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第七話

「ほんとに!?」


 シュティのその確かめる言葉にアヤは首を縦に振る。

 何度目だったかな、と思う。


「マユユさんたちとは言え本物の冒険者と一緒に探索できるなんて……」

「さすがアヤだ!」

「アヤちゃんすごいよぉー」


 ララですら興奮気味に話している。それにしてもこの三人はあの長旅を忘れてしまったのだろうか。

 七日と言う日数は間違いなく響いているはずだし、冒険者ともなれば馬車なんてものは用意など出来もしないだろう。

 退屈な七日間を過ごして昨日まで疲労困憊、といった表情であったのに朝起きて、クレス、ララ、キサラギの三人と一緒に出る、と話した途端、この様子。


 一方のロベリアは――


「勝手に決めて……ひどいよ……私も楽しみたかった……」


 などと、最後の言葉は間違いなく『勝手に決めた』と言うことよりも単純に三人とバカ騒ぎをしたかったようにしか思えない。

 とは言ってもロベリアは昨日ついたら速攻寝ていたわけで、準備をしようとアヤが起こしても寝ていたではないか、と思う。


 それぞれの反応を見ているうちにフェランシの西門へとたどり着けば、既に三人は居て待っていた。

 キサラギは五人を見てぞろぞろと人の気も知らずに、と言っていたのが聞こえたりもしたが、たぶんアヤ以外の四人には届いていないだろう。

 マユユが三人を歓迎し、ロベリアはクレスと何やら話している。

 総勢八人となった一行は、フェランシの西門より出て目的の地点へと向かう。


 このメンバーになったことを一番よく思っていないキサラギのことを考えアヤは謝罪を入れておく。先々で、特にダンジョン内で揉めるなどはもってのほかである。


「キサラギさん、すみません」

「お前が気にすることは無い。俺たちとしても召喚士が加わるのは心強いところもある。もっともお荷物が多すぎると言う点は否めないがな」


 いくら成長したとはいえララもシュティもエドも、三人から見れば未熟なのだろう。

 実際、アヤから見ても戦力として数えることはできないと思わざる得ないが、そこはカバーするしかない。

 もとよりアーベルが良いと言うお墨付きを出したのも、アヤやロベリアが居るからであって、決してこの三人だけでは、間違いなくアーベルは二つ返事をすることは無かっただろう。


「それよりアヤ、お前。俺たちがイルレオーネに居た半年間ずいぶんと嗅ぎまわっていたようだな」

「……知ってたんですか?」

「バカか、当然だ」

「なら教えてくれても良かったじゃないですか……」

「阿呆か。何を知りたいのを知らないんじゃ教えられるものなどない。それに俺はお前が何でイフリートやフェニックスと言った使い魔を使役しているのかも聞いていない。お前がその答えを教える気がない。そして俺はお前が何を知りたいのかを知らない。ならば敢えて聞いてやる必要も教えてやる必要はないと思うが」


 言葉が続かない。

 キサラギにとって有用な答えを用意して、情報の交換といこうということだろう。

 どうしたものか。

 信じるか信じないかは別としても、敢えて隠す必要などなく、話してしまえば良いのだろうか。

 しかしもし、それが原因でシュティやララにアヤの過去が漏れてしまったとしたら、それはそれで今後の付き合い方が変わってしまって――


 考えれば考えるほどドツボにはまってしまう。

 思考の深みに足を取られる。


「おい、ぼさっとするな。着いたぞ」


 キサラギに注意され顔を上げると、剥き出しとなっている岩肌に大きな穴が開いていて、先が見えない深い深い闇が続いていた。

 シュティとララがその闇の深さに足踏みをしている。


「明かりはあるか?」

「あるよ!」


 クレスの問いにロベリアが答える。

 明かり――そう言えばアヤは用意していなかった。

 イフリートのような使い魔を出せば何とかなると思っていたのだが――

 その考えを察したのかキサラギが注意する。


「アヤ、お前、この中ではイフリートを出すんじゃないぞ」

「え……?」

「阿呆が。もう少し賢いと思っていたのが買い被りか? 普通の魔法で使える程度の炎ならまだしもあの中でイフリートを出そうものなら蒸し風呂になるぞ。少しは考えろ。まあそれ以外もあるがな」


 どこまで続いているか分からないとはいえ、閉塞された空間で出せば確かにそうかもしれない。

 ともなればある程度、使用可能な使い魔も限られてきそうではある。

 タイタンはもってのほか、ウンディーネも厳しいかも知れない。

 ともなればシルフィードや、ノーム、後はキサラギの追及が恐ろしいのであまり考えたい状況ではないがティターニアと言ったところだろう。


「……分かりました……」


 となれば明かりはロベリア便りにはなるのだが、と思っているとロベリアは何やら取り出しクレスへと渡す。

 見ればいつだかロベリアが魔道具店に居た時にあの店主から受け取っていた珠。


「はい! クレスこれだよ!」

「なかなか高価なもん持ってきてるな。イルレオーネの王国からの依頼ってことだけあるな」

「おー、ホントだ。でもこれで採算とれるの……?」


 マユユがアヤと同じ疑問を感じているらしい。

 やはりそこは誰もが疑問に当るところなのかもしれない。

 だがキサラギはそれを否定する。


「バカが、イルレオーネの調査団が封鎖してた頃があったのを覚えていないのか?」

「そういやそうだったな」

「恐らくあの時、採算が取れると判断したんだろう。まあ調査団程度であればどこまで調査が進んだかは分からんがな。少なくとも調査した範囲での決定だろう。もっと期待できるってことだ」


 そう言えば一度、派遣していた、とロベリアは言っていたが、なるほど確かに採算が取れると判断しない限り無理をしてまで取りに等いかないだろう。


「まあいい。とにかく行くぞ」


 キサラギの指示でクレスから洞窟の中へと入っていく。

 冒険者に歓喜していたハズのシュティもララも、不安げな表情でアヤを訪ねる。


「アヤ……平気かな?」

「大丈夫、私もいるし、ロベリアもいるし、それに冒険者のプロも居るから平気だよ」

「うー、暗いところ少し怖いかもぉー」

「ふ、任せたまえ! この俺が先陣を――」

「おい、お前は後ろだ。クソガキ」


 クレスの後に続こうとしたエドがキサラギに引っ張られ、無理やり後ろに行かされる。

 そこそこ良い顔が情けない様子で後方へと押しやられるのは、普段のこともあり少し面白い。

 エドも負けじと何かを言おうとするも、キサラギに睨みを利かされ押し黙る。

 これは非常に情けない。魔法学院でエドを崇拝している女子生徒にはぜひとも見てほしい一面だ。


「ララとシュティも固まってねー。アヤと私でカバーするから」


 と、マユユが言うと視線をアヤに向け頷いてきたので分かったと意味を込め頷き返す。


「よし、じゃあロベリア借りるぞ」

「うん! 使ってー」


 クレスが言うと、珠が仄かに明るくなったと思うとすぐにその光源は大きくなって辺りを照らすには十分なほどになる。

 足元までしっかり見えるほど大きな光で、少なくとも松明ではここまでの明かりは出せないだろう。洞窟内でこれだけ明るいのはありがたい。


「へー、便利だね。キサラギ、うちもこれ使おうよ」

「バカを言うな。どれだけ高いと思ってやがるんだ」

「え、そうなの?」

「この光源を欲しがらん貴族や豪商が居ないわけがないだろう。おまけに熱も出さない魔力の結晶でできているからな。そもそもの産出量も少ない上に家屋におくなら最適だ。少なくとも何らかしらで一発当てないと無理だ」


 えー、と不満そうにするマユユ。

 と言うかそんな高価なものを置いているあのお店、みすぼらしい外見とは裏腹に物凄いお店なのではなかろうか。


 中に入ると外よりもだいぶひんやりとしており、少し肌寒いくらいだ。

 自然に出来たとは思えぬ平坦な道のりは、アイリスの時代を思い起こして、なんだか懐かしい気持ちになれる。


「と、いきなりか」

「うわぁー……」


 先頭のクレスとロベリアが足を止める。

 見ればガーゴイルの群れが広がっていた。

 調査団がどれ程のモノだったかは分からないが、なるほどこの数を相手にするのはそれなりに骨が折れるだろう。


「ちょうどいいな。どの程度出来るか把握するためにもお前らがやれ」

「ちょっと、キサラギ?」

「マユユ、戦力の把握は重要だと思うが?」

「まあそうだけど……」


 確かに実戦経験のない、ララ、シュティ、エドの三人をこのまま連れて行くよりも多少なりとも実践を積ませた方が良いと言うのは分かる。

 何よりいざと言うときを考えても場数は踏ませておくべきだろう。


「ララ、シュティ、エド。行けそう? フォローはするからね」

「だ、大丈夫!」

「ふ、ようやく出番か! 任せたまえ!」

「うー、自信ないよぉー……」

「大丈夫だよ! 私がちゃーんとたくさん教えてたんだから!」


 胸を張るロベリア。

 その多くをフォローしていたのが誰だかを忘れないでほしい。


「来たぞ」


 キサラギが警戒の言葉を発する。

 こちらの会話などガーゴイルは待つ気も、義理もない。


 ガーゴイル群れにエドが得意の炎を放つ。ガーゴイルの甲高い、悲鳴のような声が響き渡る。

 ――が、石で出来たガーゴイルの肌を少し焼く程度で、致命傷にはならない。

 初めて受けたのだろうか、ガーゴイルは悲鳴を上げたものの、意外にも自らにダメージがない事に気付いたのか、エドへと向かってくる。


「クソッ」


 悪態をつくエドにガーゴイルが迫るが、シュティが水の魔法でガーゴイルを押し流す。

 どうやらこちらは効果が高いようで、石で出来たガーゴイル流すことでパラパラと崩れていく。

 ララはその流れからこぼれたガーゴイルに突風を吹き付け、水の流れの中にガーゴイルをおしこめる。


「なかなかやるじゃねえか」

「そのようだな。少しは使えるか」


 アヤも思っていたよりも出来る、と思っていた。

 初めての実戦であるし、もっと動けないものだと思っていたが、そうでもなく、気づけばガーゴイルの群れは数を減らし――


「これで終わりだ!」


 エドはそういうと、ガーゴイルを蹴り飛ばす。

 魔法使いとしてそれはどうなのだろう、と思うがエドは剣の訓練も家で受けていると以前言っていたことを思い出す。

 マユユのような形で魔法剣士として成長すれば、大きな伸び代があるのかも知れない。

 フェランシの街に戻ったら剣を持たせることをロベリアに打診してみよう。


 全てが片付くとへなへなと座り込むシュティ。


「こ、こわかったー」

「私は楽しかったよぉー」


 ララの神経の太さが滲み出ている。

 さすが男を好きなように使えると言う闇を持っているだけある、と言えばいいのだろうか。


「準備運動にもならなかったな!」

「舌打ちしてたけど?」

「あ、アヤ聞こえていたのか!?」


 もちろん聞こえていた。

 談笑はそこで中断される。


「おい、グズグズするな。先に行くぞ」

「おいおい、初めてなんだから少しくらい待ってやれって」

「そうそう、キサラギは急ぎすぎ」

「キサラギは悪い!」


 クレスとマユユがキサラギに反論し、ロベリアは反論になっているのか、単純にディスっているだけなのかは分からないが、キサラギに睨まれてあわわ、とマユユの後ろへと隠れる。

 キサラギは悪態をついたが三人に言われては仕方がない、と諦めたのだろう。

 それ以上言うことは無く、シュティが立ち上がるのを待つのだった。

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