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第二話

「ロベリア」

「アヤ!?」

「魔法学院に来ないで、なんでこんなところに居るのか位は聞いても良いかな?」

「それはー、そのー」


 妙に歯切れが悪い。

 なにか隠し事でもしているのだろう。


「良いから吐け」

「おう、ロベリアちゃん、言われてたやつ……って」


 店の店主が驚きの表情でアヤを見ている。

 そういえばこの店にはヴリトラ討伐以降来ていなかった、とアヤは少しだけ後悔した。

 アーベルの通達がイルレオーネ全体へ行きわたっているとはいえ、初めて行く店はだいたい同じような対応をされ、先ずは固まってしまう。

 仕方ないので、いつものようにアヤは頭を下げて挨拶をする。

 別に特別な対応をされたところで、結局は一人の人間。何もすごいところなどはないのだが、なかなかどうしてうまくはいかない。


「お邪魔しています。ロベリアがお世話になっているようで」

「あ、いや、そんな大層なもんじゃねーんだが」

「もう、アヤが来るといっつもこうなっちゃうのに」

「……悪かったね」

「それよりトーマス! 早く!」


 ロベリアはトーマスと呼んだ店長らしき男を急かしなにかを要求する。


「なんの話?」

「うん、魔道具をね、作ってもらったの」

「なんでまたそんなこと?」

「ひみつー」


 厭味ったらしい言い方にアヤはイラッとするが、ロベリアは答える気が無いらしい。


「……気に入らない」

「悔しいの? 悔しい?」

「……うるさい」

「へへーん、ロベリアの勝ちだね! いっつも苛めるバツだよ!」

「うざ……」


 有頂天になっているロベリアをウンディーネ辺りで水攻めしてやりたかったが、さすがにアヤを余り知らない人の目があるところでは出来ない。

 家についたらきっちり精算してやろう、とアヤは心に決める。


 と、トーマスと呼ばれた男は店の奥に引っ込み再び出て来た。

 その手には小さな珠が握られており、ロベリアに手渡す。

 なんだろうか。


「ロベリアちゃん、これな」

「ありがとー、じゃーまた出来たらお願いね!」


 そう言って、ロベリアが受け取って持っていた猫型のバッグにしまって、背負いなおす。

 この生い立ちだけを見れば完全に少女だ。


「あいよ、あとアヤちゃんも贔屓にしてくれりゃうちも繁盛するんだけどなあ」

「……考えておきます」


 トーマスはちらりとアヤを見て話しかけてきたので、社交辞令程度に返す。

 もっとも魔道具がなんたるか、が分からないのでそれ以上の答えは出てこない。

 と言うのはイルレオーネに到着した初日以降まったく聞いていないので、魔法が使えるようになるがアヤには必要のないもの、と言う程度の認識だ。


 けれども、とアヤは店内を見渡す。

 繁盛しない理由はきっとこの埃を被った店に問題がありそうだと思うのは、きっと気のせいではないはずだ。


「あれ、でもアヤって魔道具あんまり知らないよね?」


 余計な言葉がロベリアから飛び出してきた。

 アヤはため息を隠そうともせずつく。

 イルレオーネの街へと出てからの二年間、アヤは社交辞令なるものをどうしても多く使わざる得なかった。

 特に嫁に来てくれと懇願する貴族などはプライドも高く、無下に断るわけにもいかない。


「ほー、そうなのか?」

「うん」


 アヤが答える前にロベリアが自信を持って頷く。


「だって私教えてないもん」

「……教えろよ」

「えーだってアヤが賢くなると私がどんどん貧しくなっちゃうじゃん!」


 ちらりとロベリアはアヤの体をみる。


「ちょっと前まで同じだったのに……」

「嬉しくないけどね……」

「じゃあ分けてよ! とりゃあああ」


 ロベリアが突如、アヤの胸に向かってダイブしてきたので、横にずれて避ける。


「うう、避けるなぁー!」

「避けるに決まってるでしょ。ところでトーマスさん」

「ん、お、おう。なんだい?」

「魔道具について少し教えて貰えませんか?」


 だめ、と叫んでいるロベリアを押さえつけて、店主トーマスへと話す。

 体格差があまりなかった昔とは違って、成長したアヤはロベリアを押さえるには十分な体つきだった。

 とは言えそれは女と言う括りの中の話で、腕の細さはいつみても心許ない。


 その様子を少し引き気味で見ていたトーマスは、それでもアヤの方を優先してくれたのだろう。

 ああ、と頷いて語り出す。


「初歩的なところを言うと魔道具つーのは鉱石の力を借りて、一般的な魔力を有する……まあ要するに……魔法使いじゃない人でも魔法の恩恵をあやかれるってやつだ」


 ゲームの時代そんな設定を見たことがあった気がする。

 確か魔力の結晶と呼ばれ、生産系の職業についている人が欲していたはずだ。

 もちろんそれなりに高価で、用途も広かった。確か武器の強化も行えたと思ったが、そのあたりは疎い。

 アヤは質問をぶつけてみる。


「……それって例えば武器の強化とかも出来るんですか?」

「そういうのも含まれるな。それとは別に特殊な状態を付加価値としてつけたりも出来る。資源としてはこれ以上ない最高のモンだよ」


 アヤは納得をし、首を何度か軽く縦に振る。

 なるほど、確かにそれならば生産系の人間が欲しがるはずだ。

 高価なのも頷ける。


「まあでもアヤちゃんが言った、いわゆる武器への転用は二次的なもんだ。メインは日用品への応用になるな」

「日用品?」

「そうだ。火はもちろん水や風なんかもある。さいきんは冒険者の活躍で産出量が増えたとは言え、まだまだ少なくってな、高価なのがネックだ。ま、要するに一般人には手の届かねぇ品だよ」


 なるほど、日用品にも応用とはゲームの頃では思いつかぬ発想で、そもそも、そこまでシステムがカバーしていたか怪しい。

 確かに日用品で魔力石が使われているようなのは少なくとも、アヤの生まれた家にはなかった。

 初めて見たのはイルレオーネでアーベルに宛がわれた家だ。


 けれどもそこまで高価な魔力石、どこで手に入るのか気になる。ゲームであった頃はダンジョンの深層に置かれていたか、もしくは課金だったはず。

 もちろん課金ウィンドウなんてものがあるわけもなく、ともなればダンジョンの深層と言うことになるのだが、そんなに何度もダンジョンの深層に行けるわけでもない。


 高価と言うくらいであるから、可能性としてはゼロではないが。


「そうなんですか……ちなみにその鉱石はどこで?」

「お、興味あるのかい? そうだな、アヤちゃんの実力ならきっと、持って帰ってこれるんじゃないか? 場所を教えるってのは難しいが、一般的には魔力の濃い地域とか、魔力の濃い場所なんかに多く眠ってるって言われてるぜ」

「ううぅ、はなせー!」


 するとモガモガと、ようやくロベリアはアヤの拘束から抜け出す。

 暴れまわっていたため、アヤの腕にはところどころアザのようなものが出来ていて、少し痛々しい。

 そろそろ聞きたいことも聞けたし、腕も居たくなってきたのでロベリアを離した。


「よーやく離してくれたか! まったくアヤは少し私より大きくなったからって乱暴しすぎ!」

「ロベリアが暴れなければ済むんだけどね……」


 むむむ、と唸り声を上げるロベリア。

 唸り声をあげ、トーマスが苦笑いをして見ている。


「あー、とりあえずよ、ロベリアちゃん。また入荷したら言うからよ」

「う。わかったよー」


 ロベリアの目的はあの小さな珠を受け取ることだったようだ。

 それにしても入荷したら、と言うことは大量に必要と言うことだろうか。いったい何に使おうとしているのかますます気になるが、どうせ言ったところで答えまい。

 ともなれば今はロベリアが何か事件を起こさぬうちに連れて帰ろう。

 家にさえつけばいくらでも尋問も出来る。


「さて、ロベリア。帰ろうか」

「へ?」


 アヤはロベリアの言葉を遮る。

 すると楽しみにしていたものが突然消えてしまったかのような顔をしてロベリアは声を上げる。


「もう一回言えば良い? 帰るよ」

「……どうして?」


 どうして、とはどう言うことだろうか。


「だってロベリアはある程度見張ってないとまた何をしでかすか分からないからね。この前だって裏通りにホイホイ出てって事件起こしたの忘れてないよね?」


 うっ、とロベリアは言葉を詰まらせる。


「ほら、帰るよ。トーマスさん、お世話になりました」


 アヤはトーマスに頭を下げ、ロベリアを引っ張って外に出る。

 いやー、と叫んでいるが無視。


「良いから帰る!」

「だって今からアーベルのところに行かなきゃいけないだもん!」

「はいはい、ウソでしょ」

「う」


 う、とは何か。

 鵜、つまり鳥のことでも言っているのであろうか。

 ぴたり、と一瞬だけロベリアの挙動が止まって再び動き出す。


「うそじゃないもん!」

「今の間はなんだ、間は」

「ううう、アヤがいじめるう……」


 喚いても無駄である。アヤは気にせず大通りでロベリアを引き続ける。

 そうは言っても声を大にして喚くロベリア、そしてロベリアを引くアヤは有名人であるが故、自然と視線が集まってざわめく。

 こればかりはいくら、アーベルがアヤを守ろうと保護をしてくれていてもどうしようもないだろう。


 完全に別の、ある種の芸みたいなもので、妹が大声でわめき散らす、姉妹の喧嘩にも見えなくもないので、言ってしまえばアヤが有名であることと今の状況は別の話になる。

 まったくもって迷惑な話だ。

 ロベリアとセットに思われてしまっているようで、何かロベリアが珍事を起こすたびにアヤが駆り出された結果だ。

 仕方がない、不可抗力と言えよう。


「あ、アヤじゃないか!」

「げ……」


 人ごみの中、アヤを目掛けてやってくる一人の青年。

 鼻につく整った顔立ちで、その辺を歩いていたらきっと誰かに声をかけられるだろうし、万一にも声をかけようものなら普通の女の子ならきっとホイホイついていくのではなかろうか。

 けれどもアヤには厄介な存在でしかない。ため息をつきたくなるようなタイミング、なぜこのような状況で現れてくるのだ。


「エドー! 助けて! アヤが苛めるの!」

「ロベリア先生を!? アヤ、もう少し女の子らしくしたらどうだ!?」

「……ウンディーネの言葉をそのまま言わないでもらえるかな……」

「何を言う! アヤはウンディーネの言葉はしっかりと聞いていたではないか!」


 その言葉を聞いて、今まで必死に抗っていたとは思えない、ロベリアがぷぷぷ、と噴出している。

 アヤは殺気立たせてロベリアを睨むと、まるでいけないことをしてしまった、小さな子供の用にハッとして、両手で口を押える。

 ……笑いをこらえているのが分かるのだから、それではまったく意味がないのだが。


「あー、もう……帰るから、また明日ね」

「む、では俺も一緒に帰ろう。女の子二人じゃ不安だろう?」

「……あのねぇ……不安になる要素があると思うの?」


 エドはアヤの言葉に口を紡ぐ。


「もー、アヤー。良いじゃんべちゅん」


 アヤはロベリアの頭をたたく。

 余計なことを言われては叶わない。

 いったぁーとロベリアがアヤを涙目で見てくるが知ったことではない。


 アヤは無視して帰ることにする。

 ――と、ロベリアとアヤが何やらやっていたところを魔法学院の女子生徒が察したのだろう、エドのところまでやってきて囲み始める。


 アヤはふぅ、とため息をついてようやく家路へと着くのであった。

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