表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

第三話

「やほー」

「アヤちゃん、やっと帰ってきたぁー」


 アヤは隣で小さく笑いだしたロベリアを睨む。

 なぜララとシュティが家に居るのか、その答えを間違いなく知っている。


「ロベリア……どういうこと」

「呼んじゃった……てへ」


 アヤがロベリアの頭を持っていたラグナロクでたたくと、ポコンとまるで中身がない器の用な音がする。

 きっと脳みそが入っていないのだろう。


「いったぁー……アヤ、今日なぐりすぎだよ! ひどいよ! お嫁にいきぇ」


 再び殴る。

 木魚にでもしてやろうか、とアヤは思う。


「アヤ、別に良いじゃない?」


 シュティに説いてやりたい。

 たとえばそれは元男であったとしても同じことが言えるのかと。

 今までずっと避けて来ていたお泊りイベントをついに迎えることになるのかと考えるとアヤは気が重い。

 しかしせっかくココまで来たシュティとララ。

 無下に返すわけにもいかないし、二人は泊まるつもりで来ているのだ。


「びっくりしたぁ? でもねぇ、ロベリアちゃんがアヤちゃんをびっくりさせたかったんだって」

「あ! ララだめ!」


 ロベリアの言って欲しくない真実がアヤの耳に入る。

 それを察したのだろう、ロベリアがそろりそろりと伺うようにアヤを見てきた。


「へぇー、そうなんだ……」


 アヤはそういうと再びロベリアを睨み付ける。

 借りてきた猫のようにすっかりと縮こまってしまうロベリアだが、関係ない。


「どうしてそういう大事なことは相談しないのかな? ねぇ、ロベリア? 言ってる意味わかるよね?」

「……うん……」

「じゃあどうしてなのかな?」

「さいきん……その……アヤがつまらなそうにしてるから……」


 そこでまるで何かを溜めるようにロベリアは言葉を区切る。

 間抜けで、どうしようもなくおバカで、行く先々で自己中を披露して、みんなを困らせるロベリア。

 でもそんなロベリアでも、もう八年の付き合いになる。

 やはりアヤのことをよく分かっていてくれて、心配してくれていたのだ。

 そう考えると、少し嬉しかった。

 許してあげよう、アヤがそう思えた時、ロベリアは続きを紡ぐ。


「その……困る顔が見たくて……」

「……」

「てへ」

「いっぺん出直して来い!」


 アヤはロベリアを思いっきり蹴っ飛ばすのだった。


----------------------


 この時が来たのか、とアヤは思ってしまう。

 今までは何とかのらりくらりと避けてきたのだが、ロベリアと一緒に住んでいる以上、やはり避けられない事なのだ、と思わざる得ない。

 それは大勢でのお風呂。


 憂鬱な気分であったが、流石に断っては変に思われるかもしれない。

 こうなればもう腹をくくって、そう、考え方を変えれば良いのだ。これは合法的に覗ける最高のチャンスではないか、と。

 そんなわけで諦め半分、そしてこうなってしまった以上楽しもう、とお風呂の脱衣所に足を踏み入れたアヤ。


 するとロベリアはジロジロと、服の上から舐めるようにシュティとアヤを見比べ始めた。

 と、まるで何かに納得したかのように何度か頷いたと思うとロベリアはシュティの腕をつかんで、勝者を決めるようにシュティの手を上げる。


「シュティの勝ち! アヤちっちゃい!」

「も、もう先生!」


 シュティはそう言われると少し恥ずかしそうにし、一方のララはシュティをじーっと眺めている。

 そしてアヤは――ロベリアにそう言われ、イラっとする。

 ジロジロと舐めるように見られていたのは胸。

 もともと男であった以上、小さければ小さい方が良いと思っていたのだが、こうしてまじまじと見られ、そして小さいと面と向かって言われると気に障る。

 それがまったくない貧乳ボディのロベリアに言われるとなおさらだ。


「ほー、ロベリア。無い乳のどの口が言うんだね?」

「だってほら!」


 指をさした先を見れば、確かにシュティの胸は服の上から見ても大きくて、もしアヤが昔の引きこもっていた時代であれば間違いなく直視できないくらい刺激的であっただろう。

 もっとも今では、アヤ自身の体を長いこと見てきたと言うこともありジロジロとガン見するが、やはり大きい。

 揉み砕いてやりたい。


「……まあ確かに……」

「でしょ?」

「シュティすごいですぅ……早く脱いでくださいー」

「ちょ、ちょっとララまで……?」

「よーし! ララ! 一緒に脱がせよう! こんなけしからんボディはロベリア様が吸い取ってやるのだー!」

「はぁーい」


 そう言ってロベリアとララはシュティを剥きだす。

 普段はおっとりとしたララも、体つきに関しては並々ならぬ関心があるようで、ロベリアと共に無理やり引っぺがしている。

 見えそうで見えない胸が、ポロリポロリとモザイクをかけなければならない状況へと変化していく。

 エロい。アヤはいつ、鼻血が出てもおかしくないのでは、と思ってしまう。


「ちょ、ちょっと! 二人ともやめてよ!」

「良いではないか!」

「よいではないかぁー!」


 ララとロベリアはノリノリで標的になるのがアヤで無くて本当によかったと思う。

 脱がしきられ、生まれたままの姿となってタオルで隠そうとするシュティ。そしてそれを阻止しようとロベリアとララがタオルすらも取り上げる。

 予想以上の体つきに思わずアヤも凝視してしまう。

 なるほど、確かに良い体だ。けしからん。


「さて……じゃあ次は……」


 ララとロベリアの二人が、アヤの方を向く。


「え……?」

「アヤの番だ!」

「アヤの番だぁー」

「ふざけ……」


 抵抗しようとロベリアを羽交い絞めにしようとしたが先手を取られてしまう。

 ロベリアの巧みな指示が、ララを動かしアヤを拘束する。


「ララ、そっち抑えて!」

「はぁーい」

「シュティ助けて!」

「アヤ……頑張って……」


 まじでか、と言う言葉がアヤの頭の中に大きく灯る。

 シュティが脱がされているとき、助けず凝視していたからだろうか、それを見られていたのだろうか。

 ロベリアとララはアヤをも脱がしにかかり、それが妙に乱雑なせいか、くすぐったくて息が荒くなり思わず笑い声が漏れる。


「あ、あはは……ちょ、す、ストップ! まって……!」

「ダメ! アヤはいっつもロベリア様を苛めるの! 今はチャンス! ララやっちゃえ!」

「ロベリアちゃん、任せてぇー」


 結局二人に一糸まとわぬ姿にまでされて、ようやく解放された。

 すると、アヤが一糸まとわぬ、生まれたままの姿にされたと言うのに二人の表情は浮かばない。

 ロベリアがポツリ、と呟く。


「アヤ……意外とないね」

「うん……」

「は!?」


 はぁはぁと笑いすぎて息が荒くなった中、アヤはタオルを身体に巻きつけていたところのその言葉。思わず声が出る。

 どう言うことであろうか。

 いくらアヤがあまり胸が無い方が良い、そう思っていても脱がせておいて、その一言はさすがに癪に障った。

 二人はアヤの声を無視して続ける。


「シュティが凄すぎるのかなぁ?」

「いやー、アヤがないんだと思うよ!」

「おい……どういうことだ……」


 アヤが言うと、そろりそろり、とロベリアとララがアヤの方を向く。


「脱がさせてその言葉はちょっとないんじゃないか……?」

「うう、アヤちゃん怖い……ロベリアちゃんあとお願いー」


 言うや否や、ララはあれよあれよと言う間に服を脱いで、そのままお風呂へと入っていく。

 慌ててロベリアも後に続こうとするが、焦っているせいだろうか、手つきがおぼつかず、服をうまく脱ぐことが出来ない。


「ラ、ララ!? 待ってよー!」

「さーて、ロベリア?」

「あ、アヤ……?」


 ズボンを脱ごうとしていたロベリアだったが、うまく脱ぐことが出来ず、片足立ちでアヤから後ずさる。


「服を脱がせておいて意外とないって言うのはどういうことかな?」

「だ、だってアヤは前ない方が良いって……そ、そう! 褒めてるんだよ!」


 まったくこういう時ばかり頭が回るのはどういう理由であろうか。


「へぇー」

「も、もしかしてアヤ、女の子として目覚め……」

「そんなわけあるか!」


 そうアヤは言うとロベリアを思いっきり蹴飛ばしてやると、ロベリアは脱ぎかけたズボンに引っかかって盛大に転ぶ。

 そんなわけあるか、とは言ったものの、胸がないと言われイラっとした事実にアヤは男としてどうなのだろうか、と言う疑問を残しながらもお風呂にへと入る。


 と、既にララとシュティが第二回戦を始めていた。


「シュティー。私にさわらせてぇー、大きくなるかもぉー」

「ならないから! 絶対そんなことないから!」


 なんだか思っていたのと違うな、とアヤは思いつつ、身体を流し喧しい中で湯船の中から二人の体を吟味する。

 こうして現に二人の身体を見て嬉しく思う事を考えれば先ほど、アヤが胸がなくてイラっとしたのは、きっと気のせいだろう。

 けれどもいくらそう思っても、やはり男の時ほど興奮できず何か違う気がして、なんだかとてもやり切れない。


 はあ、と一つため息をつく。この十五年間、アヤは自分は女の体であっても心は男である、と思っていた。

 先ほどの胸がないと言われ、気に障ったことも、今のこの状況で凄く興奮できて居ないことも。

 このまま男のつもりで生きていけるのだろうか。そう思うと、アヤの中で大きな悩みの種となってニョキニョキと育つのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ