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Epilogue

 三日が過ぎた。

 先送りにされていたヴリトラ討伐の授与式は急きょ、前倒しにされ今まさに行われている。

 巨大なゾンビ化したヴリトラがイルレオーネへと迫り、討伐したとなればその功労は早くしろと急かされるのは至極当然のことと言える。


 そんな理由から、アヤは今、多くの人の前で立っていた。


 ヴリトラを討伐した功労者は壇上に立っているアヤの周りは誰一人としていない。

 キサラギ、マユユ、クレスの三人は冒険者だからと言う何とも大雑把で納得のしがたい理由で授与を断った。

 そのなかでも一番強く断ったのはマユユで驚いている。

 逆に乗り気だったのはクレス、キサラギはどうでもよさそうだったが、後から聞いた話によると、冒険者ゆえ動きにくくなったり、後は有名になることで分不相応に見られてしまうかも知れない、と言うことらしかった。

 どこまでが本当だろう。


 アヤは壇上で思いを馳せる。

 三日と言う日数は矢のように早かった。


 キサラギのしつこさは尋常でなく、イフリートやフェニックスの話を何度も何度も聞かれたものの、その度にマユユが恩人が困っていると制止し、キサラギはその度に不満げな顔をしていた。

 この三日と言う間はアヤの周りには誰かしらが居て、せいぜい一人になれたのは風呂とトイレくらいなものだった。

 そのお蔭だろう。アヤとキサラギの一対一と言う状況こそ作られなかったものの、もし一対一になったらどうやって言い訳をすべきか考えておく必要がある。


 ララとシュティ、そしてまあ居ても居なくても良いが、エドもロベリアが勝手に王宮へ招いていたのだが、アヤに対して敬意の表情が現れていたのが分かる。

 エドに関しては崇拝してもらうくらいでちょうどいいかも知れない。

 ララとシュティについては、出来れば、今までと同じようにアヤとは友人として接して欲しかったが、あの様子ではしこりを取るまでに多少時間はかかるであろう。


 一方のロベリアはひたすら悔しがっていたようにも思える。

 何しろ次の日の発言は


「ロベリア様の評判がアヤにとられちゃう……」


 この一言だ。

 まったくもって自分のことだけしか考えていないのではないだろうか、疑いが晴れることは無い。

 とは言っても、ロベリアの良い部分もアヤは身に染みて分かっている。

 精神年齢の低さは何とかならないものか、と思うし、この精神年齢を全面に出された状態で二人で行動することは決して是ではない。

 ……いや出来れば考えたくもない。

 そういう意味で言えば行動を共にしたくない、と言えるだろうが、イルレオーネと言う国や、アヤ以外にもロベリアと一緒に行動を共にしてくれる人が居るのであれば、良いムードメーカーになってくれることだろう。



 そしてアヤのもっとも気になっていた点。

 プレイヤー(・・・・・)については結論から言えば分からずじまいであった。

 もとよりどういう風にキサラギや、クレス、マユユへと切り出して良いかは分からないし、何よりプレイヤー(・・・・・)プレイヤー(・・・・・)であることを隠そうとしているようにも見える。

 だからこそ彼らから聞き出すのはなかなかに難しいことで、少なくとも三日と言う日数では全くもって足りなかった。


 アヤの知り合いであり、所属していたギルドのマスター、レヴィンが居たことを考えればプレイヤー(・・・・・)と言うのはゲームとしてアイリスを知っていた人間、と言うことになるのではと考える。

 とは言え冷静に考えてみれば確証ではない。

 もし他にも多くのアイリスプレイヤーがこの世界にやってきたとしていたら、少なくともアヤの知っている人に会えているのではないだろうか。


 だが十三年と言う月日がたった今も、叶ったのはレヴィンとの一幕のみ。

 もしかしたらプレイヤーとは冒険者たちの中での隠語と言う事だってあり得るし、変わり果ててしまったレヴィンを見れば、もしかしたらレヴィンとアヤの二人だけがこの世界に降り立った可能性もなくはない。


 だからこそこの三人にはプレイヤーとはなんたるか、を聞いておきたかったが、なにぶん、アヤの身なりは完全に少女で、更には年齢も十三と若年。

 まさかアイリスを知っているプレイヤーだとは思われることもないし、そもそも他のにも多くのプレイヤーがこの世界に降り立っていたとしたら、なぜアヤだけ、ともなり、信じてもらえない可能性だってゼロではない。


 こればかりは気長にやっていくしかないのだろう。

 早急に解決したいのであれば何故だかアヤを『すだれ』と認識していたレヴィンを探すしかない。

 けれども当のレヴィンはどこに居るかなど見当もつかない。

 加えて変わり果て、突然襲ってきたあの状況。


 アヤは思う、昔は出会った途端にPK行為をするような人間ではなかったはずだった。

 それが今ではPKよりも更にたちが悪い、命を懸けた世界で襲撃を行ってくるようにまで変わってしまったのだ。

 いったい何があったのか、それも聞きたかった。理由はもしかしたらこの世界に一人で来てしまったから、自暴自棄になっている、とか。

 ……ないかもしれない。

 

 ともあれ、どこにいるか見当すらつかない人の話を考えていてもしょうがない。

 今はどうやってプレイヤーについてを聞き出すか――



 そこまで考えたところで、思考がプツリと途切れる。

 アーベルが授与の勲章となるペンダントを持ってアヤの待つ壇上へと上がってきたからだ。


「アヤ」

「はい」


 アヤが返事をすると

 くしゃりと顔を綻ばせアーベルが笑う。


「ヴリトラの討伐、および不死者となったヴリトラの討伐。この二つの功績を称えこの勲章を授与する」


 そう、アーベルが言うと多くの人が歓声をあげた。

 横を見れば、ララとシュティは嬉しそうにアヤに手を振り、エドはちょっと複雑な表情をしている。

 あの野菜は人を嫌な思いにさせる天才だろうか。


 ハンナは顔のしわをいつもよりたくさん作って、マユユは胸をなでおろしている。

 一方のクレスは、羨ましげな表情で見つめ、キサラギは至極どうでもよさそうだ。


 そして――ロベリアは悔しいのか嬉しいのか分からない表情で何かを叫んでいるが、聞こえない。

 バカだなあ、あいつは、とアヤは思うが、言葉にしたところで届きはしないだろう。


 そこまで考えて、アヤは目の前の大勢の人々に向け、手を振る。

 歓声が大きく、地を割るのではないかと思わせるほど反響し――アヤへの授与は幕を閉じるのであった。

一気に読んで頂きたいと言うこともあり、1日で三話投稿させて頂きました。

アヤが人として成長?したのを果たして上手に伝えられたかは定かではありませんが、一回り成長できたかな、と思うので一区切させて頂ければと思います。


次回以降はイルレオーネでの内政?や生活の話から徐々に話を広げていければと思います。

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