31.伊坂なな
長い廊下に張り出された順位表を目の前に私はやってしまったとただ、そう思った。たかがテストで難関大学受験をした時のように勉強したらこうなる。そんなの当たり前だった。いや、でも世の中には天才と呼ばれる人がいるから大丈夫と、よくわからない安心感があった。でも、まさか1位になんてなれるなんて微塵も思っていなかったから理解が追い付かない。
1位.伊坂なな
2位.田中一
3位.皇川良
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「なーちゃんって頭よかったんですね?」
リリアちゃん。その言い方だと少し嫌味入っていますが。でも、そうみたいです。
「さすがななちゃん1位だよー! 何処かの誰かさんは後ろから数えた方がよかったのにねー」
柳原、君死刑確定なのでは? 既にあーちゃん、黒いものまとっていらっしゃいますが。
「てか、ななは同類だと思ってたのによー。裏切り者」
自分の順位を目の前に嘆く柳原。ごめんよ。まず、私高校生活2回目だからね。
「さすがななだな。次回のテストからは教えてもらわないと」
いやいや、まぐれですから……って、言えないのがつらい。てか、私はオオバカ者だす。
「俺は誇らしいぞ。俺のクラスが1位2位独占だからなー」
それはそれは誇らしげに強田先生こと、つよぽんが私の肩に手を回している。もう反対側に捕まっていたのはまさかまさかの田中くんである。あれ、田中くんいつの間に……。
この前の女子会の中でもわからなかったのにここで知ることになるとは。これは、あれだ。一と書いてはじめと読むんだよね。いやー、大層な名前をお持ちでした。
私はさりげなく田中くんを見る。なんだか具合が悪そうだぞ。何故って? いつもだったら、私を見るだけで汚いものを見たような目をし、目が合うと逃げるからね。
うん。田中くんの中での変人レベルはMAXを越えてしまったかも知れない。
「先生……そろそろ、いいですか?」
今にも貧血で倒れそうになっている田中くんの声は強田先生になんとか届き、開放された瞬間、私の後ろに隠れた。
お、これはどっちかって言うと好かれてる??
そんな私の考えを察知した田中くんから、すかさず突っ込みがはいる。
「べ、別に伊坂の事なんてどうでもいいから。ちょうどいい壁が合ったからか隠れただけだし。……ありがと」
「……」
辛口キューティーボーイ田中くんがデレタ。この破壊力ははかりきれない。私はこの可愛さに赤面する事しか出来ない。
「つよぽん嬉しそうだね!」
「あぁ、夏。これでボーナスは五組の先生を抑えて確定だ」
と、口を大きく開けてガハハッと笑う先生。ボーナス目当てかいっと思ってしまった。大人は薄情だ。
『なな。クマで来てるぞ』
「え」
びくりと体が跳ねる。そして、頭の中で野々村先輩と誰かの声とリンクした。また、だ。
「あれぇー。野々村先輩なんで1年の方に来てるんですか?」
「お前みたいなのがいるからだ、このバカ。下から数えた方が早いってどんだけバカなんだよ」
「そう言う先輩はどうなんすか?」
「今まで一度も1位を譲ったことねぇんだよ。お前とは出来が違う」
「うわぁー。しかも、似たようなこと潮にも言われたし」
かけられたあの言葉は今、初めて野々村先輩に言われたはずだ。無意識に目の下のクマが出来ているだろうところを指で触る。
「もと、もと……ブスだし……」
「ななは可愛い」
いつの間にか私の前に回り込んだ鷹司くんがそう言ったのを聞き、私は無意識から開放された。
「あははは、なに言ってるんだろうね私。とうとう、可笑しくなっちゃったかなー?」
出来るだけおちゃらけて言う。
「ポンコツだもんね。ガタがきたんじゃない?」
確かにそうだね、田中くん。あぁ、確かに私は現実世界で一番お世話になって唯一無二の存在だった人を忘れていたな。かってに、私はこの世界に順応してるとか思ってたけれど、ちゃんと体が覚えてる。いや、覚えてた。
私はあの時から何も変わってない、薄情で冷たい女だ。
でも、それでもいつか私も彼に言いたい。
―――一人にしないって言ったのに。
私ばかりを悪党にするなんて、許さない。でも、今は気づいた事なんて教えてあげない。これでも私、君には幸せになってほしいと昔も今も思ってる。




