空想世界の終わり方
目が覚めたら病室のようなところにいた。
「目が覚めましたか?」
誰だろう。こんな女の人と知り合いだっただろうか?
「えっと……どちら様ですか?」
「あれ? 覚えてないのかな? 私は香田溜宇美だよ。まあ君なら仕方ないかもしれないね。それより大丈夫? 頭を殴られたって聞いたんだけど」
聞いた覚えはない気がする。知り合いだっただろうか。
それより僕はあの殴られたときから何があったのか知らない。あれからどのくらい経ったのだろう。
「あのあと何があったんですか?」
すると、その人は少し遠くを見つめながら答える。
「君は、覚えてるはずだよ。あの世界のこと」
あの世界。なんだろう。記憶を手繰りよせる。
少し時間はかかった。だが思い出してから数十秒たったあたりから頭の中にかなりの情報が流れこんでくるような感覚が襲った。そして、すべて思い出した。
「『内側の世界』ってやつのことですか? あの謎は僕は解けていなかったんですけど」
「覚えてるね。さすが茂くんだよ」
茂? ああ、僕のことか。確か僕は、鳳崎茂という名前だった気がする。あの世界のことがあって少し混乱しているらしい。
それよりなぜあの世界では僕の名前はなかったのだろうか。愛華先輩や守にはあったのに。もしかしたら僕は自分の名前を知らなかったのかもしれない。
「ところであなたは誰ですか?」
「私のことは宇美でいいよ。まだきっと君は混乱してるだろうからね」
宇美さんか。この人とどんな関係だったかはまだしっかりと思い出せないが、こうして見舞いに来てくれるということは、親密な仲だったのだろう。
しばらく話していたが、まだ良く思い出せない。そもそも僕は誰だっけ? なんで病室になんているんだろうか。
「僕と宇美さんはどんな関係だったんですか? まだ良く思い出せないんです」
「私と君は先輩後輩の関係だね。私のほうが年上。同じ大学のね」
そうか、僕は大学にかよっていたのか。
それにしても、僕は全く覚えていないんだな。頭のうちどころが悪かったのだろうか? そう思ってそばに置いてあった検査結果のようなものを見てみたら、異常なしの一言しかなかった。
「僕何にも覚えていないんですけどなぜでしょう。検査結果は異常なしとなっていますが」
宇美さんは少し悩んだ様子を見せてから、ためらった様子を見せてから口を開いた。
「君の記憶がしっかりとしていないのは、君の特徴なんだよ。詳しくは今は話せないけど、その特徴はその時になったら絶対に役に立つから。記憶があまりできないのは不便かもしれないけど、きっとそれは君の力になるから」
そう言うと、宇美さんは立ち上がって帰っていった。
僕にはその言葉の意味を理解することはできなかった。
あれから数日たち、僕は無事に退院することができた。 そして、一人で家に帰る。
家に帰っても誰もいない。両親は十年前、とあることがきっかけで亡くなったのだ。下にも妹がいたが、その妹も今はいない。一人になってしまった僕は、この家で寂しく暮らしていた。仲の良い友人はもういなかった。
結局ほとんど何もわからなかったあの世界。ただうわさであった『内側の世界』というのは存在した。そのくらいのことしかわからなかった。なぜ僕はあの世界にいたのか。守は誰だったのか。そして……『記憶』とは一体どういうことだったのか。
僕は記憶は不自由だが、あの空想世界のことは絶対に忘れない。なぜかは分からないが、そう思った。そして、あの実験の実態は何だったのか。
考えても僕にはわからないことなので、今は気にしない。だがいつの日か絶対に暴いてやる。あのプロジェクトの真意、そして『内側の世界』の謎を。
どうも。作者の植田真美です。
今回にて、「内側の世界~ワールド・オブ・インサイド~」の本編は完結となります。
ですが今後、外伝、事後などを投稿するかもしれません。その時は、再びご覧くださると幸いです。
「三つの世界ぷろじぇくと」シリーズは今後も続きますのでよろしくお願いします。
このような拙書を最後まで読んでいただき、誠に有難う御座います。
今後の執筆活動の参考にさしていただくので、ご意見ご感想はご遠慮なくどうぞ。
それでは、次の「三つの世界ぷろじぇくと」シリーズでお会いしましょう。




