一、
『W.I.』って知ってる?
ネット上ではそんなうわさが流れていた。とはいっても都市伝説の類で、伝わる途中でねじ曲がっている可能性が高くどこまで信用できるものかわからない。
ただしかし僕には分かる。
――これは実際に存在するものだと。
新暦十年、日本の政治の仕組みは大幅に変化した。五年前、政府は政治に特殊なAIが導入された。それは大きな変革だったので大きく報道された。
だがその実態は謎で、それがどのような名前なのか、仕組みはどうなっているのか、誰が開発したのかは国民の誰一人としていない。
そんな謎の多いものに興味を示す団体に僕は所属している。いわゆる「オカ研」、オカルト研究部である。
そして僕たちオカ研が大規模に動くことになった事件が三年前に起こった。
【アメリカ軍基地襲撃事件】
世間ではそう呼ばれた事件だ。
事件を起こしたのは日本の自衛隊である、と報道されているが事実は不明である。 事件はあまりにも突然で動機も目的も不明なまま処理された。
その事件はそれで終わった。だがそれから三年が過ぎた今、僕は突然その事件に違和感を感じた。アメリカと敵対して良いことなんてないはずだ。
AIの政治によって日本はアメリカに次ぐ大国となった。軍事力を除けばアメリカと互角、もしくはそれ以上あったかもしれない。考えたくないが軍事力でさえもアメリカ異常だったかもしれない。
あくまで例の事件は自衛隊の独断、とされているが本当は政府が指導したのではないだろうか、そんな疑問も浮かんだ。それらを解消することに何か意味があるとは思えないが自信の欲求と時間をつぶすのにはちょうど良いだろう。何せ僕は暇だからね。
調べる、と言っても僕一人でできるのは過去の新聞を調べたり、当時のニュース番組を掘り返してみたりするくらいしかなく、成果は出なかった。新聞には当時報道されたことしかない。ニュース番組だってそうだ。
だから僕は暇な人たちに頼むことにした。
僕たちオカ研は基本的に暇なので、何かあればすぐに動くことができる。もちろん今回も例外はなく、即座に了承を得ることができた。
「三年前のアノ事件ね。また面白そうなネタ持ってきたね」
そういうのはオカ研最年長者である愛華先輩。
「久しぶりの活動ですね」
抑揚のない声で答えたのは守。僕の後輩だ。
三か月ぶりの活動だったので愛華先輩はかなりテンションが高い。
「君はその事件、国の陰謀とかからんでると見たんだね。なかなかおもしろそうじゃない。そういう国家の闇とかを暴くのが我が「オカ研」の活動なのですよ!」
愛華先輩は何に影響されたのか、陰謀などかなり黒い事が大好きだ。オカ研とか言ってるけど実際は国のあらさがしである。
「で、それに関する情報の当てはあるの?」
当然ないです、と答えるといかにも残念そうな顔をして守の方を向き、
「守君は何かある?」
「その事件に立ち会った知り合いの警察官とかそこらへんを当たってみます」
そういうと早々と部屋を去っていった。