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第十話

「アヤ、手を抜くんだよ。それからタイタンみたいなのを召喚して建物を壊すんじゃないよ」


 ハンナの言葉が頭の中に浮かぶ。

 前者はよく分からないが後者に限ってはそこまで馬鹿じゃない、とアヤは思う。

 入学手続きはロベリアが事前に送っていた手紙のせいか、スムーズに行えたらしい。

 果たしてロベリアがこの時期を狙っていたのか、それともハンナが狙っていたのかは分からない。

 けれどもちょうど新入生の試験が行われるその時期だったようで、まさに今、新入生の選抜試験が行われようとしているところであった。

 いくらロベリアの口利きであっても、例えヴリトラを討伐したとあっても『魔法都市』と言われるだけあってその実力を判断する試験は必ず通過しなければならないらしい。


「では新入生の試験を開始する。呼ばれた生徒は前に出なさい」


 試験管である教師が試験開始を言い渡す。

 内容は得意な魔法を見せると言うもの。

 列がいくつかに分かれており、それぞれの列に二十人ほどが並んでいる。

 アヤは最後尾。


 アヤの列に並んでいた始めの一人呼ばれ、少年が前に出る。

 そこで手を抜くと言う意味がどれだけのモノかがよく分かった。

 緊張の面持ちで少年は何かよく分からないが、ブツブツと口を動かして、最後に魔法名らしき言葉を叫ぶと、小さな炎が湧き上がる。


 これでよいのだろうか、と言う疑問がアヤに芽生える。

 この程度の魔法はゲームであった頃の基準で言えば、職を魔法使いとして選んだ状態のレベル1の状態と言っても過言ではないだろう。

 現実となった今ではそのレベル1の状態でも魔法学院へと入る資格があると言う事だろうか。

 だとすれば今のアヤは……いやもしかしたらたまたまなのかもしれない。


 そう思って別の列を見るも、的を軽く風で斬ってみたり、小さな水流を当ててみたり、地面をボコボコとさせてみたり、とどこもかしこも似たようなもの。

 悪い人だとレベル1の土俵にも立てないのではないか、と言うくらい弱々しいもの居た。


 この中から、ウィザードや、ソーサラー、死霊使い、召喚士、賢者と言った上級魔法が使えるで職のレベルに到達呼ばれるようになるのは果たしてどれくらいいるのだろうか。

 考えれば考えるほど、実はロベリアやアヤ自身がいかに規格外であるかが分かってきた。


「アヤ、前へ」


 アヤが前に出る。

 さてどうしたものか。

 先ほどまで見ていたのでだいたいのレベルは分かった。

 落ちることはまずないであろうが、あまり弱く魔法を使うと学びたいことが学べないかも知れない。

 だとすれば召喚士であることは分かってもらった方が良い。


 温厚でウンディーネのように説教しないで、かつ、あんまり大きくないようなのは……

 よし、とアヤは決める。


「ノーム」


 ゆらゆらと小さな扉がぽんぽんと現れ、そこから可愛らしい小人が何人も出てくる。

 白髪と白い髭をたくさんこしらえた老人のようなのから、はたまた若く小さな女の子まで多種多様さまざまな小人が現れる。


 白髪の老人がこの集団のリーダーなのか、アヤに老人とは思えぬ高く可愛い声で話しかける。


「おお、アヤよ! 久しぶりであるな! ここはどこじゃ?」

「試験会場」

「しけんかいじょー? しけんかいじょーとはなんじゃ?」


 小人たちがしけんかいじょー? とわいわい騒ぎ始める。


「しんじゃうのかも。しっていってる」

「しけ……ちゅ? なみ? しぬ?」

「なみこわい! しぬやだ!」


 小さいながらも団結すれば力があり、大地の力を操れるノームは便利であるのだがこのバカさ加減ゆえ、あまり召喚する気が起きない。


「あー、とりあえず黙っててくれないか?」

「おお、アヤよ! 了解したのじゃ!」


 くるり、とリーダーらしき白髪の白髭の老人がノーム集団に振り返り一言。


「みなのものしずまれーい! れーい! れーい……」


 死ぬやら波やら、よく分からない方向へ発展していたノームたちの会議がぴたりと止まる。


「あのさ、何で繰り返すの?」

「山で叫ぶとワシの声が跳ね返ってかっこよいのじゃ! それよりアヤよ! これでよいか!」

「……ありがと」


 やまびこをカッコいいと言うのは腑に落ちないが、まずは会議が止まったのでよしとする。

 短くノームの長に礼を言ってから試験管の方を見ると、呆然とアヤの方を見つめていた。

 もしかしたら少しやりすぎたのかもしれない。

 けれどもアヤが少なくとも召喚士であることを知ってもらうにはしょうがないと思うのだが、と周囲を見渡すも、先ほどまでざわめいていた試験会場内がシンと静まり返っている。

 やりすぎだったようだ。


 居たたまれず試験管に話しかける。


「ええと、ノームに何かさせましょうか」

「い、いや大丈夫だ。君の実力はよく分かった。ノームにはお帰り頂いて結構だ」


 アヤがノームに話す。


「えーっと、来てもらったの悪いんだけど、もう用事は済んだから帰って良いよ」

「む! なんと! 分かったのじゃ!」


 再びノームの長がくるりと振り返り号令をかける。


「みなのもの! かえるぞー! かえるぞー……! かえるぞー……」


 元気な返事がノーム達から聞こえ、出てきた扉の中へと戻っていき、白髪白髭のノームの長が最後に入ると同時に扉も揺らめいて消えて行った。

 ノーム全員が消えアヤが列の最後尾に戻ったのを確認した試験管が終了の宣言をする。


「で、ではこれにて試験を終了する! 合格発表は後日、郵送にて発表するので各自待つよう!」


 その言葉と共にガヤガヤと受験生たちが立ち上がり、ぞろぞろと帰っていく。

 アヤも早々に立ち去る。

 いくつもの刺さるような視線を感じて、あの場にだらだらと残っていたら質問攻めにあうのは間違いなかった。


 何人かがアヤを追いかけて来ていたのが分かったので、そそくさと会場を立ち去り、街へ出て裏路地へと入る。

 人ごみの中、分かりにくい裏路地へと入ったのだから恐らく逃げ込んだ先までは分かるものはいまい。


 とは言えイルレオーネに来てから、寝ていた時間を含めると四日、と言うことになるらしいが寝ていては何も分からないので実質三日目の今日。

 探索もまだ終わっておらず、道が分からなくなりうろうろと彷徨う。


 方向感覚はそれなりにあるつもりであったのだが、入り組んだ裏路地で次第にアヤはどこに向かっているのか分からなくなる。

 ここは戻って――



 突然だった。

 視界が揺れ、体のバランスが崩れる。

 なにが、と言う間もなく口には手を当てられてしゃべる事すら許されない。

 暴れよう、と思っても右手は掴まれて左手だけしか自由に動かせない上に、掴まれた手に入る力は細い腕のアヤでは到底振りほどけるものではなかった。


「んーんー」

「お嬢ちゃん、可愛いねー。ダメだぜ。こんな裏路地歩いてちゃよ」


 ヒヒヒと笑い男がアヤの首筋をなめ、下半身の硬いものを押し当てて来て、身震いをするほど、ぞわぞわと悪寒が走る。

 そうか、とアヤは思う。

 ダミア村ではほとんどロベリアと一緒で、女らしい事などしていなくて、せいぜいトイレと風呂、後はこの前始まったばかりの生理が面倒だ、と言うことくらいにしか思っていなかった。


 だがそれだけではなかった。

 いくら女でありたくないと考えても、どれだけ男だったんだ、と言ってもアヤの体は現に女であって、そして第三者から見れば歩いているのはただの少女なのだ。

 こういうところも気にせねばいけないのか、と少し後悔する。


「楽しい事しようぜ」


 まったくもって楽しくなどない。

 女の子といちゃいちゃする分には大歓迎であったが、男に何かされる趣味など、たとえ女になった今でもない。

 魔力を風に変換して纏わせて男を吹き飛ばそうと思っていたその時、羽交い絞めにされていた手が突然緩んで、ドサリと音がする。


「大丈夫か!?」


 振り返ると倒れた男の向こうに、アヤと同じくらいの歳だろう、少年が一人立っていた。

 なるほど、このようなベタベタなシナリオが自分にも降りかかるとは、とアヤは思いつつ一応礼を述べる。


「ありがとうございます」

「いや困っている人を助けるのは当然だ」

「そうですか、では」


 実際のところ特に困っていたわけでもないのでさっさと去る。

 ところがそうは問屋が卸さない。


 少年がアヤの行く先へと回り込む。


「それだけかよ!?」

「は?」


 充分であろう。礼は言った。


「普通は危ないから俺が裏路地から出してやるだろ!」

「ちょっと言ってる意味が」

「良いから来い!」


 アヤは何故だか少年に手を引かれて裏路地から出る。

 と言うかそもそも人に見つかりたくないからわざわざ裏路地に来たのにこれでは何の意味もないではないか。


「よし、ここまでくれば安心だ」

「はぁ……」


 大げさに頷いて見せる少年。

 何がしたいのかわからないが自己満足には浸れているらしい。


「もう女の子一人で裏路地なんかに入るんじゃないぞ? 分かったか?」

「いやそれは約束しかねますが」

「はあ!?」


 少年が調子はずれとばかりに音程のずれた声を出す。

 が、すぐに少年がはっとなり、妙に納得したように何度も頷いている。

 何を納得したのか分からないが、少なくともアヤはこの少年の行動も、言動も理解できなかった。

 カテゴリ分けをするのであれば間違いなく変人の域だ。


「言いたいことは分かるぞ。だが恥ずかしくて言えないんだな? だが俺が言ってやろう。そう、キミは何度も俺に助けられたい、そういうことだろう?」


 ガヤガヤと賑わう大通りの商店街のハズなのに何故だか、少年とアヤの空間だけ切り離されたような沈黙が流れる。


「意味わかんないので帰りますね」


 かかわるのは止めよう。

 アヤが再び家路につこうと歩き出すが、どうしても家に帰したくないのか、少年は再び道をふさぐ。


「照れなくていいんだぞ?」

「照れてないんで」

「ふ、そういうな。俺の名前は……」

「聞いてない」


 少年は何をカッコいいと思ったのか、目を瞑って親指で自分を指差し、名前を言おうとしてるので、捨て台詞を吐いて、アヤは少年を避けて再び歩き出す。


「で、キミの名前は? ってあれ!?」


 はるか後方で少年のバカみたいな声が聞こえる。

 あいつは阿呆だ。関わってはいけないセンサーがなってる。



 少年に見つからぬよう、人ごみに紛れつつ、そそくさとその場を立ち去り家路へと着く。

 授与式前で本当によかったとアヤは思う。

 もしこれが勲章の授与がされた後であればすぐに少年に見つかっていたかもしれない。


 もう裏路地に入ったりだとか、変態男や自意識過剰気味な少年に会うこともなく無事家にたどり着く。

 すると家で待っていたのはハンナとロベリア、そして見知らぬ髭を生やし、イルレオーネの紋章が入った荘厳な服を着ているオッサンが一人。

 アヤが誰だろう、とか、ただいま、とかいわゆる帰宅の形式儀式を行う前にハンナが口を切る。


「アヤ、聞いたよ。わたしゃあれほど手加減をしろ、と言ったはずさね」


 今日は厄日なのだろうか。

 マジかよ、と男であった頃の言葉がアヤの頭の中で木霊する。


「周りを見ていなかったのかい? まったく。アーベルから聞いたよ。魔法学院は大騒ぎになったって」

「そう! アヤは全くダメ!」


 便乗してロベリアもアヤのことをピっと指をさして得意げに否定してきた。

 先ほどの自意識過剰の少年の事もあり、バカにダメと言われるとイラっとする。

 今日は心にあまりゆとりがないぞ、と思いつつ腹いせとばかりに呟く。


「たかだかノームなのに」

「それがいけないんだよ! これじゃあアーベルが気を使ってヴリトラ討伐の勲章授与を入学式後にしたのは全く持って意味がなかったんじゃないのかねぇ……」


 うんうん、とロベリアは手を組んで頷いている。

 長年、ロリババアとかバカとか言ってる腹いせだろうか。

 この場からロベリアを退場させたい。


「まあまあ、二人とも、そう責めないでやってください。ロベリアの愛弟子とあれば常識はずれなのは理解できることでしょう?」


 救世主はオッサンだった。

 アヤとハンナ、ロベリアの間に入ることでかばうような格好になる。


「アーベルは甘いよ。まったく」


 オッサンはその言葉を聞いて、アヤの方を振り返る。

 ハンナはぶつぶつと納得できないとばかりに呟いているが、諦めたようでそれ以降アヤには何も言わない。

 そういえば先ほどからアーベル、と言っていたがそういえばどこかで聞いたような名前だ。

 けれどもどこだったか思い出すことが出来ない。

 その様子を見かねたのか、オッサンがアヤに自己紹介をする。


「ああ、アヤ。私はアーベル=フィッツヘルベルト、息子がお世話になったね」

「この国の王様だよ」


 まだ気は収まっていないであろうハンナが機嫌悪そうに答える。

 王様……確かこの家を宛がってくれたのも王様と言っていた。

 と言うことはこの人だと言うこと、アヤは慌てて頭を下げる。


「あ、よ、よろしくお願いします。あ、あと家、ありがとうございます」


 マリウスは王子なのになぜだかよく分からないが、途中からアヤを畏怖していたのかだいぶ腰が低かったのに対してアーベルは物おじせず話してくる。

 さすがは王様だ。

 いやと、アヤは考えを変える。これが普通なのだろう。


「アヤは息子の恩人だ。そんな畏まらないでくれ」

「そうそう、アーベルは友達なんだよ?」

「いやぁ、国を救ってもらったロベリアにそう言われるのは何だか違う気もするが。あの時は助かったよ」

「気にしなーい」


 ロベリアが人差し指を立てて肩目を瞑り、ポーズをとってアーベルと談笑する。

 ……このゆるくてロベリアに殺意が沸いてくるような雰囲気はなんだろうか。


「まあとにかくだ、アヤ。あんまり畏まらないでくれ。それと魔法学院の件だがキミはもう合格だ。試験なんてそもそもいらなかったんだけどね」

「そうそう、アヤは私が推薦しておいたんだよ? 農民のお嫁さんになっちゃうのは絶対勿体ないと思ったからね」

「それはまあ感謝してるけど……」


 それは事実、非常にありがたい話だった。

 ロベリアが動いてくれなければ今アヤはここに居ないで未だに森の中で魔法を使っていたか、もしくは既にお見合いのようなものをさせられていたかもしれない。

 そう考えると身の毛がよだつが、今ロベリアにイライラすることと、その感謝は別だ。


 そんなアヤの胸中など知らず、アーベルが何かを思い出したのか、ロベリアの方からアヤの方へと向き直る。


「そうだ、言い忘れないうちに言っておこう。アヤ、キミのヴリトラ討伐の勲章授与が正式に決まってね、今から二週間後だ。入学式の後と言うことになったよ。構わないかな?」


 ハンナがこの前言っていた勲章の授与式のことらしいが、言われたところでアヤはいったい何をすればいいのだろうか。


「あ、はい。分かりました。でも何をすれば?」

「なあに、何もしなくてもいいさ。キミはただ授与されれば良い。ただ少し街は歩きにくくなるだろうから今のうちにいろいろ散策しておくといいかも知れないね」

「えと……アーベル……その件もなんだけど」


 もともと勲章の授与式に異議を申し立てていたロベリアがしんみりとした声でアーベルへと申し入れる。

 少し申し訳なさそうに声を上げているが、アヤの取り消しを求めるあたり、キングオブ自己中であることが容易にうかがえる。


「やっぱり授与はなしにしない?」

「ん? ロベリア、キミの愛弟子がヴリトラを討伐したんだよ? 嬉しくないのかい?」

「でもね……アヤはもう私より全然スゴイし……それに勲章も授与されちゃうと私の立場とか威厳が……」


 途中から悲しくなってきたのか涙まで浮かべ始め、少し鼻水も出てきている。

 ババアと言う点を除けばそれなりに悪くない容姿をしているのだが、汚さが先行して台無しだ。

 そもそもどれだけ悔しいんだ。

 それを見てふむ、とアーベルが頷く。


「良いかい、ロベリア。威厳、とかアヤのが凄い、と言うけどね。私は違うと思うよ」

「な、なんでよぉー」

「分からないかい? ロベリア、キミの愛弟子がヴリトラ討伐の勲章を授与されれば、それを育てたのは誰だい?」

「わ、わたし……」


 全部ではないと言いたいが、ここで否定すると面倒なことになりそうだったので黙る。

 もとより魔力の威力向上を考えれば全部が全部と言う訳ではないので、育てられたと言う点に関しては全面的に否定は出来ないだろう。

 といっても召喚術に関しては基礎はあったし、少なくとも『召喚士として』はロベリアから何も教わっていない。


 ロベリアがそろそろと顔を上げる。


「そうだろう? そう考えたらロベリア、キミの威厳は下がるどころか上がるんじゃないか?」

「……確かにそうかも……」


 アヤも七年と言う月日を共に過ごしたが、アーベルほどではないと言うことだろう。

 アーベルはロベリアと言う人間を分かっていて、うまく扱っている。少しは見習いたいものだ、とアヤは思う。

 もっともその扱いがまるで八歳前後の子供を相手にしているようなところが悲しいところではあるが、ロベリア本人が気づいていないのであればたぶん、良いのだろう。


「じゃあアヤの授与を祝うかい?」

「うん……」


 そういうとロベリアはアヤの方に振り返る。

 ノームが反省と言う言葉を覚えたらこんな風になるかもしれないな、とアヤは考えながらロベリアを見つめる。


「アヤ……ごめんね……私アヤの事祝うよ」

「……うん、ありがとう」


 なんだか腑に落ちない展開だ。

 もともとアヤを素直に言わっていればこんなことにはならないわけで、ロベリアの下らないプライドと自分中心の考え方がややこしくしているだけだ。


「さて、では私は帰るとするよ」

「おや、アーベルもう帰るのかい?」


 ハンナの疑問にアーベルが頷いて答える。


「ああ、ロベリアとの用事は済んだしアヤにも挨拶出来たからね」

「そうかい、分かったよ」

「じゃあ、アヤ、授与式のリハーサル含め何度か来ることになるかもしれないけど宜しく頼むよ」

「はい」


 アヤが返事をしたのを確認してアーベルは玄関へと向かい外へと出て行った。

 外で何やらガヤガヤと聞こえるのは恐らく馬車か何かに乗り込んだのであろう。


 少し静かになったところでアヤはロベリアに問いかける。

 王様であるアーベルが、わざわざロベリアに会いに来た理由だ。

 用事を済ませた、と言っていたのをアヤは見逃さない。


「ロベリア、アーベル……様? の用事ってなんだ? まさか授与式を説得しに来たわけじゃないよな?」


 疑問形になる。

 ここに居る二人がアーベルと呼び捨てにしているのでアヤもつられて呼び捨てにしそうになるが、一国の王と言うのであるからには、やはり様をつけるべきだろう。


「違うよ」


 答えはロベリアからでなくハンナから帰ってきた。

 違う、と言うことは別にあると言うことだろう。

 聞こうとしたのが分かったのか、ハンナはアヤの質問の前に制してくる。


「まあ楽しみにしておくことさね。さーて、じゃあ私も帰るよ。アヤ、入学式はたぶん一週間後だから準備しておくんだよ」


 三人だけの秘密らしい、こちらも省かれているようで釈然としない。

 ハンナを見送り、やはり釈然としない今日と言う日に思いを馳せると、やはり今日は厄日なのだ、とアヤは思うのであった。

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