第九話
目覚めるとフカフカとしたベッドの上だった。
どれくらいたったのだろうか。最後の記憶は確か、とアヤは思いを馳せる。
ヴリトラを討伐したところまでは確認して、そしてティターニアが魔力切れだ、と言っていたのが最後。
そこまで考えて今の状況を確認しようと思い、体を起こそうとしたところでロベリアが抱きついてきた。
「アヤァァァ! だじじょううぶだったああああ」
名前以外もはや何を言っているかよく分からない。
思いのほか強く抱きしめられてちょっと痛い。無理やり引きはがしてアヤは体を起こす。
視界に入って来たのは大きく綺麗に掃除された部屋。様々な家具が置いてあり、それこそ例えるのであれば城の中の一部の部屋、と言えば良いかもしれない。
「おい、ここはどこだ?」
「いるれおーね……」
グズグズと鼻水を垂らしながらロベリアが答える。
汚い。そして鼻水を布団で拭くな。
「俺はどれくらい寝てた?」
「ふつかぁ……」
なるほど、つまり二日のうちにもうすでにイルレオーネについていたのか。
退屈な時間を馬車内で過ごさなくて良くなったと言うのはある意味ラッキーかもしれない。
「ロベリア殿! どうなされ……アヤ殿! お気づきになられましたか!」
マリウスが入ってくる。
こちらもだいぶ心配していたらしい。
「ご心配おかけしました。ここまでして頂いてありがとうございます」
「いやいや、私共の方こそアヤ殿に御礼を申し上げたいと思っておりました。ヴリトラが現れた際はもはや死を覚悟したものであります」
「ところでここはイルレオーネの……」
「イルレオーネ城であります」
……?
城?
聞いてふらふらとベッドから降りて窓の方へと向かう。
「アヤ殿まだ安静に!」
「そーだよ! アヤ! どれだけ私が心配したと思ってるの!」
知らん。
無視して窓の外を見ると、広がっていたのは城下町と言うにピッタリであった。建物を巨大な塀や山々で囲っており、通り抜けようの大きな門も備えてある。
いくつか先の尖った背の高い建物もあった。
おお、と手を伸ばし窓に触れる、と。
白いひらひらとしたレースが見える。
目の錯覚であろうか。
そう思ってアヤは自分の体を見下ろすと、ごてごてのしっかりとしたドレスではなかったものの、寝間着用の薄く純白で出来たひらひらとしたレースの付いた袖の長いワンピース。
ロベリアを睨むように見るとふるふると頭を左右に必死で振っている。
違うか。
と、なると。
マリウスの方を見ると特に悪気もなさそうにこちらへと近づいてきていた。
どうやらこちらが犯人のようだ。
頭を抱えたくなる。
「アヤ殿、まだ体調が万全では……」
「結構です。ところで着替えは?」
「へ、あ、着替えですか?」
「はい」
「え、えーとすぐに用意させます」
「結構です、私が選びますので」
「は、はぁ……そう致しましたらこちらの戸棚に用意はさせて頂いてますが……」
アヤは指定された戸棚に寄って開けてみる。
見事にドレス一色。間違いなく動きにくいであろう。
何故このようなものばかり用意してあるのか。
「どうでしょう? 我が国誇る裁縫職人たちが腕によりをかけて」
「もっと動きやすいのないんですか?」
「へ?」
「あー、マリウス……あのね、アヤはもっと男の子っぽい服が好きなんだよ……ほら、召喚士だし……」
さすがのロベリアも空気を読んだのか、それともマリウスを不憫に思ったのだろうか定かではないが、たまには良いことを言う。
「な、なるほど。確かにアヤ殿とヴリトラとの戦、確かに激しく動き回りますな……完全に失念しておりました。すぐに変えを用意させます。申し訳ありません」
頭を下げ、急いで部屋から出て行くマリウス。
一国の王子がこんなので良いのだろうか。
若干の疑問は湧き上がるものの、別に悪い気もするわけではないので特に気にせず放っておく。
「アヤ……ちょっと可哀相じゃない?」
「ロベリアも俺が絶対あんなもん着ないって分かってて何で注意しなかったんだ」
「ちょ、ちょっと! 八つ当たり!?」
「八つ当たり? 止めれたよな? このロリババア」
「ろ、ロリババア! 二日ぶりくらいに聞いたよ! ひどいけどなんかちょっと嬉しいのが悲しいよ……」
「だいたいなぁ、俺にこんな服着たがらないのは……」
「おやおや、もう平気なのかい? ずいぶんと早いねぇ」
ロベリアとアヤが突然、声のした方向へと振り返る。
そこには老婆が一人立っていた。
杖をついて、少しだけ腰が曲がっているものの、元気そうな婆さんだ。
「ハンナ!」
「ロベリア、久しぶりだねぇ。まったくアンタはいつまでも変わらないよ」
そういうとロベリアとハンナと呼ばれた老婆が抱き合う。
ロベリアが体を預けているように見えるがそれを支える婆さんもなかなかタフだ。
「で、この口の悪い嬢ちゃんは?」
「アヤ、手紙に書いたでしょ?」
「なるほどねぇ。アンタがアヤかい」
ハンナがじろじろとアヤを見る。
居心地が悪い。
と言うか初対面から口が悪いと言うのは失礼ではなかろうか。もっともアヤを女としてみれば口が悪いのは事実なので何も言えはしないが。
「なるほど。モノは良いね。それで終焉はどこにやったんだい?」
「終焉?」
「ラグナロクの事だよ」
あ、とアヤは気づく。
慌てて周囲を見渡すがどこかに立てかけているわけでもなさそうだ。
「アヤ、心配しないで! 私がちゃーんと持ってるから」
はい、とロベリアからラグナロクを渡されて、ほっとする。
これは言わば男であった頃の記憶の中にある唯一の現物で、ギルドを上げて作った思い出の、そして努力の結晶だ。
無くすわけにはいかない。
「まったく。無くすようなことをするんじゃないよ。大事なものなんだろう?」
「はい……」
ぐうの音も出ない。
確かに気を失うほどの魔力を使った事など無いし、あの足元から崩れ落ちるような感じはあまり気持ちの良いものではない。
何よりその間、アヤ自身完全に無防備になってしまうのは避けたいところであった。
「これからは気を付けるんだ。で、少し貸してもらうよ」
返してもらったばかりだと言うのに、ぱっと、ハンナがアヤから取り上げる。
「ちょ、ちょっと婆さん……」
アヤの言葉を無視して目の前で振ってみたり、ポンポンと叩いてみたりしている。
「ふむ、なるほどねぇ。ロベリア、アンタこれ使ったことはあるのかい?」
「無いよ? だって魔力反応しないもん」
「そうかい。やっぱりねぇ。私も同じだよ」
どう言う事だろうか。
はい、とハンナから再びラグナロクを手渡される。
「預言の通りだと大変なことさね」
「どう言う……」
言いかけたところでバタバタとマリウスが駆け込んでくる。
「アヤ殿、お待たせ致しました! お着替えの方ご用意……ハンナ様!」
「おや、マリウスじゃないか。どうしたんだい?」
「あ、アヤ殿がお着替えが気に入らぬと言うことで……」
はぁ、とハンナがため息をつく。
「まあそれも大事だが魔法学院の事の方はもう話したのかい? ヴリトラを一人で討伐するような人だからねぇ、学ぶことがあるのかどうかは置いておいて」
「い、いえ……」
「まったく」
そう言うとハンナはちらり、とアヤの方を見て質問する。
「アヤ、アンタは魔法学院、興味があるのかい?」
もとよりそれが目的だ。
魔法学院に行き、農家の嫁と言う道以外を探す。そのためにわざわざイルレオーネまで出てきたのだ。
アヤは頷いて答える。
「もちろんです」
「師がロベリア、って言うのが引っ掛かるけどねぇ。私が思うに、だけどアンタが学ぶことなんてそう多くないと思うよ。それでも良いのかい?」
どれだけ脅されたところで答えは変わらない。
より上位の使い魔の存在が、魔法都市と呼ばれるイルレオーネなら見つかるかもしれない。
たとえ見つからなかったとしてもその痕跡でも見つかればまだまだ強くなれる。
それにレヴィンが去り際に言っていた『強くなれ』と言う言葉。あれも気になる。
「はい」
「意志が硬いのは良いことだよ。それともロベリアの教え方が悪くてもう一回学びたい、と思っているのかねぇ」
「な!? わ、私のせい!?」
「そうだよ。もう三十年以上前になるかね。アンタと一緒に戦ったヴリトラ、あの後もずっとアンタからいろいろ教わったけど、そりゃあもう、わたしゃ苦労したよ」
「そ、そうだったの……」
立ち寄った村で有能な魔術師が近くにいるのでは、と言っていたのがまさに真実だったわけだ。
それはそうだろう。
バカは人に物を教える事など出来ないのだ。
がっくしと頭を垂れるロベリア。むしろその事実に今まで気づいていなかったことの方がアヤとしては驚きである。
「あの……とりあえず着替えたいんですけど」
話がある程度落ち着いたようなのでアヤの要望を伝える。
いつの間にやら騒がしくなって部屋には四人も人が居て、着替えると言っても着替え辛い。
「ほれ、マリウス出とれ、淑女が着替えるといっとるよ」
「あ、すみませぬ」
慌てて出て行くマリウス。
残りの二人、ハンナとロベリアは居座る気まんまんのようだが、正直この二人も邪魔だ。
「あの出来れば全員」
「え!? アヤ、私も!?」
「当たり前だ」
「別に隠すことじゃないだろうに」
なんといわれようとも邪魔なものは邪魔だ。
はいはい、とアヤが押して部屋の外に出す。
ようやく静かになった。
するすると服を脱ぐ。
ふんわりと膨らんだ胸は日を追うごとに大きくなっていて、嫌でも女であると意識させられて、正直あんまり見たくないものだ。
ロベリアのような幼児体型を望むが、現実はそう甘くない。
母のセシルを見れば胸の大きさはそれなりに大きくなって少なくとも幼児体型、とは程遠い形になるだろう。
そう考えると少しだけ憂鬱になる。
ともあれそんなことを思っていても仕方がないので渡された服を着る。
服は女物であったが少なくとも純白のヒラヒラとした長袖ワンピースよりはよっぽどましだ。何よりスカートなんて心もとないものじゃない。
着替え終え、アヤが部屋から出るとマリウスを除いた二人が待っていた。
なぜだかロベリアは深々と麦わら帽をかぶって、しかもご丁寧にメガネまでかけている。
少しだけ聡明っぽく見えるようになったが元のバカ度が振り切りすぎてて、やっぱりバカに見えるのはどうしようもないのかも知れない。
ちなみに居なくなっていたマリウスの方はと言うと、公務があるらしくそちらへ向かったとのこと。
このあとはハンナが案内してくれるらしい。
どうやらイルレオーネに居る間、宿泊する家を与えてくれるらしい。
何とも太っ腹な王様だと思いつつ、アヤはロベリアと共にハンナについて、城の中をクネクネと右へ左へと曲がり外へと出る。
元の場所に戻れと言われても戻る自信はない。
城の外へと出ると賑わう街が広がっていた。
古いヨーロッパのような街並みで、様々な店が並び、見慣れぬものもたくさんある。
少なくともダミア村に居ては生涯縁のなかったものであろう。
右へ左へ、と大通りを歩いていると古めかしい店がポツンと建っていた。
周りの店とは一線を置くような、アヤにはまるでその店だけイルレオーネの街並みからチョキチョキとハサミで切り取ったようにすら見える。
「ロベリア、あの店はなんだ?」
アヤはちょいちょい、とロベリアの裾をつまんで小声で話す。
「あ、魔道具のお店?」
「魔道具……」
「気になるのかい? 別に急ぎじゃないし少し寄っていこうかね」
どうやら聞こえていたらしい。
わざわざ小声でロベリアに話す必要はなかったな、と思うと同時に少し申し訳なく感じるが、ハンナは気にした様子もなく店に入ったので、アヤとロベリアも続いて店へと入る。
「いらっしゃい」
気のない店主の挨拶が聞こえてくる。
見れば興味なさそうにぼけーっと外を眺めていてやる気のなさが滲み出ている。さすがに商売人としてそれはまずいのではなかろうか。
気のせいか店の中も結構な埃まみれで、客を呼ぶにはいかがなものかと思ってしまう。
とは言え商品はそれなりに綺麗に飾ってありランプやコンロのような日用品から杖やナイフ、盾まで様々なものがあった。
確か初めて魔法と言うものを知ったのも杖だったと思って、アヤは店に飾ってあった杖を取り、まじまじと見つめてみる。
が、どこをどう見ても普通の杖に見える。
魔道具、と言うからには特別な何かがあるのでは、とロベリアに尋ねる。
「魔道具ってなんだ?」
「んー、魔道具って言うのは魔法が使える杖だよ」
それはラグナロクも魔法が使える杖に入るのだろうか。
こいつに聞いたのがバカだった。
「まったく、ロベリアは説明が下手だねぇ。良いかい、アヤ。魔道具って言うのは魔法が込められた道具の事だよ。人間には魔力が流れているからね、それを増幅して魔法が使えないような人でもその恩恵にっていう道具さ」
隣で聞いていたハンナが補足を入れてくれる。
これではロベリアに尋ねたのかハンナに尋ねたのかわからないと思いつつも、分かりやすい説明に感謝する。
なるほど。
いつだかの行商人が初めてアヤに魔法と言うものに触れたあの杖、あれも恐らく魔道具であったのだろう。
しかし値札を見ても金額、高いのか安いのかも分からないが、少なくとも過去の経験上、農民が買えるような値段ではないのだろう。
「アヤ、その杖が気に入ったのかい? でもアンタにはもっとスゴイのがあるだろう?」
「そうそう、アヤにはひつようなーい!」
ロベリアがぱっとアヤから持っていた杖を取り上げて元の位置に戻す。
「魔道具はねー、高いんだよ? それにアヤは凄いから必要ないの!」
「人に伝えられる程度に言語化してくれ……」
「え、げん……なに?」
このバカ面の鼻に割り箸を突っ込んでやりたい。
「バカには分からなかったかな」
「バカじゃないもん!」
「騒がしいよ、二人とも。喧嘩するなら出るよ」
見かねたハンナが二人を店の外へと出す。
そして喧嘩ではない。
ロベリアと同じレベルで考えられては困る。
「まったく、仲が良いんだか悪いんだか、姉妹みたいだねぇ。ともかくアンタたちを泊める家まではもう寄り道しないからね」
ロベリアはまだバカじゃない、とぶつぶつ呟いていたが言い争ってバカのレッテルを張られては困るので無視する。
しばらく歩いているうちにロベリアが静かになり、それを見計らったように今度はハンナがアヤに質問をしてきた。
「そういえばマリウスから授与式の話は聞いたのかい?」
「授与式?」
アヤとロベリアが同時に聞き返す。
マリウスからは特に何も聞いていない。
「その様子だと何も聞いてないようだねぇ。まったくマリウスは何をやってたんだい。授与式ってのはね、ヴリトラ討伐の勲章授与だよ」
「どういうことですか……?」
イルレオーネからは二日ほどかかるところで討伐したハズ。
直接危害が加わるような場所ではなかったのだが。
「何を言ってるんだい。あれだけの巨体だよ。蛇龍ヴリトラはイルレオーネからもはっきりと見えてね。三十五年前、あの日が再来したのだと国中がパニックになったところに、あのタイタンさ。
そりゃあ国を挙げて祝うことになるだろうよ。そこのロベリアだって未だにこうやって顔を隠さないと街なんて歩けたもんじゃないんだからね」
なるほど、ツバ付きの麦わら帽を被ってメガネまでしていたのはそういった理由だったのか。
「まあこうして自由に歩けるのもあとわずか……」
「ハンナどういうこと!?」
ロベリアが必死な面持ちでハンナの言葉をさえぎって尋ねる。
「ロベリア、どう言う事とはなんだい?」
「アヤが授与式!?」
「今言っただろうに」
「ダメ!! ダメダメダメダメ! ぜーったいダメ!」
「何を言うとるんだ。もうアーベルが決めたことだよ」
雷に打たれたような顔で硬直するロベリア。
どういうことだ。
ここはアヤを祝福するのが普通ではないのか?
ぐぬぬぬ、と唸り始める。
「アヤが授与されたら私の威厳がなくなっちゃう!!!」
「……アヤ、授与式はなるべく早く行いたいって言ってたからね、早くて一週間後だからね」
ロベリアのどうしようもない理由を無視してハンナが続ける。
「わ、分かりました」
「アヤも!! 分からないで!!」
分からいでか。
それにしても授与式とはいったい何をすればよいのだろうか。
心の準備が整っていない一週間と言うのはだいぶ急な気もしなくもない。
授与されると外に出にくくなるらしい。
うーん、とアヤは考え込む。
なんだか面倒なだけな気もしなくもないけども。
「さて、着いたよ」
考えているうち、一軒の家に着く。
大きな門に兵士が一人立っており、豪邸と呼ぶにふさわしかった。
家の前には大きな庭が付いており、手入れをするのも大変であろう。
「ええ、と……?」
確か住む家だとかなんだとか話していたと思っていたが、これは住むと言うよりは宿泊するホテルか何かの間違いではなかろうか。
「ハンナ様、お待ちしておりました!」
「良いんだよ。で、こっちがアヤ、こっちが」
と、いまだにアヤが勲章授与……と呟いているロベリアをハンナが見る。
「ロベリアだよ」
門番の顔が驚きに変わる。
「あ、あのロベリア殿ですか!?」
「なんだい、何も聞いてないのかい?」
「え、ええ。私が聞いておりましたのは王家の所有宅であるこの家を持つものが決まった、としか……」
「意地が悪いねェ……それともただ忘れてただけなのか……とりあえず中に入らせてもらうよ。この家に住むのはこの二人だからちゃんと覚えておくんだよ」
畏れ多そうにも門番が畏まりました、と言ったのを聞いて三人は中に入る。
すると数名のメイドと執事が出迎えの体制を取っていた。
「お帰りなさいませ、ハンナ様」
それを聞いたハンナがふぅ、とため息をつく。
「アンタたちも何も聞いてないのかい?」
すると奥から執事がハンナの質問に答える。
「ロベリア殿とそのお弟子様がここに住まう、と言うお話を聞いております」
「なるほど、門番には誰も言わなかったのかい?」
「門番は先ほど交代したばかりだったので恐らく……」
なるほど、とハンナが納得する。
「とりあえず私は案内したし帰るよ。アヤ、アンタの魔法学院への手続きは私がしておくから今はゆっくりしてるといいよ」
「あ、ありがとうございます」
ロベリアは未だに授与式を否定したいようでぶつぶつと呪いの言葉を吐いているので、ハンナは無視して帰る。
すぐに執事がアヤとロベリアを部屋へと案内しようと、話しかけてきた。
「ロベリア様、そしてお弟子様の……」
「あ、アヤです」
「失礼致しました。アヤ様。お疲れでしょう。お部屋へご案内致します」
そういうとアヤとロベリアを連れ、部屋へと案内してくれる。
ロベリアはロベリアの部屋へ、そしてアヤはアヤの部屋へとそれぞれ案内され、部屋の中へ入った。
部屋には大きな頭上にレースのついたベッドが鎮座し、アンティーク家具がいくつも置いてあり、色こそピンクではなかったものの純白で、女の子が好みそうな部屋だった。
悪くはない、が元男であった自分からするとこういう部屋はあまり好まないのだが、とアヤは思う。
「あ、申し遅れました。私、この屋敷の執事を務めさせて頂きます、ユーリウスと申します。以後よろしくお願い致します」
「あ、こちらこそ」
「もし何かございましたらお申し付けください。では、失礼致します」
そういうと部屋から去っていく。
ふぅ、とようやく息をついた。
それにしてもヴリトラ討伐による勲章授与か、とアヤはハンナの言葉を思い出す。
街を歩きにくくなるのは嫌だが、ロベリアの悔しがる顔を見るのは楽しみかも知れない。
それに魔法学院も余り学ぶことは無い、と脅されたがやはり、ゲームの時代に調べることのできていない地域であるのには変わりないので、気にはなる。
楽しくなりそうだ、そう思うと居てもたっても居られなかったが時間を経たせる速度を変える事など出来はしない。
仕方がないのでせっかく宛がわれたこの荘厳な屋敷。これを探索して待つことにしようとアヤは心に決めたのだった。




