α.幼馴染みはー(トロワ視点)
遅くなってすいません。
お待ち頂いている方がいれば幸いです。
俺の幼馴染み、ナイン・クロスウォーは生粋のオルガだ。
自分より2つ下だというのに魔力量は多く、魔術の威力は凄まじい。
それを抑制するだけの魔力操作も完璧である。
アスカな俺にとって、ナインは神聖さに溢れていた。
その為、ナインは特別だ。他に理由も存在するがーー
今日は早く家に帰るはずだったのに、第一王子の我が儘に付き合わされて、こんな時間になった。
家に急いで帰り、広間に着くと母上へと声をかける。
「母上!」
大きな音をたてて扉を開けた。
「あらあら、トロワ。そんなに急いではしたないわ」
そんな母上の言葉など無視するように、
「ナインは何処ですか!?」
と言葉を発した。
母上は慣れているのか、俺を誘導するようにその場へ向かう。
後を追いながら、心は焦りで一杯だった。
3時間も待たせている。
ナインが愛想を尽かすんじゃないか、と考えてばかりだ。
進行方向の中庭に人影。
あれは間違いなくナインだ。
俺は母上を追い越し、走り出す。
「ナイン!!」
「どわっ!」
ナインの腰に抱きつくと、いきなり上から水が降ってきた。
びっくりして大きな声が出る。
「え、何、冷たい!」
「・・魔術訓練中、だったから」
ナインがジト目で俺を見ながら言う。
悪気は無かったが水浸しにした原因は俺だ。
ナインに謝ろう。そう思った時、
「あらあら、2人とも大丈夫?」
のんびりとした、母上の声が聞こえた。
反射的に俺は母上に返す。
「母上どう見ても大丈夫じゃないですよ!」
「着替えたいです」
ベタつく服が気になるのか、服を引っ張りながら言うナイン。
母上はふふふっと小さく笑いながら、
「なら2人ともお風呂に入ってらっしゃい。丁度沸いたところなの」
と言い俺は、その言葉に固まる。
「わかりました」
ナインが返事をする。
いやいや、可笑しいだろ!
「な、ちょ、母上!なに言ってるんですか!」
俺は母上の冗談か何かだと思い、叫ぶように言った。
だが、母上は無理矢理俺を風呂場へと誘導する。
クソ、父上が武力と性格で選んだ、と言うだけに母上の俺を拘束する力は、半端なものじゃない。
抵抗虚しく、俺はナインと共に脱衣場に放り込まれる。
ご丁寧に外鍵まで掛けられた。
「着替えは今持ってくるわ」
それだけ言い残し、母上は去った。
俺が呆然と扉を眺めていると、背後から服の擦れる音が聞こえた。
慌ててナインを見ると、張り付いたシャツを脱ごうとしていた。
「うわぁああ!!何してるの、何脱ごうとしてるの、馬鹿なの!?」
ナインの側により、肩を掴んで止める。
何故かナインは首を傾げ、
「何で?お風呂に入ろうとしただけ」
と宣う。
頭痛を起こす頭を押さえながら、ため息を吐く。
どうしてこうナインは危機感が無いのだろう。
いくら幼馴染みだと言っても、男じーー
バサッ
ハッとし、ナインの方を見てしまい固まる。
ノーヴェ・クロスウォー黒爵譲りの紺色の髪と藍色の瞳、ディサー・クロスウォー黒爵夫人にそっくりな顔と白い肌だが、そんなことは今関係ない。
ナインの下半身に俺と同じモノが付いている。
ナインはさっさと風呂場に向かい、俺は知った衝撃に叫ぶしかなかった。
「う、嘘だろぉおおお!!!」
打ちひしがれ、扉の前で蹲っていると、施錠の開く音。
「あら、まだお風呂に浸かってないの?トロワ」
着替えを持った母上が俺を見て、そう言う。
気力がごっそり抜け落ちた俺は覇気の無い声で
「うん、今、入る」
と返すだけで精一杯だった。
その後の記憶はあやふやで、この後どう過ごしたかも覚えていない。
両親の話によると、ナインはモリスコと言う殆ど例が存在しない魔力の性染色体異常だと言う。
モリスコだと知ってもナインを軽蔑する気は無いし、ナインはナインだと思う。思うが、今は近付く事が出来ない。
女の子だと思っていた相手が男の子、しかも初恋相手だった。
失恋した気持ちを整えるまで、俺はナインの顔を見れそうにない。
[--Ggチャンネルを変更します]
垂れ幕の奥、真っ暗な場所に一つの椅子。
それに座るのは幼さを残した容姿をした人。
目を閉じ、口を噤んだ状態なのに、小さな声は響く。
『トロワがナインの性別を知る日が遅くなったね。
これも彼が両親の死の運命を変えたから。
本当の道筋では、ナインは10歳の時、シュヴァリエ家に引き取られる筈だったんだから。
彼はこのまま運命を変えてくれるのかも知れない。
ミカエルを、穂積を救ってくれるかもーー』