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第四話

「ねー、アヤ?」


 シュティがいつもアヤが寝ているベッドの上に寝転がって話しかけてくる。


「なに?」

「エドとはどうなの?」

「……と言うのは?」

「だって毎日毎日あんなふうに言われて何とも思わないの?」

「あー、それ私も気になるー」


 椅子に座ってパタパタと、湯上りの熱を冷まそうとしていたララがそれに乗っかってくる。

 どれ程言われようが、そもそもエドなど野菜の切れ端程度にしか考えていないわけで。


「なんにもないよ」

「ほんとにー?」

「むしろ二人は何かあって欲しいわけ?」

「やっぱりエドは不憫だねー」

「エドかわいそぉー」


 二人そろって落胆しているように見えるのはどういうことであろう。

 諦めたらなんて普段はエドに言っているのに、本当はそう思っていないと言うことであったのだろうか。


「いつもエドに対して脈ない、なんて言ってるのに何でわざわざ……分かってるでしょ?」

「えー、だってもしかしたらフリかも知れないでしょ?」

「私もそう思ってたぁー」


 そんな風に思われていたとは、と思うとアヤは消沈で吐息が出そうになる。

 どう言った経緯でフリと思われるのか。


「あ、そう言えば今日エドと会ったよ! ね、アヤ?」


 ロベリアが知らせる必要などない無用な情報を口に出す。


「そうなの!?」

「ロベリアちゃんどうだったのぉー?」

「あのね、二人とも、何もないからね」


 アヤは牽制を入れた。

 いらぬことをしゃべられては困る。


「アヤは黙ってて!」


 何もそこまで言うことは無いのでは、と思わせる剣幕でシュティがアヤに圧力をかけてくるので黙る。

 そんなアヤを見て満足したのか、シュティはロベリアに向き直って話を続けた。


「で、先生、どういうことなの?」

「んっとね、今日魔道具のお店から帰るときにエドと会ったの」


 コクコク、と二人が頷いている。

 一方のアヤは何か余計なことや、ありもしないことを言われるのではとハラハラしていたが、予想とは違い、ロベリアの話は意外にも事実を述べるだけに終わった。


「エドがアヤに、もう少しお淑やかに出来ないのか、っていってたよ!」


 その言葉に黙る二人。

 やはりロベリアはロベリア。

 まさか予想の斜め上を行く作り話など出来るわけもないのだ。

 そもそもそんな知能を備えていないのかも知れない。


「ごめん……やっぱアヤの言うとおりかも……」

「うんー……ごめんね、アヤちゃん……」


 申し訳なさそうに謝ってくる二人であったが、納得してくれたようだ。

 それを見てアヤは満足して、良いよ、と二人の言動をこれ以上咎めようとはしない。

 結局、アヤからは何も出てこなかったせいだろう。シュティは残念そうにしながらも、ララへと話題を移す。


「はー、なんか楽しい話ないの? ララは?」

「ないよぉー……みんなアヤちゃんとシュティちゃんばっかりだもん……」


 シュティの言葉に自ら墓穴を掘ったかのように落胆しつつ答えるララ。

 なんかあればいいんだけど、と呟いているララを見て、やはりララのファンがいると言うことを素直に話した方が良いのだろうか、とも思えてしまう。

 しかしララの良いようにできる、と言う発言を思い出し踏みとどまる。


「それよりシュティちゃんの方こそあるんじゃないのぉー? 私聞いたよー」

「な、なにを!?」


 ララの言葉にシュティが寝転がっていたベットの上で突如起き上がる。

 焦っているのが分かってしまって、なんだか可哀相にも思えたが、先ほどのお風呂での出来事を考えれば少しくらい追いつめても良いだろう。


「焦ってるってことはホントかな?」

「あ、アヤ!? ち、ちが」


 合いの手を入れたことで気を良くしたのか、ララはシュティの言葉を遮ってアヤの質問に答える。


「うん、そうみたいなのー。なんかブレンドレル家の人に言い寄られてるんでしょー?」

「だからちがうって!」


 その焦り方が余計に怪しいと言わざる得ない。

 気付いていないのだろうか。


「もう観念しなよ」

「うー、わかったよー」


 シュティはこれ以上やめて、とばかりに手を上げて降参をアピールをして観念する。


「言い寄られてるって言うか……どっちかって言うと困ってるんだよね」

「困ってるのー? ほんとー?」

「ほ、ほんとだってば! 信じてよ、ララ!」

「どうだかぁー」


 普段は元気で明るいシュティであったが責められて心なしか、しおれた花のように元気がないようにも見えなくない。

 少しやりすぎたかな、とアヤは思いおくが、今日は泊まりで特別な日。少しくらい良いであろう。


「だって……何度も断ってるんだけど……毎日くるんだよ? 断ってるのにほんとに困ってるんだからね」


 なるほど、それはストーカーと言うのではないであろうか。

 種類を考えればエドと同じ部類だと思うのだが、そうであればエドのことについて迷惑していると言うことも少しは分かってもらえそうなのに、とも思う。


「えー、つまんないー」

「つまんないって言われても……私は冒険者になりたいんだよ? ララにも言ったでしょ?」

「だって冒険者にはなれないよぉー。私はもう無理って諦めたもん……」

「まだ分かんないでしょ?」


 そうだけど、とララは言いつつもやはり納得はし切れていない様子。

 シュティはその美貌を兼ね備えながらも、二年前に話していた冒険者への憧れと言うのは捨てきれていないらしい。

 はぁ、と少しため息をついて、ララの狙いはロベリアへと移る。


「じゃあロベリアちゃんは?」

「……私は……若くないから……」


 ずーんとまるで何かに憑りつかれた様なオーラがロベリアの周りを漂う。

 重い。

 重力の魔法と言うものが存在するのであれば、きっとロベリアは重力魔法の天才であろう。

 しかし残念ながら重力の魔法なるものは存在を確認されていない。つまりこれはロベリアの心の奥から湧き出るドス黒いオーラだ。


 そして一言。


「……ばばあだから……」


 アヤがいつも言うことを自ら十字架を背負って言った。

 それによりさらに深いダメージを受けたのか、ぽろぽろと涙が零れ落ちているようにも見えなくない。

 遠い日を眺めるような目で、ロベリアが語る。


「みんなはこんな風になっちゃダメだよ……」

「せ、先生……」


 シュティはフォローのしようがない、とばかりに暗い声。

 ララもなんだか突いてはいけない、ブラックボックスをついてしまったと、なんだか肩をすぼめている。


「えーっと……ロベリア?」

「……なに……」


 重く、目がうつろになっている気がする。

 そういえば魔族と言うのは人間の五倍ほど生きると言っていた。となると、百五十一と言うことになって即ち……人で言えば三十路を超えたあたりになると言うことになる。

 もしかしたら三十路を超えたと言う事実がロベリアを落胆させているのだろうか。

 あまりにも酷い落胆ぷりで、見ているこちらまで気が滅入ってララとシュティも話が続けにくそうなのでアヤが鼓舞の言葉をかけてやる。


「人の女性の魅力と言うことになるんだけど、女性の魅力は三十をすぎてからと言う言葉があるんだ」

「……どういうこと……?」

「良いか、女性の魅力……」


 そこまで言ってアヤはハッとする。

 三十の魅力とは……例えば包容力。

 ロベリアをチラリ、とみてもすぐにわかる。

 ない。

 ならば頼りがい……も、ない。

 落ち着き……もう少し落ち着いてくれればアヤも楽だろう。


 三十と言う年齢を重ねたからこその魅力が何一つない。

 どう言うことであろうか。


「……えーっと、とにかく女は三十からでも魅力があるんだよ」

「た、たとえば……?」


 そう来たか、どう答えればいいだろう。

 いや、とアヤは考え直す。

 ここは魅力と言う言葉で押し切るしかない。


「魅力はある。必ず」

「……例えば……」

「ロベリアの魅力は私がちゃんと気づいてるから大丈夫」


 はっきり言って三十の魅力と言うものが何もないロベリア。

 もうこれで納得してくれなければ、どう答えればいいのか分からない。

 すると、そろそろと顔を上げるロベリア。

 気のせいか重力魔法も少しだけ緩和されている気がする。


「嬉しいけど……女の子はちょっと……」

「……うるさい」


 励ましてあげたのになんでこんなしっぺ返しを食らわなければならないのか。

 納得できぬまま、ララとシュティが新たな話題を引っ張り出して、その日は夜遅くまで話が続くのであった。

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