28.伊坂なな
事件はGW合宿が終わってすぐ起こった。またの名を校舎裏呼び出しイベント。いわゆるあれである。<ちょっとあんた先輩に馴れ馴れしいんだよ!><そ、そんなことありません!>というあれ。なんてベタ。私は偶然、体育日誌と言うものを先生に提出しにいった帰りにりリアちゃんと彼女を取り囲む三年生女子を見かけたのである。
「ちよっとあんた梶先輩に馴れ馴れしいんだよ!」
「そ、そんなことありません!」
おい、私の脳内で考えていたセリフのまんま! やっばり、ベタ。それより、私は助けを呼びにいった方がいいんじゃないか?
例えヒロインとて、一対六はフェアじゃないし危ない。よし、取り合えず攻略対象を連れてくればいいよね。……待てよ、自分。これは中々部活にこないヒロインを野々村副部長が颯爽と助け、ヒロインの野々村先輩の株が上がるやつ。そうか、私は大人しくここにいればいいんだね。こんな場面傍観してるだけって結構――
「いい趣味してるな」
あれ? 心の声が漏れた?
と言うかなんでりリアちゃんがいる方じゃなくてこっちにいて、私にかまってるんだ。
「な、なんでこっちにいるんですか?」
その一言を聞いた先輩はにやっといじの悪い笑顔を見せた。
「こっちにはきちゃいけなかったか?」
胸につっかかる言い方だ。試されたようなに感じるのはどうしてだろうか?
私が気をとられている間に話が進んでいく。そう、颯爽と王子様がお姫様を助けるように。違和感がないくらい話に通り。今までにあった不具合が嘘みたいだ。
「大丈夫か、りリア。次こうゆうことがあったら、言え。言わなきゃ分からないからな」
「はい。すみません」
顔を赤らめてうつむくりリアちゃん。それは愛しそうに見つめる野々村先輩。これがゲームだと分かっている。でも、甘酸っぱい二人から逃げるように近くの空き教室に駆け込んだ。様々な違和感が混ざりあい複雑に絡み合う。そして一つだけ、二人を見ていて思ったことがある。
(野々村先輩のあの視線、私は知っている。七海京子は知っている)
何故、この世界のななでは無くて現実世界のななが知っているのか。もしかしたら、私はなにか大切な事を忘れているのかも知れない。考えて見たら、この世界に順応するとこばかりで元の自分の事を考えてはいなかった。もしかしたら、彼も私と一緒なのではないだろうかという結論にたどりつこうとしたその時、ガラガラっとドアが開いた。
「こんなところにいたの? 図書委員さぼらないでくれる」
田中くん。いつも通りの辛口キューティーボーイだ。ほっと気が抜ける。
「ちょっ、なんで泣くの」
ぽろぽろと涙が零れて、しかも強気の田中くんが急に焦りだすから、ついつい笑ってしまった。泣きながら笑うって忙しいな。でもまぁもともと変人だからね、田中くんの中で私。中々、泣き止まない私に田中くんはとうとう背中を擦ってくれる。
「いやー、いつも迷惑かけてごめんねぇ」
いつもの調子で、できるだけらおちゃらけに言う。
「別に迷惑だなんて思ってない。伊坂はむしろいつも通りがいい」
「そっか。優しいね、田中くん」
私が泣き止んだのを確認するとタイミングを見計らって手を引いた。
「元気になったね。ほら仕事行くよ」
今日の田中くん優しいなってときめいちゃった自分が恥ずかしいよ! ずるずると引きずられながら図書室に連行されました。やっぱり、田中くんは辛口キューティーボーイ。鬼です。




