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※モテ期注意!
翌朝。
携帯のメール着信音で目が覚めた。見てみるとメグリちゃんからだった。
【お仕事探してるんだよね?うちの社長に話したら、会ってみたいって言ってるから、昨日のお店に12時に行ってみて。 メグリ】
【ありがとう。行ってみます。 手代】
なんか、紹介してくれたようだ。まあ、キャバクラで働く自分が想像できないが、せっかくメグリちゃんが紹介してくれたから会ってみるか。
約束の時間までけっこう余裕あったので、洗濯をしながらシャワーをあびる。汗っかきだからだろうか、出かける前と帰って来た後はすぐにシャワーを浴びる習慣がある。どうでも良い情報だけど。
約束の時間の10分前に着くようにして、お店の前に来た。えっと、このままお店に入ってもいいのかな?お店のドアには準備中の札が下がっているが、ドアの鍵は開いているようだ。思い切ってドアを開けて声をかけてみる。
「あの~。12時に約束している手代と申しますが・・・」
店の中には誰もいない・・・。あれ?間違えたのかな?でも、昨日来た店で合ってるよな・・・
「あのー!誰かいませんかー!」
ちょっと大きめに声をかけてみる。
「はーい!ちょっと待ってねー!適当に座っててー!」
奥のほうから女性の声がする。社長さんかな?でも、女性の声だよな・・・
言われた通りに入り口近くの椅子に座って待つ。昨日はここに男性店員が控えていて、何名様かを確認した後におしぼりを渡してくれて、「女の子が向かえに来ますのでお待ちください」と言われた場所だ。
「お待たせ・・・あれ?どこに行っちゃったのかしら?」
この席から店の奥は少し見えにくいような作りになっているため、どうやら私がここにいることがわからないようだ。
「あの。入り口のところに・・・」
「ああ。なんだ。そこにいたんだ。どうぞ~お店のほうに入っちゃって~。というか事務所のほうにずずいと入っちゃって~」
なんだか明るい美人さんだなぁ。手招きをして先に行くので、その後について行く。
奥に入ると右手にキッチンのような部屋があり、その奥にキャバ嬢?女の子たちの更衣室があり、さらに奥に事務所と書かれた札の付いたドアがあった。手前のふたつの部屋はどちらもドアが付いていなかった。事務所のドアの手前左には従業員用のトイレがあるようだ。男女で別けられていないのか、ドアにトイレマークが貼られているだけだ。
「はいどうぞ~。いまお茶かコーヒー出すけど、どっちがいい?」
「えっと。それじゃあ、お茶で」
事務所の中は正面と右手にオフィス机がふたつあって、どちらもデスクトップパソコンが置いてある。中央には一人掛けのソファーがふたつ机を挟んで置かれている。部屋の左手にお茶やコーヒーを入れる用の棚や胸の高さほどの冷蔵庫にウォーターサーバーが置かれている。
「はい。ペットボトルのままでごめんねぇ~。私、お茶を入れるのが苦手でさぁ~。なぜかいつも薄くなるか、渋くなっちゃうの。だから、ひとりの時の為に冷蔵庫にペットボトルのお茶とかコーヒーなんか入れてあるの」
「別に大丈夫ですよ。むしろ冷たいお茶で助かります」
「ああ。君、良い体をしているからねぇ~。暑かったでしょ?」
「はぁ。まあ・・・」
「抱き心地良さそうな体だわ~。良かったら、私とどう?」
「はい?どうとは?」
「どうとは?って・・・。何?もしかして、はっきり言わせたい系?ドSだなぁ~。ますますいいわね」
「いえ。あの・・・。本当におっしゃっている意味が・・・」
「え?そうなの?あー。まあ、いっか。それよりも本題に入ったほうが良いよねぇ~。ごめんね?私、良く話が脱線して長いって女の子たちからも言われるんだよねぇ~。おばさんになっちゃったかなぁ~」
「いえ。おかげで緊張が少しほぐれましたし。それにえっと、社長さん?は・・・おばさんというには早すぎますよ」
「ああ。ごめんごめん。まだちゃんと名乗ってなかったよね。私。森本リンコと申します。これでも一児の母でバツイチなんだよねぇ~。えっと、肩書は~社長になるのかなぁ?この店の他に二店ほど持ってて、店長は雇わずに全部自分で回しててねぇ~。社長なのに一番働いてるの」
「子供居るんですかぁ~。見えないですね」
「ほんと?ありがとう。お世辞でも嬉しいわぁ~。ところで、君いくつ?」
「今年で35歳になります」
「え?35?なんだタメじゃん!私も今年35歳」
「そうなんですか。凄いですね。同い年なのにもう三店舗もお店持ってる社長さんだなんて」
「えへへ~。凄いでしょ~。同級生からも一番の出世頭って言われてるの~」
なんだか照れた顔がかわいい。本当に照れているのだろう。本当に同い年なのかな?向こうのほうが全然若く見える・・・。いや、私が老け過ぎなのだろう・・・
「えっと、それで・・・っと。なんだっけ?ああ、そうそう。メグルちゃんからの紹介で仕事探してるんだったよね」
「はい。ただ・・・こういう店で働いた経験が無いので、正直役に立つか・・・」
「う~ん。そうねぇ。お店に出るにはちょっと愛嬌があり過ぎるかなぁ~。女の子たちが目立たなくなっちゃうわ」
「いえいえ。それよりも、店が狭く感じると思います」
「大きくて抱き心地良さそうだもんねぇ~。まあ、うちは三店舗やってるだけに、裏方は人で不足なのよ。事務の子と私とでお店を回って管理してるんだけどね。そろそろ、一店舗に一人は事務の子置いて、店長代理的なことも任せようかなぁ~って思ってて~。ああ、冷たいうちにお茶飲んじゃって。私も飲むから」
二人でお茶を飲んで一息入れる。冷たくて美味しい。
「まあ、でも。それはこの店とか他の店で働いている女の子の中から選ぼうと思ってるから~。あれ?男手足りてるな・・・。う~ん。どうしよう。そうだ!私の恋人になるのはどうだろう?」
「はい?」
「ああ。ごめんなさい。調子に乗りました。今は真面目な話をしちゃわないとね。ごめんごめん。でも、ちょっと本気」
「は、はあ?」
「おかしいなぁ~。私に魅力が無いのだろうか・・・。いや、まだ大丈夫なはずだ!イケるぞリンコ!ふぁいおー!」
なんか一人でぶつぶつ言い始めた。大丈夫かな?まあ、無理に雇ってもらう必要もないからダメそうな感じだし。帰ろうかな?
「あの・・・。別に無理して雇わなくても大丈夫ですよ?一応、失業保険も出ますし。貯金もまだある程度あるんで・・・」
「いや。ちょっと待って!行かないで!捨てないで!私を貰って!」
「いやいや。なんか最後おかしいですよ?」
「ハッ!つい本音が・・・。チラ」
「・・・帰って良いですか?」
「くっ!おかしい!リンコちゃんのアピールが全然通じていない!なんという強敵だ!オラワクワクして来たぞ!」
「・・・それじゃあ」
「待って!ごめんなさい!冗談はここまでにします!ほんとに!えっとね。そうあれ!あれする人が必要だったの!」
「あれ?」
「えっと、なんだっけ・・・ほー。ほー。あの~パソコンとか携帯で見られるやつ!」
「ああ、ホームページですか?まあ、最近はサイトとか、ページとか言いますね」
「そう!たぶんそれ!それをうちのお店でも作ろうと思ってるの!」
「ああ、多いですね。お店の女の子や店長がブログしたり、生放送したり」
「へ?そうなの?何々生放送?何それ?どんなの?」
「いや。普通に生放送サイトでお店の子とか、店長とかが放送を見ている視聴者にお店のアピールしたり、雰囲気を伝えたり、イベントの告知したりするやつですよ?」
「ほうほう。今そんなの流行ってるんだぁ~」
なんかキラキラした目でこちらを見てくる。いや、流行っているというか、もはややっていて当たり前な域に入ってると思うんだけどな・・・
「あ~。でも、うちの子。親や友達に内緒でバイトしてる子多いからなぁ~」
「ああ、よくありますよねぇ~。放送中はマスクしたり、カツラしたりして出てる子」
「ほほう!なるほど!そういう風にすれば大丈夫なのか!声も若干変えてもらえば問題ないよね!」
「そうですね。ボイチェン使ってるところもありますね。受け狙いですけど」
「ぼいちぇん?」
何それ美味いの?という顔をする社長さん。かわいいなおい。
「ボイスチェンジャーですよ。声を変える奴」
「ああ~。それね。そっちのボイチェンかぁ~」
「どっちのボイチェンと勘違いしたんです?」
「うん。そうね・・・。えっと・・・」
目が泳ぎまくって、汗がダラダラと流れ始めた。なんか、こうなるとわかってたけど、いじりたかったんだ・・・
「それで、どうするんです?」
「へ?ああ。それとかどれくらいお金かかるの?お高い?」
「そうですねぇ。放送に耐えられるスペックのパソコンと、出来ればサウンドボードもちゃんとしたの使いたいですし・・・」
ふと、社長を見ると何を言っているのかわかりませんというポカーンとした顔をしている。お口開いていますよ!お口!
「たぶん。パソコンを新しく買うと30万くらいかな?それと、生放送サイトに月額540円くらい」
「へ?そんなに安いの?もっと、こう・・・100万とか、月々うん万円かかるかと思ったんだけど」
「ああ、そうそう。もちろんインターネットの料金は別でかかるんで」
「それは大丈夫。一応、三店舗ともネットは繋がってるから。といっても、私はメールくらいしか使えてないけど・・・」
でしょうね。
「そっかそっか。初期費用でそんなもんならすぐにでも始められそうだなぁ。ああ、ボイチェンっていくらするの?」
「無料のソフトがネットにありますよ。有料の製品がもちろん質は良いんですけど、そこまで気にならないと思うので」
「ほうほう。でも、一応有料の奴買っておくかな。一個あれば他でも使えるんでしょ?」
「はい。たぶん使えると思います」
「やるからには全力で!が私のモットーだからさ。と言っても、パソコンとかネットとか全然わかんないから、全部お任せになりますけど・・・」
「う~ん。私も自分でやったことはないので、かじった知識しかないんですけどね」
「いやいや。私の知らない事をそれだけ知っていれば十分です。ぜひお願いします」
「う~ん。でも、簡単ですよ?作るのはさすがにちょっと色々面倒ですけど、作った後はそんなに難しくないですから、お店の誰かに管理させてもイケると思いますけど・・・」
「いえいえ。できれば、手代ちゃんに管理して頂きたい。逃がしたくないし」
社長が「・・・頂きたい」の後に何かぼそりとつぶやいたのだが、聴こえなかった。
「すみません。最後のほう、聞き取れなかったんですけど・・・」
「ん?いやいや。大丈夫。そこは大丈夫だから。それよりも、いつからできる?うちとしてはいつでもOKなんだけど」
「そうですねぇ。正確な予算と手順を調べてから取り掛かったほうが良いと思うので・・・」
「ああ。それなら、この事務所で調べてくれればいいから、明日から来る?」
「わかりました。それでは明日からよろしくお願いします」
「OK。実は今日はお店。全店定休日なのよねぇ~。そして、今は1時。詳しい話もしつつご飯食べに行こうか!もちろん私のおごりです!経費で落とします!キリッ!」
最後のほうは言わなくても良い気がするけど、まあ。この社長さんの人柄なのだろう。かわいい人だな。同い年のはずなのになんか年下に感じるほど明るい人だ。
何気にモテている主人公。くっ!リア充にさせてたまるか!←オイ
まあ、タイトル詐欺になるので、リア充になるのは確定してるんですけどね・・・