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第一話

「……であるからして、ガイアと呼ばれる地の王は……」


 地の王ガイアの話を聞きながらアヤはコックリコックリと半分夢への扉を開いていた。

 イルレオーネへ遣えている直属の召喚士にわざわざ折り入って魔法学院まで来てもらい、同学年内で一番上のクラスの見慣れた顔ぶれ――シュティ、ララ、エド、そしてアヤの四人に話をしている。


 けれども残念ながらその話は知っているのだ。

 御足労頂いたにも関わらず、大変申し訳ないとアヤは思うが、つまらないのは仕方がない。

 本を読みふけり、なにか新たな使い魔のヒントは落ちていないのか、と探しぶち当たったひとつにガイアが居た。

 それも一日や二日前の話でなく、一年くらい前の話だ。


 ガイアの話を少しすれば、ガイアとはどうやらアヤの知っていた最上位の地の使い魔『タイタン』を超える存在らしい。

 とは言ったものの、そもそも最後に現れたと言うのがヴリトラとの戦闘時にタイタンが話していた三千年前の大戦の頃らしいく、それ以上の情報もそれ以下の情報もなかった。

 そんなわけで何時だかのクロノスと同様、探す気などするわけもなく、と言うよりはタイタンが居れば根本的な部分であまり不自由がない。


 ヴリトラと、ゾンビとなったヴリトラの討伐から二年が経過していた。

 アヤは十五歳となりお胸様はずいぶん大きくなられてしまっている。

 始めの頃は大きくなるたびにハァ、とため息をつきたくて仕方なかったが、時とは恐ろしいもので意外となれるものなのだ。


「アヤ様、いかがでしたか?」


 どうやら話が終わったらしい。


「あ、うん。参考になったよ。ありがとう」


 何も聞いていなかったけども、何も言わないのは非礼にあたるので、しっかり聞いていた風を装って礼をいう。

 半分寝ていたけれどもバレていなかろうか。


 召喚士を見ると、嬉しそうにしているのでたぶんバレてない。

 大丈夫。

 嬉しそうに一礼すると、握手を求められたので握手をすると教室から出て行った。



 時刻は既に夕刻。

 さて、とアヤは考える。

 毎日毎日、飽きもせず訪れる最大の命題。


 ため息が出るが仕方ない。

 通らねば魔法学院で寝泊まりすることになる羽目になる。

 そればかりは勘弁してほしい。


「……帰ろうか」

「アヤは帰る時だけはいつもホント、テンションひっくいよねー」


 アヤが暗く言うとシュティが答える。

 そりゃね、と答えつつアヤはシュティを見と、シュティも二年と言う月日は大いに成長を促していたのがよく分かる。

 何しろアヤよりも素晴らしい魅惑の体つきと、整った顔立ちは、いわゆる美少女コンテストなるものを開けば間違いなく一位に輝けるだろう。

 いつもアヤは自分のと比較し、ああ、その体は大変だろう、と思い、あそこまでじゃなくてよかった、と反面教師的な感じでホッとしていた。


「でもぉ、私がアヤちゃんだったら嬉しいけどなぁ」

「えー、私は嫌だなあ」


 ララが言ってシュティが反論する。

 相も変わらずおっとりとした調子のララであったが、魔法の腕はシュティやエドを凌ぐ素晴らしい上達っぷりで、特筆すべきはやはり治癒魔法。

 下手をすればアヤをも凌ぐのではないかと思わせるほどの腕前にまでなっていた。

 もしかしたら一点に特化していることが、上達を速めているのかも知れない。


「ふ、まあ良いではないか。この俺が――」

「……エド、帰るよ。疲れるから」


 エドの言葉を途中で遮ってアヤとララ、シュティの三人は教室の外へと向けて歩き出す。


「お、おい! アヤ待ちたまえ!」

「断る」

「あいっかわらずアヤに嫌われてるねー」

「そうだよぉー。もう諦めたらぁ?」

「な、何を言うシュティ! ララ! 俺は嫌われなどいない!」


 と、言いつつも急いで三人へ追いつくと思ったら、不安げな顔でチラッチラッとアヤを見る。

 視線が鬱陶しい。


「エドもいい加減、気付いて欲しいと思うけどね」

「!! やはり!」

「あのね、エド。どんな基準でそうなるか分からないけどアヤはエドを傷つけまいと思って毎回毎回オブラートに包んで言ってくれてるの、分かる?」


 その通り、とアヤは思いつつシュティのフォローに感謝する。

 ところがそうは問屋が卸さない。


「何を言うシュティ! アヤはきっと、実は私はエド様のことが大好きなの、と言いたいのに言えない、そんな心情を――そうだよな、アヤ?」

「あのさー、エド。アヤはそんな言葉使いしないの分かってるでしょ? 二年になるのにホント、学習しないよね」


 アヤが無視する変わりにシュティが答える。

 魔法の成長はシュティを凌ぎ、特に炎の魔法に関しては素晴らしいエド。

 加えて男としても十三と言う少年から十五と言う青年へと変わり、もともと整っていた顔立ちは更に洗練されているようにも思えた。

 もしアヤ自身も、男であった記憶がなければもしかしたら顔に釣られてしまうかもしれない、それくらい整っており……ようするに死滅しろ、と言うことだ。

 そんなイケメンフェイスにもかかわらず相変わらずの精神構造で、アヤとしてもこの先の付き合いを考えた方が良いと思ってしまう。


「ぐ……、だが! 俺と二人の時は!!」

「それ初日だけだからね」


 さすがに変な方向にぶっ飛びそうだったのでアヤはフォローを入れる。

 二人の時は、とは魔法学院の初日のことで、それ以降は二人で帰るなど身の毛のよだつ凄まじい罰ゲームだったので、ララとシュティにお願いをして一緒に帰ってもらうことにしたのだ。

 そもそもの議題として、俺と二人の時は、なんだったのだろうか。

 いかがわしいことも、アヤがエドのことを好き、というそぶりも見せたつもりはない。

 ある意味、ロベリアの男版なピンクっぷりと言えなくもない。



 そんな他愛のないやり取りは日常となった非日常によって掻き消されるのだった。


 人が――魔法学院の中だと言うのに殺到する。

 皆が可愛い、だの、使い魔を出して、だの、召喚術について教えてくれ、だのと口々に言いたいことを言い続け、もはや何を言われているのかも分からない。


 これがアヤが毎度毎度帰るのも、そして来るのも嫌になる原因だった。

 ヴリトラの討伐から数日後、家の前にまで人が殺到するようになり、また農民の子と言うことで貴族としての縛りもないのだろう。


 ぜひ我が家にと言うような、いわばツバをつけるような、ようは家に息子と一緒に遊びに来るようなそんなことだ多かった。

 もちろんアヤは元男であって、少なくとも嫁に行くつもりなどさらさらない。


 次第にぐったりとして行くアヤを見かねたのか、アーベルが目に余るほど相手をしすぎぬように、とイルレオーネ全体へと通達をしてくれた。

 けれども魔法学院内ともなればアヤの存在は近くなって、それもなかなか機能がし辛い。

 さらにもう一つ、魔法都市と言うだけあってこの学院は一定の地位を保っているらしく、ある程度許容されてしまうのが現状であった。


 結果がこの状況だった。

 迷惑極まりない、と思いつつも、アヤはとかく人をかき分けて進んでいく。

 ようやく魔法学院の敷地から抜け出す頃には、フェニックスとティターニア、そしてタイタンを同時に召喚すれば疲れるだろう、と思うくらいの疲労感が襲ってくる。

 もちろん始めのうちは使い魔を召喚していたのだが、ボディーガードじゃないと次第に愛想を尽かされた結果、自力で掻き分ける羽目になっている。

 と言うか使い魔はボディーガードだろうに。なにも間違ってはいまい。



「あー、やっと抜け出せた! ほんっと、アヤは人気者だねー」

「シュティ、それ昨日も聞いたよ……」

「あ、そだっけ?」


 アハハとシュティは笑う。


「はぁー、良いなぁー。私もそんな風になりたいよぉ」

「ララもそれ昨日聞いた」

「えー、だって羨ましいんだもんー。毎日言うよぉー」


 交換できるものであれば交換してあげたい。

 と言ってもララは気づいていないだろうが、実はララのファンは陰でたくさんいるのだ。

 あくまで突出して表面に現れるのがアヤであって、魔法学院内でも一位二位を争うレベルの治癒魔法の使い手であるララにファンがいないわけなどない。


 だが、もちろんその事実をララに伝えないのにはちゃんと理由がある。

 そう、アヤは一度だけララに一度だけ聞いたことがあった。


 ララはアヤのような状況になったらどうするのか、と。


 帰ってきた答えは、みんなを手なずければ私は良いようにできる。

 とてもおっとりとした女の子が考えているような事じゃなく、衝撃を覚えたのは今でもアヤの記憶にしっかりと刻み込まれている。

 それを聞いた瞬間、アヤはファンの方々のためにも、ファンの存在を明かさないと心に決めたのだ。


「あれ? アヤ、ララ。エドはどこいったの?」

「エドならそこ」


 アヤが指差す。

 こちらもこちらでエドが女の子につかまっている。

 うむ、けしからん。

 アヤはあの状況こそ自分が今いるべき場所だ、と考えているのになかなかその状況が訪れないのが悲しい。

 いつだか必ずハーレムを作る。


 そんな羨ましい状況のエドはここで脱落と言うことでおいて帰る。


「そっれにしても、アヤの言葉使いとか堕落っぷりを見たらきっとみんな幻滅するんだろうなー」

「それは褒めてるのかな?」

「え、うーん、アヤはどっちだと思う?」


 困る質問をしないで欲しい。


「褒めてる、と捉えることにするよ……」

「やっぱアヤって変だよねー」


 キャッキャと、シュティは笑う。

 変と言われても当然だろう。

 元男として考えれば男に好かれるのは嬉しくないので、褒められているのだが、女としてみれば完全に褒められていない。

 女として十五年やってきた以上、なんだか堕落っぷりと言われるとそれはそれで悲しいものでもあったが、元男としてみれば嫁に出る要素が無くなるので良い気がするのだ。


「……あれ?」


 そんな矢先、なぜ大通りに店舗を構えていられるのか不思議なくらい古めかしい店の中にロベリアが居た。

 確かアレは魔道具の店。

 アヤの記憶ではこのイルレオーネに到着してから初めて入った店だったと記憶している。

 あの時は魔道具とはなんたるかを聞く程度に終わっていたので詳しい知識などもなにもなかったが。


 ともあれ何故ロベリアが学院教師の仕事をさぼってこんなところにいるのだろう。


「……ロベリア……?」

「先生?」

「ほら」


 シュティが聞き返してきたので、アヤはロベリアの方を指差す。


「あー、ほんとだね。なにやってるんだろ?」

「さあ……でもまた事件起こされると困るんだよね……連れて帰らないと……」

「ア、アハハ……そうだね……」


 シュティが顔を引きつらせて笑っている。

 この二年間でだいぶシュティたち三人の考え方も変わった。

 ロベリアに対する、少なくとも神格視はなくなってどちらかと言えば百五十と言う妙齢にも関わらず幼稚で問題を起こし、そして説明ベタな魔族と言ったところ。

 授業の方も遅々として進まず、結果アヤがフォローすることが多く、いまとなってはもう誰が教師なのかわからなかった。

 そんな日頃の積み重ねだろう、ロベリアにはアヤがいないと、と言う方程式が積み立てられていた。


「……じゃあアヤ、頑張って事件にしないようにね……」

「うん……」


 なぜ魔道具の店などにいるのかなど考えたくもなかったが、仕方ない。

 二人と別れアヤは魔道具の店へと踏み入れたのだった。

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