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空想と現実の境界線

 まあ結局僕はどうあがいてもスパコンの破壊に行かなきゃいけないわけで、それはもうどうしようもないものだった。

「結局僕はどうすればいいんですか?」

「たぶん警備とかそういうのは緩いと思うから、特に何も警戒せずに突っ込んでっていいと思うよ」

この人は頭が切れるのか考えなしなのかどっちなんだろう。いまさらだが身の危険を感じてきた。

「もう僕やめていいですかね。命が危うい気がするんで」

僕がそういうと、愛華先輩は急に真剣な表情になった。

「いや。このコンピューターは壊してもらわないと困る」

「それは……」

なぜですか、と聞こうとしてやめた。先輩は今まで見たこともないくらい僕のことをにらんでいるのだ。……右目が輝くくらいに。有無を言わさぬかのように。

「……分かりました。やりましょう」

結局愛華先輩の雰囲気に気圧されて了承してしまった。


 守がその研究施設までの地図をくれたので、案外すぐにそこにつくことができた。驚いたことに歩いて行くことができる距離に研究所はあったのだ。みんなでいったほうが良かったんじゃないか? そう思ったが守は、

「僕はもう少し調べたいことがあるので、すみません」

きっと守も気になることがあるのだろう。僕はその実態の分からない組織がいるところに今から潜入するのだが大丈夫だろうか。

 愛華先輩は独自に発見したことがあるらしく、自分はそこに向かう、と言っていた。結局、何も知らないのは僕だけである。

 そんなことを考えているうちに着くくらい研究所は近かった。何をしているのかわからない組織がこんなにも近くにあるとは。少し怖くなってきた。

 外見は、まあ普通の研究所、というのかわからないが、ぱっと見た感じは違和感はなかった。

「お邪魔します……」

 入り口は空っぽだったので、誰も居ないことを確認しつつ中に入っていった。防犯カメラの類は一切見つからなかった。ずいぶんと警備が緩いな。

 施設内部は予想以上にスッキリとしていた。ロビー付近には人気もない。入ってすぐには受付と思われるカウンターがあったが、そこには誰も、何もない。研究所ということで人はいるはずなのにもかかわらず、不気味なほど静かだった。

 守にもらった内部の地図を参考に、中枢部へと向かう。廊下には僕の足音が響く。

 部屋はたくさんあるが、どこにも明かりはついていない。外はまだ明るいから問題ないが、廊下にも明かりはついていない。

 ここには人はいるのだろうか? いないのであればそれはそれでやりやすいのだが、どうにも不安になる。

 そしてとうとう誰一人として見つけることなく、僕は中枢部へと到着してしまった。不思議なことに、この部屋だけは明かりがついていた。やはりここにコンピューターがあるのだろうか?

 部屋に入る前に、周りを確認する。やはり人はいない。今まで他の人間を見ていないので僕はもうすでに帰りたいという考えでいっぱいだったが、ここまで来てしまったので引き返すわけにはいかない。

 そこへの扉は案外あっさり開いが、二重扉だったらしく奥にもう一つ扉が見えた。ここはまだ廊下みたいなものだ。警戒しつつ僕はもうひとつの扉を開ける。

 中は異様な空間だった。僕は、コンピューターは一つだけだと思っていたが、そんな予想ははるかに上回った。

 五十。いや、百はあるだろう。大量の箱でうめつくされていた。その箱からはたくさんのケーブルが垂れている。まるで森のようだった。灰色の、森のようだった。

 僕が戸惑っているとどこからか男の声がした。

「いやぁ。以外に早く来ちゃいましたね」

聞いたことがあるような声だったがしゃべり方が違う。

「誰だ」

僕は低い声で問う。かなり広い部屋の中、どこに相手がいるのかわからないので少し大きめに。

「いやだなぁ。もう忘れちゃったんですかぁ? ひどいですねぇ」

声が段々と近づいてくるのがわかった。僕も歩いてなるべく近づかないように努力する。

 だがやはり、部屋の構造を把握している人物に敵うはずもなく、すぐにその人物と対面する。その人を見て、僕は驚愕した。

 その人のことを僕は知っていた。その人とはいつも顔を合わせていた。その人は僕の後輩だった。

「守……なんで……」

僕は驚きで口を開けていた。なぜ守がこの研究所にいるんだ? 

「いやぁ。すみませんねぇ。これも命令なんですよ、上からのね。しかも今回はプロジェクトの本格始動後初のシュミレーションですから。成功させないとボクのクビが大変なんですよ」

「どういうことだ? 説明しろ」

何を言っているのか全くわからない。プロジェクト? シュミレーション? 何が何だか。

「いいですよぉ。あなただって部外者じゃないですからねぇ」

僕は部外者じゃない? 一体どういうことだ。実験やらプロジェクトやら僕は一切聞いたことがないぞ。

 (いぶか)しむ僕だったが、そんなことは気にせずに守は話す。

「あなたもぉ、そろそろ気づいているんじゃないですかぁ? 今の世界のこと」

今の世界、と言うとどういうことだろう。特に違和感は感じないが。

「ある時になると、頭に何かが流し込まれるように痛くなる」

なにか引っかかるがまだわからない。

「前にも似たようなことがあったように思う時がある」

そこで僕は確信する。こいつは前に僕が経験したことを知っている。誰にも話してないのに知ってるあたり本当なんだろう。

「そろそろわかったかな? この世界がいったい何だということに」

それが答えかどうかは分からないが、導き出したそれを僕は口に出す。

「この世界は……繰り返されている……?」

自分なりに考えた、最高の結論だった。

 だが守の反応は違った。残念、といった顔をしてにやけている。

「惜しいな。でもそこまでわかっただけ上出来だ。さすがは『記憶』だ。それだけでも実験は半分成功といったところかな?」

 『記憶』? 全く何を言っているんだか理解できない。それに僕が答えを間違えたのにもかかわらず実験は半分成功とは何なんだ。

「続きが聞きたそうな顔をしているねぇ。いいよ。ちょっとだけ教えてあげるよ」

そう言って守は箱の森の中へと入っていった。

「まあ言い方によっては繰り返されてるって言うのかもしれないねぇ。でもねぇ、答えは違うんだよ」

「じゃあ一体何なんだ」

「答えはねぇ、君が経験した世界すべて違うものなんだよぉ」

「すべて違う…?」

「ごめんねぇ。この世界についておしえられるのは残念ながらここまで。でも他のことを教えてあげるからねぇ」

 何故か守は中途半端に情報を開示して途中で切った。だがまだ僕には疑問がある。

「さっき言った『記憶』とはどういうことだ」

「これもあんまり深くは言えないけどぉ、君自分の名前言える?」

「あたりまえじゃないか。僕の名前は……」

そこで言葉が途切れる。名前が――わからなかったのだ。

「なぜ名前が言えない!」

怒鳴るように叫んだが、何も変わらなかった。

「それが答えだよ。君に名前がないのは簡単な事だから。そこからきっと答えにたどり着けるさ」

そう言うと守は背中を向けたち去っていった。

 だが帰り際に一言残していった。

「大丈夫ですよ……先輩。ここでの出来事は、すべて『内側の世界(くうそうせかい)』での出来事ですから」

 僕は最後の発言の意図がつかめなかったが、最低限愛華先輩に指示されたことだけやっていこうと思い、コンピューターの破壊をしていった。

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