がった。そして、向かいに座る私をみてこれなら勝ち目あるみたいな顔をして去っていく。
夏といれば、あんな事しょっちゅうだ。そらは学校で外で……。
「どーした、今日は元気ないな葵」
「夏よりは成績ばっちりだったよー」
「うわぁー。まじ、葵様」
私がじとりと夏を睨むとごめんごめんと謝ってきた。
元気がないか……そんなに顔に出ていただろうか。
「今日は部活なかったの?」
「あーミーティングだけだったよ」
なんだか、切りが悪そう。何を隠してるんだか。
そもそも、なんで私のご機嫌とりをしてるのかって所に問題がある。私はこれをデートだと思っているけれど、夏にとっては違うから。
「で、用件は?」
きっと睨みながら夏を問いただせば、罰が悪そうに白状した。
「次のテストも教えてください」
それはガバリっと、効果音が付きそうなほど頭を下げてきた。
たかがそんなこと?
「別にいいけど。今に始まった事じゃないでしょ」
しゃっと本日2回目ガッツポーズ。なにをそんなに喜ぶ事があるんだろうか。
「うっわぁ、美味しそうだな。葵一口くれよ」
運ばれてきたパンケーキに目を輝かせながらそう言う夏。小さい子供見たいに言うものだから、思わず笑いが零れてしまった。
「なんだよー葵」
「なんでも無いの。ただ、夏は夏なんだなって」
意味わかんねーって顔に出てる夏に私は堪えきれなくて声に出してしまった。
疑いの目が向けられる。あははっ。いっつもその役目は私だから、なんだか新鮮な感じ。
「あーん」
「ん」
端から見たらカップルみたいなんだろうか。実はただの親友なんです。私は彼女に立候補中なんです。
はぁー。もっと、単純になりたい。夏みたいに。
「やっぱり、葵なんか隠してるだろ」
「ううん。幸せだなって。美味しい」
取り敢えず、目の前のパンケーキ食べよう。アイス溶けてきちゃった。




