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女子会鍋論争

ここ近年、インターネットや雑誌で話題とされている「女子会」。

今日は私とヒトミちゃん、私の友人の早苗とBarの常連の加代さんで、女子会なるものを

催すことにした。元々女子会とは「Sex and the city」の影響から、女同士でオシャレをして

集まって食事をしたり飲んだりすることを、ブログやファッション雑誌で「女子会」と言い出した

ことから、その名前が浸透して行ったそうだ。


寒い日が続いているので、今日は鍋料理が有名な店を予約した。

いかにもニューウェーブ居酒屋って感じの作りで、私たち以外にも女子会と思われる

女性の集団や、カップルが多い。


「じゃ、第1回Grief&Cocktails女子会を記念して、乾杯!」

「でもさ、なんでBarでやんないの?」

「私が落ち着いて飲めないじゃないですか。だからわざわざ定休日の日曜にしてもらった

 わけだし」


全員生ビールのジョッキを持って、豪快に飲み出す。周りの女性をみれば「オシャレな」

カクテルなどを飲んでいる中で、私たちはそれぞれの前に灰皿とビールジョッキを置いている。

まあ、これも女子会ならではかも。合コンではとても出来そうにないスタイルだ。


「でも美紀さんが幹事なら、他のダイニングBarとかを選ぶかと思ったのに、なんで鍋専門店

 なんですか?この小説なら絶対そうなると思ったのに」

「ヒトミちゃんも甘いわねー。「女子会=オシャレ」の定義が私に通用すると思う?

 ダイニングBarでオシャレなカクテル飲みながら、オシャレで美味しい料理なんて、ケータイ小説

 でやってもつまんないでしょ?」

「美紀、相変わらずメタフィクション全開だね」

「何よ、早苗は鍋嫌いなわけ?キムチ鍋」

「とんでもない。大好きだって。ただ、男の人の前ではちょっとね」


早苗にも一応「女の恥じらい」なるものがあるのだと、私は少しだけ感心してしまった。

男性の前でキムチ臭をばら蒔きたくない、という恥じらい…。

よく「焼肉を2人で食べている男女はただならぬ仲」と言うが、それはニンニク料理やら

キムチ鍋といったものでも言えるのだろうか?


そんなことを考えていると、注文したキムチ鍋が来た。周りをみれば、豆乳鍋だの

コラーゲン鍋を頼んでいるが、私たちのテーブルはキムチ鍋。


「てっきり女子会っていうと豆乳鍋だとかそういうのを頼むかと思ってましたけど…」

「ヒトミちゃんも甘いわねー。「女子会の鍋=豆乳鍋」なんて・・・」

「はいはい、無限ループって怖いわね!そんへんでやめて、お鍋食べましょ!」


「チョット待った!」


いきなり加代さんが大きな声を出し、鍋に伸ばしかけていた早苗の箸を祓う。


「ど、どうしたんですか?」

「アンタ今鶏肉食べようとしたでしょ?ダシが出るからまだダメ!まず葉物から!」

「うわー、出たよ鍋奉行」


確かにキムチ鍋の場合、葉物をあまり入れておくと辛くなりすぎる場合がある。


「牡蠣は一通り食べてから入れましょ。固くなると美味しくないから」

「はーい。鍋奉行さんにお任せします。でも、なんか色んななべがあるんですね。

 豆乳鍋とかコラーゲン鍋はもう結構前からあるけど、最近はトマト鍋とかカレー鍋

 ってのも人気が出てきてるらしくて。この店にもあるみたいですね」

「でも私はトマト鍋ってやだな。いかにも洋風ってのがさ」

「でも美紀、このキムチ鍋だって、元々は韓国のキムチチゲが元になってるわけじゃん。

 私はやっぱ醤油味の寄せ鍋か、みそ味のもつ鍋とか、そういう和風鍋が一番好きかな」

「じゃあ早苗はキムチ鍋いらないのね?鶏肉は全部没収!」

「あー、泥棒!」

「だから鶏肉はまだ早い!!」


こういったワイワイした雰囲気も、女子会というのだろうか。

まあ女性向け雑誌でよく書かれている女子会というのは「オシャレなワインBarで」とか

「美味しいカジュアルフレンチの店で」なんてのが多いから、鍋料理専門店でなんてのは

王道とは言えないだろうけど、実際はチェーン居酒屋とかで催すグループは多いと思う。

その方が手頃で気軽だし、多少騒いでも大丈夫だ。



一時間後…。四人ともかなり飲み、鍋の中もほとんど食べてしまった。


「さて、ここからがホントのお楽しみですね」

「私、本当はこのために鍋を選んだという…。ここはしめのバリエーションも色々あるからね」

「これは鶏肉や牡蠣のダシが出ているから」

「いい雑炊になりそう」


「は??」


加代さんの言葉に、私とヒトミちゃんと早苗は、思わずハモってしまった。


「え、雑炊だよ。最後に卵をかけ回して、三つ葉散らしてさ・・・」

「何言ってるんですか、加代さん。キムチ鍋って言えばうどんでしょ?キムチうどん」

「美紀こそなにいってんの?中華めんでしょ?良いダシだから美味しいキムチラーメンができる」

「早苗さん、ラーメンはもつ鍋や石狩鍋のようなみそ味でしょ?ご飯入れてチーズと塩胡椒入れた

 リゾット風がいいですって」

「そんなフランスかぶれなものは却下!やっぱり雑炊がいいって!すいませーん!」


「雑炊セットね!」

「うどんうどん!」

「中華麺」

「チーズリゾットのセットお願いします!」

「あ、あの・・・?」


それぞれがてんでバラバラなオーダーをするので、店員のお姉さんはすっかり困ってしまって

いる。最初から鍋の締めは揉めるんじゃないかと予想はしていたもの、ここまで意見が分かれる

とは思っていなかった。


「えーっと、お決まりの頃にまた伺いますね」


私たちのあまりの剣幕に、お姉さんは逃げ出して行ってしまった。


「だから、雑炊にしようって。一番王道じゃん!」

「うどんだって王道だもん」

「ラーメンは譲れない!」

「・・・このままじゃ埒があきませんよ。幸いIHヒーターでいつでも温め直せるし、

 もうちょっと飲みながら話し合いませんか?一品料理とかも結構あるみたいだし…」



「それで皆さんそんなに暗いわけね」


三時間後。私たち四人はMALT HELLに居た。


「結局飲んで食べながら鍋の締めの言い合いなんかしてたらお腹いっぱいになって」

「本末転倒とは、まさにこのことですね」


私はモーレンジの炭酸割りを飲みながら、ため息をついた。

結局あれこれ言い合いながらビールだの焼酎だのを飲んで、一品料理をつついていたせいで

満腹になってしまい、折角のスープを4人して無駄にしてしまった。


「でさー、神谷さんは鍋の締めって言うと何が好き?うどん?」

「鍋の締めかぁ。やっぱり・・・」

「雑炊だよね?」

「ラーメンっすよね?」

「いやいや、リゾットでしょ?」


「餅、かな?」


「餅?うっそー!」

「お餅は途中に入れるものじゃない?」

「締めじゃない!」

「なんか違いますよね」

「何言ってんだよ。俺の田舎ではいっつも土手鍋で、最後は餅だったんだ。

 そういえば誠くんは餃子が好きだと言ってたな…」

「マスターが?信じらんない」


結局鍋の締めは、酒の好みと同様に人それぞれだ。

そのままの味で終わらせたいという人もいれば、手を加えて洋風にしたいという人もいる。

ここまで論争になるという鍋の締めは、もはや日本人にとって永遠の課題なのかもしれない。


「ところで次の女子会は?」

「あー、来月またあの店で。次はモツ鍋でリベンジするからね、早苗」

「モツ鍋なら中華麺ですよね!」

「ヒトミちゃん、みそ味だからこそ、雑炊でしょ!」

「加代さん、みそ味はうどんですって!」

「ラーメン、ラーメン!はい、多数決で決まり!」

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