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第五話

 昨日はどこまで何を話していたっけ、とアヤはしょぼしょぼとする目をこすりながらゆっくりと体を起こす。

 周りを見渡して、みんながまだ爆睡しているところを見ると、記憶が徐々によみがえってくる。


 確か、ロベリアが最初にコテっと寝てしまって、一番年上なのにやっぱり見た目通りだと言う話をして……その後から記憶がなくなっていた。

 アヤもそのあたりで力尽きたのだろう。


 ララもシュティも突然の訪問だったので、そう言えばと思うが今日は通常日、いわゆる休みではない。

 のそのそとアヤは起き上がると、小さく寝息を立てていた三人を起こして回る。


「おはよー……」


 最後まで起きなかったロベリアが、そんな弱々しい声を上げようやく全員が起きる。

 どうやら、と言えばいいのか、やはり、と言えばいいのだろうか。昨日は夜遅くまで起きていたようでいつもよりも時間が遅かったらしく、一様に忙しそうにしている。

 シュティとララに至っては何でもう少し早く起こしてくれないの、と言っていたのだが、アヤの起きた時間もそう変わらないので無理な注文だろう。


 シュティもララもそしてロベリアでさえも身なりを整えて準備をしていたが、アヤは別段変わることはない。

 いつも通りいつものようにあまり気にすることなく、寝癖を直す程度に準備を終え、三人、特にララとシュティが念入りに何やらを行っているのを見る。

 余りにも熱心に行っているので疑問に思い、毎日やってるの、と聞けば二人とも毎日やっているらしい。時間のあまり取れないであろう朝によくそんなことができるものだ、と感心できる。


 そうこうしているうちに時間は早くも出なければいけない時を迎え、四人は家を出ると、歩き始めてようやく一息つけたのだろう、シュティがため息をついて口を開く。


「はー、もう……昨日は夢中になりすぎちゃった……っていうか先生は早く寝たんだから起きてよー」

「のー! 私はいっつもアヤに起こしてもらうか、執事の人に起こしてもらってるんだもん! 無理だよ!」


 胸を張って言うことではないであろう。


「先生……それ情けないよ……」

「え? そんなことないよー? 普通だよね?」

「そうだよぉー。私も起きれないよー。普通だと思う」


 二対一の状況となって、シュティ、ロベリア、そしてララがアヤの方を見てくる。


「……普通はあんまり威張れないと思うよ……」

「やっぱりそうだよね?」

 

 シュティの疑問にアヤは頷く。

 当然であろう。

 起きれるか、起きれないか、で言えば起きれた方が良いに決まっている。


「えー、そんなことないよぉー」

「そうだそうだー!」

「ほう、何の話だ?」


 と、突然背後からの声に四人は振り返る。

 エドだ。鼻につく笑顔が今日も眩しい。

 大通りを歩いているところ、エドが四人を見つけたのだろう。


「あ、エド! ねえ聞いてよー」

「どうした、ララ」

「あのね、シュティとアヤが朝起きれないのは情けなくて普通じゃないんだってー」


 なんだか少し解釈が違うような気がする、とアヤは思うものの何も言わない。

 まあ大まかなところはあっている。

 聞いたエドは、一つ頷いてアヤとシュティを見る。


「それは間違っている! 俺は毎日ちゃんと母上に起こしてもらっているぞ!」


 ……それはどうなのだろうか。

 この世界では普通なのだろうか。

 そんな疑問がアヤの頭をよぎる。


 十五年も、いやもっと前のことになるが、当時のことを考えればアヤもエドのことは言えた義理ではなかったであろう。

 だがこの内容は少なくとも人に大声で言うような内容ではない。


「エド……」


 見るとララも少し引き気味。

 シュティは顔に出ている。もう少し隠した方が良いのではないだろうか。


「なにかおかしいのか!? アヤ、俺はおかしいのか!?」


 なぜこっちに振るのだろう、とアヤは思うが、仕方ない答えてやる。


「おかしいんじゃないかな?」

「な、ど、どこがだ!? どこがおかしい!?」


 全部、と言ってやりたいのを堪える。

 いやこの際だから全部と言ってやった方が良いのだろうか、と頭の中で渦巻くがさすがにそこまで言ってはかわいそうかも知れない。


「全部だと思うよぉー」


 そんな胸中を知ってか知らずか、アヤの迷っていたことをそのままに、ララが口を挟む。

 まさか同じことを考えていたとは、と感心していいのか、それとも失意の表情をしているエドに同情をすればいいのか、難しいところだ。


「あ、アヤそんなことないよな!? そうだよな?」


 アヤは見てはいけないものを見てしまった、とでも言いたげに目をそらす。


「そんなバカな……この俺が間違えたと言うのか……!」

「エドは間違いだらけだよ!」

「ロ、ロベリア先生まで!?」


 シュティと、ララと、ロベリアの三人が笑い声をあげ、エドがあたふたとしている。


 そういえばこんな風に笑いあえるような仲間と言うのは今まであっただろうか、とアヤはふと考えてしまった。

 十五年前のあの日、ラグナロクを完成させたことなのだろうか、それとももっと別の何かなのか、結局のところ分かっていない。


 この二年の間にジンもマユユもクレスも再び冒険者としての道を歩んでイルレオーネから離れて行ってしまった。

 聞くことの出来なかったプレイヤーと言う言葉も、果たして今は本当に聞いた方が良いのか、とすら考えてしまう。

 それに強くなれ、と言ったレヴィンもイルレオーネに来るとき以来、姿を見せていない。

 二年前のアレは本当は別人だったのでは、と思ってしまうほど、アヤの記憶は色あせて今が続けばいいと思ってしまう。


 十五年前、あのまま行っていたらどうなっていたのだろうか。

 アヤは首を振る。

 と、突然シュティが声をかけてきた。


「ねえ、アヤ?」

「え、あ、シュ、シュティ、なに?」

「うーん、なんか深刻そうな顔してたからどうしたのかなーって」

「そうだった?」


 アヤの顔を観察するようにシュティが眺めてくる。


「……気のせいかな?」

「だと思うよ」


 そっか、と言うとシュティは再びアヤの前を歩きだす。

 考えても仕方がない、とは言えないが今ではもう遠い過去の話なのだ、と言い聞かせるとアヤも輪の中へと入っていくのだった。



-----------------------



 教壇に立っても威厳がまったく見えないロベリアが胸を張っている。

 先ほどまで一緒に来ていたのに変わり身の早いことと感心せざる得ない。


「今日は……と言うかしばらくはだけど、皆には魔力結晶を取りに行ってもらうことになりましたー! と言うことで旅立ちます!」


 ぱちぱちーと手を叩くわけでもなく、口で言ってロベリアが一人虚しく話を続ける。


「アーベルがね、最近できた……あれ?」


 ようやく温度差に気づいたらしい。


「ロベリア、どういうこと?」


 静まり返ってしまった教室内で仕方なく、アヤが質問をする。


「んとね、イルレオーネとしてアーベルは魔力の結晶が欲しいんだけど、魔力の結晶が集まったところを最近見つけたらしいの。でもイルレオーネとして騎士団を派遣したんだけどダメだったんだって。それでアヤとこのロベリア様! に取りに行って欲しいみたいなんだけど……」


 説明がバカっぽいのは何時ものことだとしても、とりあえずアヤは整理をする。


 ようするにイルレオーネ内でアヤとロベリアを除く現存する戦力では採取が厳しい、しかしながらイルレオーネとしても魔力の結晶は欲しい。

 ともなれば、アヤとロベリアに頼まざる得ないということだろうか。

 ロベリアは話を続けた。


「私は授業あるし、アヤも魔法学院の生徒だから、って思ったところ! 授業として取りに行けばいいんじゃない、って言ったらそうしようってなったの!」


 ……少し無理がある気がする。

 けれどもシュティやララ、そしてエドはそうは思わなかったようでなんだか嬉しそうにしている。

 そもそも生徒である四人を連れ旅に出るなどと言うのは行って良いのだろうか。


「先生! それってどこなんですか?」

「シュティ! いい質問! なんとここから一週間も離れたところなの!」


 それを聞いてシュティとララは嬉しそうだ。

 イルレオーネと言う便利な都市を離れ一週間、何がそんなに嬉しいのだろう。


「なんか冒険者っぽい」

「うんー、ちょっと嬉しいー」


 その言葉を聞いてアヤは少しばかり納得をする。

 ララとシュティは冒険者というものに憧れを持っていた。

 そんな背景を考えれば確かに少し遠出し、最近発見された――つまり未知の場所の探索と採取ともなれば冒険者と言うに相応しいであろう。


「で、出発は?」


 アヤが肝心なところを聞く。

 まさか今日と言う訳でもないだろう。

 が、そのまさかの言葉が飛び出してきた。


「今から!」


 ……なぜこうも突拍子のない事を言うのだろうか。

 周りの気分は既に冒険者。

 ロベリアもその気になっている。


 果たして安全な旅ができるのだろうか、アヤは不安になるばかりであった。

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