三、
目が覚めたのは次の日の朝だった。意識を失ってからだれかが運んでくれたのか自室にいた。あれから調査がどうなったかは分からないがたぶん僕が倒れたから中止になっただろう。
結局昨日手に入った情報はこれと言ったものはなかったから少し残念だ。
「昨日はすみません。急に倒れちゃって」
そう言うと愛華先輩が僕のところに寄ってきて、
「あの後病院に連れて行ったんだけど、軽い脱水症状だって」
確かに言われてみれば調査に熱中しすぎていて、ほとんど水分補給をしていなかった。僕のせいで皆に迷惑をかけてしまって情けない。
昨日の調査の報告会をしたが、特に成果がなかったため意味のない空っぽのものになってしまった。次は何を調べようとだらだらしゃべることの方が多かった。
「そういえば僕、倒れる前に何か言ったよね? なんて言ってた?」
まるで自分とは違う誰かに言わされたみたいなものだったから気になっていた。
「なにそれ。倒れる前になんか何にも言ってなかったよ」
愛華先輩が何を言っているのか分からない様子だった。確かに何か言ったはずだったが声が小さかったのかな。
「守はどうだった」
「いえ、僕も何も聞き取れませんでした」
守も聞こえなかったのか。何かつぶやいたと思っていたが気のせいだったのだろうか。事実が確認できない以上どうしようもない。
意味のないものとなってしまった現地での調査だったが、見つからなかったものは仕様がない。重要なのは次にどのように行動するかだ。本当はそんな話もしたかったが暑さにやられてしまって、ぐったりとしていた。
当然ぼくも例外ではなく、そんな風になっているわけで、視界も少し歪んで見える。熱中症にでもなってしまったのだろうか。何もする気も起きない。
「愛華先輩、今日はもうお開きにしませんか・・・・・・」
「・・・・・・いや、ダメ。次にどこ行くか決まるまで二人とも帰さないから」
そう言ってるけど愛華先輩も暑さにやられてますよ、そんな反応をしても愛華先輩の反応は薄い。
とはいえこの暑さは以上だ。もう十月にもなるというのに暑さで意識が朦朧とするなんて事は聞いたことがない。異常気象だろうか。
思考回路が正常に動作しない中で会議がすすむはずもなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
「先輩、そろそろ帰りませんか。このままいても進展があるとは思えませんし」
誰も動く気配がなかったので僕から切り出した。
「そだね。じゃあ今日はもう解散ってことで」
相変わらず気だるそうな感じでそう言った。
結局解散となったのだが、一つ心配なことがある。この炎天下の中二人とも無事に帰れるのか、そんなころを思いながら僕は帰っていた。僕自身も危険地に身をさらしているが。
翌日、暑さはだいぶ和らぎそこそこ過ごしやすい気候に戻っていた。昨日が異常だったのか、それとも今日が例外なのかは分からないが、正常な思考ができる分まだましだろう。
「おはようございます。今日はだいぶ涼しくなりましたね」
それでも普通よりは暑いけどね、と愛華先輩が苦笑しながら返してきた。
「昨日できなかったし、次の調査についての会議を改めてしようか」
心機一転、という感じで愛華先輩が大声を出した。もう少し加減ができないのかな、その声は部屋中に響いた。
「現地を見に行っても何もなかったのが残念だったからね。次は確実に成果を出そう」
何かしらの情報がありそうな場所ってあるかな、と愛華先輩は議題を出す。とはいっても僕自身例の事件がどんなものだったかなんてはっきりと覚えている訳でもないから心当たりはない。やはりここは情報網が豊かな守に頼るべきか。
そう思ったが今日は守が来ていない。いつもは顔をだしているはずの時間だが、常に真面目な守にしては珍しい。ここにいる先輩はかなり時間にはルーズだが。
いつも来ている人が来ていないと少し心配になってしまう。
「愛華先輩、今日は守がどうしたか聞いてませんか。心配なんですが」
少し表情を曇らせたあと愛華先輩は、
「私は何も聞いていないんだよね。君は知っていると思ったんだけど、君も知らないとなると少し心配になるね・・・・・・」
守の様子を見に行きたいのだが、実は僕たちは守の家の住所を知らない。加えて自宅の電話番号も知らないので連絡しようにもできない。ちなみに守は携帯電話をよくなくすのであてにならない。
どうしようか悩んでも仕方ないため、守の行きそうな場所を歩き回ることにした。
が、全然見つからない。そもそも守の行きそうな場所と言うのがあまり分からないから性格から判断するしかない。
まただ。またこれを防げなかった。こうなることはわかっていたはずなのに・・・
終わりと言うのは突然来るもので、それは本当に一瞬のことだった。
空は赤、青、緑と転々と色を変え、何かが光り視界を奪う。かと思えば暗転し、次に目を開けた時には・・・・・・。






