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同じクラスの女子は異世界では魔王で、俺はその魔王の願いを叶えたい。

作者: ゆきろん

この世界に転移してから、数ヶ月。遂に俺は魔王と呼ばれている存在の前まで辿り着く事ができた。


転移したのは俺だけじゃない。学校の生徒、それにクラスを受け持っている各クラスの担任の先生がこの異世界に集団転移をした。


しかし、そこで起こった問題は、俺だけ皆とは別の場所に転移してしまったという事だ。

けど、なんとか幼馴染に合流し、皆で冒険し、力を付け、俺らの敵である魔王の前に辿り着く事ができたのだ。


今、魔王の前にいるのは俺一人だけだ。

一緒にここまで冒険してきた幼馴染やクラスメイトは死んだわけではない。魔王に辿り着く前までいたモンスター達の足止めや討伐をしてくれている。


俺の、目の前にいる魔王は今までのモンスターとは明らかに違った。

とてつもなく強い意志を持ち、何かをやり遂げようとしている。その力はまだ使っていないが強力だと分かっている。けど、強力な力を持っているのに、街をなどを襲うとはしない。この世界の住民は、攻撃を仕掛けない限り被害を受けていない。ただ、被害を最も受けているのは、転移してきた俺達だ。



「なぁ……本当に戦うのか?」


「ごめんね。でも私はここで止まる気は一切無いの。私にはやらなければならない事がある」


「……真紀さん」



七咲真紀。

俺のクラスメイトで、この世界で魔王と呼ばれている女子生徒。

転移してから、少し経った頃に、何名かのクラスメイトを殺し、姿を晦ませたクラスメイト。

転移する前の真紀さんは、優しく、皆からの信頼もあった。けど、そんな真紀さんが同じ学校の生徒を殺したなんて今でも信じれない。


だって、今の真紀さんには、まだ優しさが残っているように見える。

それに、どこか悲しい目をしている。こんな顔をする人が、好き好んで人を殺すなんて信じれない。



「私は、君を倒して、ここに来ている皆も倒さなきゃいけないの。皆がどんない強くても。そして、他の国にいる皆も倒さなきゃいけないの……」


「なんで皆を殺そうとするんだ!理由も無しに」


「理由は話せないの。でも私を信じて」


「それは出来ないよ。皆と約束をしたんだ。真紀さん、君を倒すと」


「そっか。それなら戦うしかないんだね。出来るだけ痛くしないで倒すから」



今までよりも緊迫した空気が部屋に流れる。


お互いの手には、剣が握られている。

真紀さんが持つ剣は、いかにも魔王が持っていそうな禍々しさがある剣だ。黒い刀身に、赤い溝が掘り込まれている。


一方、俺の握っている剣は、真紀さんが持つ剣とは対照的な白い刀身をしていて、白金の刃をしている。



お互いに、剣を構える。

光が剣に反射し、煌びやかな輝きをしている。


「行くよ真紀さん」


「……うん」


右足を引き、力強く踏み込み、真紀さんへと一直線にダッシュをする。

真紀さんと俺との間合いは一瞬で縮まり、剣の撃ち合いが始まる。



五合程剣を交え、一旦距離を置く。



「やっぱり強い」


「皆の力があるからね」



真紀さんの能力、【殺奪】。

【殺奪】は、殺した人の能力、又はステータスの一部を奪う事が出来る能力。


この異世界に転移させられた俺たちは、皆何かしらの能力を手に入れた。

人によっては戦闘に向いている能力を手に入れ、支援に特化した能力を手に入れた生徒もいた。その中でも、最強と言われていた能力の一つが真紀さんの持つ【殺奪】だ。



「この剣術は笹原君のだよ……」


「笹原か……」


笹原は同じ学年の、隣のクラスの奴の名前だ。

転移した場所は、全く別の所だったらしいが、ある程度力を付けて、調子に乗り真紀さんを殺すと言って、帰ってこなかった生徒の一人と聞いている。



「他にも私は色々な力を手に入れてる。君じゃ私には勝てない。だからお願いだから大人しく倒されて欲しいの。お願い……傷付けたくないの」


「ならもう止めようよ!どうしてそこまで皆を殺そうとするの?」


「それは、言えないの!」


真紀さんは涙を堪え、俺との距離を一瞬で縮め、もう一度剣を交える。



「なんで、そんな辛そうにしているのに、戦うの?」


「だって、戦わなきゃ、皆が不幸になるの!」



涙を堪えながら、戦う真紀さんは今にも泣き崩れそうなくらい、涙を溜めている。

こんな顔をする人が、どうしても無差別に人を殺すようには思えない。


皆の思いを背負ってここまで来たというのに、覚悟を決めてきたのに、その覚悟が揺らぎそうになってしまっている。


「もう、終わりにしよう」


「くっ!」


今までよりも剣から伝わってくる力が強くなる。


「俺もここで来て負けるわけにはいかない……」


何度撃ち合っても、決定的な一撃をお互いに与える事が出来ていない。


「はぁ……はぁ……」


「もう……お願い…倒れてよ」


「倒れるわけにはいかないよ。だってさ、真紀さんは俺を倒して、目的を果たしても、真紀さんは不幸なままでしょ?」


「………」


「だって、今の真紀さんはとっても辛そうなんだ。だから、俺はここで倒れたら誰一人救えないで負けることになる」


今にも、泣き崩れてしまいそうな人を俺は、ほっておくことは出来ない。


「俺はまず、真紀さんを助けたい。だから、俺は真紀さんに勝つよ」



一呼吸置き、今まで以上に集中する。


「行くよ真紀さん」


今までよりも強く地面を蹴り、さっきよりも速いスピードで真紀さんの目の前に辿り着く。

けど、真紀さんはこのスピードに反応してくる。


「分かってるよ」


真紀さんの目の前まで距離を縮めたが、攻撃はせずに一歩だけ後退する。

後退した瞬間に、真紀さんに数十本の剣が降り注ぐ。


降り注いだ剣は何本か地面に刺さっているが、地面に刺さっている剣は地面を抉りながら、真紀さんに斬り掛かる。

その攻撃を辛うじて真紀さんは防いでる。


「今のは流石に効いたみたいだね」


「何今の……」


「俺の能力だよ。まだまだいくよ」



真紀さんの周りからまた数本の剣が真紀さんへと降り注ぐ。


「くっ」


真紀さんがひるんだ瞬間に、距離を縮め、剣を振り下ろす。

真紀さんは辛うじて俺の斬撃を受け止める。


俺の剣を防いでいる真紀さんに向かって俺の後ろから二本の剣が真紀さんに向かっていく。


「またっ」


真紀さんは一歩後退して片方を切り伏せるが、もう一本の剣を落とす事が出来ず、剣は肩に突き刺さる。


「真紀さん、俺の勝ちだよ」


「私は諦める訳にはいかないの……負ける訳にはいかないの!」



真紀さんの持つ剣に光が集まり始める。


「天魔…斬王刃!」


真紀さんの持つ剣から放たれる、黒い閃光。

剣の持つ必殺技。ある一定以上のレア度の武器のみが所有する固有スキルと言ってもいい。


「天帝…王旋斬!」


俺の持つ剣の必殺技(固有スキル)。天帝王旋斬。真紀さんの使った技が闇なら、俺のこの技は光。


煌びやかな光を放ち、地面を抉りながら真紀さんへと向かっていく。

真紀さんの放った天魔斬王刃と俺の放った天帝王旋斬は互いの距離の半分の位置でぶつかり合う。


ぶつかり合う衝撃波は混ざり合って、閃光に変わる。



閃光が消え、細かに目を開ける。

地面を抉り、砂煙が舞い上がる。


「こ、これでどうだ……」


「コホッ、コホッ。私は……負ける訳には…」


真紀さんは剣を地面に突き立て、体を支えている。


「もういいんだ。真紀さんは休んでいいんだよ。真紀さんのやり遂げなきゃいけないことは代わりに俺がやるから休んで」


今にも倒れそうになっている真紀さんへと歩み寄る。


「わたし…は」


「もう大丈夫なんだ」


剣を地面に置き、倒れそうな真紀さんを剣の代わりに支える。


「もう【魔姫】のスキルは消えていると思うよ?今ので分かったんだ。真紀さんがやろうとしていた事。課せられた事が。でも、それはもう俺が代わりに成し遂げるよ」


真紀さんは俺と同じように、今の一撃で考えている事が流れ込んできたんだと思う。

だから、何も言わずにいるのだろう。


傷も負っている真紀さんをそっと地面に寝かせる。


「じゃあいって来るよ真紀さん。王様を倒しに!」


この日から数ヵ月後。

ある一国の王が一人死んだとの報告が流れた。

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