これが戦場
そこはまさしく戦場だった。
戦場などと優しい言葉では表せないほどの惨劇。
誰の血とも分からないような赤い地面。
痛みを堪えるような、言葉になっていない呻き声。
その呻き声がだんだん小さくなり、掠れて…無音となる。
すぐ隣で死神が笑っているようだ
「補給班!」
「包帯と薬あるだけ持ってこい!」
「C班に弾薬補給!」
罵声と怒声が入り雑じる。
「誰か、B班に弾薬補給!」
「行きます!」
補給隊の隊員から補給物資を受け取り走り出す。
目の前の光景を引き裂くかのような銃声と倒れる黒い影。
ヒトかあるいはケモノか
どちらにしても、“あの時”よりは感覚がはっきりしている。
まだ大丈夫。
補給物資を抱え込みまた脚に力を籠める。
「弾薬です!」
B班に行けば、そこは前線と変わらない激しさだった。よく見れば、そこまで第一部隊が後退していた。
「ご苦労!」
「戦況は」
「見ての通り、最悪だ。」
目を凝らせば、数百メートル先までオニが迫っている。
「こんなに近くまで…」
「変異型が複数体現れた。最悪第2ボーダーラインまで後退する。」
変異型。
翼や牙を持っていたり、大型であったりすることが特徴。共通して言えるのは、心臓一発じゃ致命傷にならない。
過去には50発でも致命傷に至らなかったとある。
それが複数体…。
「お前、訓練生だろ。第2ボーダーラインまで戻れ。弥生、こいつを第2ボーダーラインまで連れていってやれ。それから、司令部の師団長に戦況報告して応援にガドリング銃を寄越すよう言ってくれ」
「はっ。」
「ま、待ってください!自分もここの応援に…」
「訓練生だろ、朝比奈。お前は戻ってろ。」
「夜久。お前、ここの?」
「あぁ。朝比奈、お前は戻ってろ」
「そうだな。第2ボーダーラインまで後退した時に備えておいてくれ」
「まぁ、俺たちがそれまでに一掃してやるけどな」
「そーそー。お前は心配せずに第2ボーダーラインまで戻ってろ」
「他の部隊にも補給頼んだぜ?」
銃弾の補給に戻ってきた先輩隊員が笑みを見せる。
中には髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜながら撫でる人も。
この人たちなら…。
そう思わせてくれる笑みだった。
「………御武運を」
「おう!弥生。ちゃんとこの嬢ちゃん送りととけてやれよ」
「はい。行こうか」
「朝比奈、これ。」
投げられたのは時計だ。
「約束忘れんなよ。」
「わかってる。夜久、お前もな」
自分の時計を投げ返しそう一言交わせば、弥生さんに連れられてB班を後にする。
何度も振り返るが、進む度に彼らの背中は小さくなっていった。
今思えば、あの人たちのあの笑みは死を覚悟した顔だったのかも知れない。