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まだユキオは生きています。




 翌朝。思いっきり後悔していた。リコちゃんは論外としても、メグリちゃんの告白は受けても良かったんじゃないのか?え?リンコさん。まあ、なんだ。もっと早く告白してくれていたらね。


 もう二度とメグリちゃんから告白されるということは無いかも知れない。リンコさんはなんか、あきらめが悪そうだよな・・・。油断するとガブリと行かれそうなので気を付けないと・・・


 そして、その日の夜から、キャバクラ・マーメイドでは待合室生放送を開始していた。


 前日のテスト放送の時に来てくれていた人たちの中で、宣伝をしてくれた人が居たようで、その人にはぜひ来店して欲しいとお願いした。特別出演という形とお店でのサービスをするという話もしたら、俺も俺もと宣伝してくれる人が増えた。そして、放送から一週間ほどすると、リスナーの中から本当にお店に来てくれた人が出てきたりして、放送が盛り上がって行った。


 顔出しNGの女の子は結構いたけれど、お店のサイトを見れば確認することはできる。まあ、身内の人間にばれないくらいのメイクが施されているのだが。あと、特徴的な黒子を画像修正で消していたりもする。


 とにかく、出演者にかわいい女の子が出ているという評判で放送に来るリスナーの数は増えていき。放送に慣れてきた女の子たちも自分たちから企画を出して盛り上がってくれている。


 サイトのほうもだいぶ順調に作成が進み。キャバクラ・マーメイドのサイトは生放送に合わせて準備していたので、訪問者数もかなり順調だ。サイトには画像保存するか、プリントして持って来れば使えるサービス券や女の子たちのブログなどもあるので、効果は抜群だ。


 正社員として、役に立てているようで良かった。ただ、リンコさんと二人きりになると危険なことは相変らずで、リコちゃんが休みの時はなるべく別の店を回って、サイトの素材集めをしている。そしたら、メールでリンコさんから【避けられると燃えます。】と来た時はちょっと怖かった。しょうがないので、避けずに襲って来たら撃退するようにした。決め台詞は「リコちゃんに報告しますよ?」だ。効果は抜群だ。ただ、時々抑えきれないようで、にじり寄ってくるときがある。


「ユキオさん。マジで一回だけで良いんです。一回で決めますから!」


「いや。一回だけとか、決めるとか。訳分からないけど、怖いんですけど・・・」


「迷惑をかけないようにしますから・・・」


「すでに迷惑です・・・」


「ヒカルコがいるからですか?」


「それもあるけど・・・。わかった!正直に言おう!私には好きな人が居ます!」


「・・・私じゃないよねぇ~。で、どこの誰?って、聞いてもしょうがないか・・・」


「メグリさんです」


「言っちゃうんだ~」


「ええ。ただ。本人にはまだ内緒でお願いします」


「ええ!?なんで!?だって、前にメグリちゃんのほうから告白していたじゃん!今なら相思相愛じゃん!」


「そりゃあ。まだ、好きってだけで、付き合うまでには行ってないかなぁって」


「何、奥手になってるのよー!ああっ!応援しちゃダメだ!応援して付き合い始めたら、私の可能性がゼロに!」


「今も限りなくゼロに近いですけどねー」


「くそう!ヒカルコを産む前に告白できていれば!」


「あー。その時なら、速攻でOK出たでしょうね」


「くそう!なんで、何で私は中学の時にガッとしてバッとしてズンしとかなかったんだ!?」


 何やら不可解な擬音を使用して悩んでいるが、具体的に聞くのは怖いなぁ・・・


 まあ、とりあえず。お友達関係を保って行きましょうと言ったら、セフレ!?ガタッ!としたので、全力で否定した。もちろん健全な友達関係である。まあ、ぶっちゃけ。まだ女性と付き合う勇気が持てないだけなのだが。いきなり来たモテ期で対応できていない。というか、全部保留にしている。それでも、青春をしていると感じていて、毎日が楽しいのでそれでいいかなと思っていた。


「ねえ。ユキオさん」


 ある日の帰り道。急に真剣な顔でメグリちゃんが聞いて来た。


「何?そんな真剣な顔をして」


「うん。真剣なんだ。私。実は・・・」


 ちなみに彼女のマンションの前である。そこになぜか思わぬ人物が通りかかった。


「あれ?ユキオさんにメグリちゃんじゃん。偶然だなー!」


 なんか思いっきり棒読みで現れたのは、リンコさんだった。


「・・・リンコ社長。なんで、私のマンションの前に?偶然って、完全に狙ってここに来ていますよね?」


「うん。私の第六感が、ユキオさんの貞操の危機を察知したのだよ!」


「はいっ!?ててて、貞操の危機って!?わ、わ、私は、べ、別に今日どうこうしようと思ってないです!」


「まあ、第六感は嘘だけど。なんか、最近。メグリちゃんが思いつめているようだったからね。これはユキオさんに告る気だと思ってつけていたのさ!」


「告る?何を?」


「え?いや・・・。あの・・・」


 なんか、メグリちゃんの顔が真っ赤になる。本当に何を告白する気だったんだ?


「というわけで、この場で解散宣言致します。解散!」


 そう言って、リンコさんは私の手を取り、マンション前から無理やり移動しようとした。


「ちょっと待って!」


「ぐぅぅぅぅ。ユキオさん!お願いだから動いてぇぇぇぇぇ。私の感が告げているの!いまメグリちゃんと二人きりにしたらあかんって!」


「とりあえず。部屋で話す?」


 マンション前で騒ぐのもアレかな。と思って、メグリちゃんの部屋で話しあうことを提案してみた。


「そこに私は居ますか!?」


 ビシッと手を上げて主張するリンコさん。


「それは、メグリちゃん次第で。」


「で、できれば。二人きりで話がしたいです」


「ぐぬぬぬぬ。じゃ、じゃあ!抜け駆け禁止で!」


「抜け駆けって。別に付き合ってくださいとまた言うわけじゃないんでしょ?」


「は、はい。そういうのじゃないです」


「な、なら、私も一緒に!」


「ううう・・・。わかりました・・・」


 いったい何の話をするのかはわからないが、リンコさんには居て欲しくないようだが、ここで帰すと後でうるさいのは確実なので、メグリちゃんは折れたようだ。


 メグリちゃんの部屋に着くと、三人でソファーに座る。なぜか、メグリちゃんは3人分のビールを出してきた。飲まないと話せないような事なのだろうか?


「そ、それじゃあ。乾杯!」


「「乾杯!」」


 良くわからないが、メグリちゃんが音頭を取って乾杯した。


「そ、それで。メグリちゃんはいったい全体。ユキオさんに何を言おうとしていたのかね?」


「そ、その。実は・・・」


「実は?」


「わ、私!じ、じ、じ、実は男性とお付き合いしたことが無くて!これからどうやって行けば、交際に持って行けるのかなっ!?」


「はい?」


 思っていたのと全然違う話だったようで、リンコさんは固まっている。


「あ~。そういうことね。それ、私に聞いてもダメですよ?私も付き合ったことどころか、恋愛経験もないですので」


「な、なんですと!?つまり、ユキオさんはどどどどど・・・」


「童貞ではないですね。18歳の時にそういう店に行って、済ませてはいます。そういう店で済ませておかないと、一生童貞な気がしたのと、単純に興味があったので」


「「み、店に!?」」


 なんか、リンコさんはわかるのだが、メグリちゃんまで食いついて来たのにはびっくりした。それから?って、感じの顔で見られている。


「1回目は好奇心。2回目は確認で行って、2回目が終わった帰りに吐きそうになりました」


「「吐いたの!?」」


 よくハモるね。なんか、急に息があっている。


「なんだろう。たぶん虚しさからかなぁ。愛の無い行為をしたことによる自己嫌悪なのかな?良くわからないですけどね。それから2度とそういう店には行こうとは思わないですねぇ」


「「もう行ってないんだ・・・」」


 なんか、2人してほっとしている。今でも私がそういう店に通っているのか気になったのかね?


「じゃあ。次したくなった時はご連絡ください!」


 なんか、リンコさんがアホなアピールをしてきた。今の話を聞いていなかったのだろうか?


「だ、ダメですよ!ユキオさんは愛が無いとダメって、今言っていたじゃないですか!」


「私には愛がある!」


「私にはまだないですね」


「がーん!」


 口に出して落ち込む人を初めて見た。なんか、ソファーから崩れ落ちている。


「えっと。つまり、あれですよね。ユキオさんも恋愛初心者で、私も恋愛初心者で、ここから先の進め方は知らないと・・・」


「そういうことですね」


「わ、私の時は、好きという勢いだけで相手にぶつかったら、とりあえずベッドに連れ込まれました」


「「それは参考にならなさそうですね」」


 なんか、メグリちゃんとハモってしまった。そして、3人はしばらく黙り込む。


 その沈黙に耐えきれなくなった私は思い切って、自分の思いを話してみた。


「私は3人に告白された時、正直迷いました。ここで、誰でも良いから受けておけば次に進めるんじゃないかと」


「「・・・」」


 2人は黙って話を聞いてくれている。


「でも、誰でも良いって、すごく失礼な気がしたんですよね。まあ、勢いで告白したんでしょうけど、それでも3人とも本気だったでしょうし」


「私は本気です」


「私も本気です」


「だから、私も本気で悩むことにしたんです。そして、悩むには相手を知る時間が必要だと思って、3人ともお断りしました。まあ、翌朝に思いっきり後悔したんですけどねぇ。2度と無さそうなチャンスでしたし」


「そ、そんなことないよ!」


「私は毎日のように告白してます!」


「リンコさんはもうお腹いっぱいなので、しばらく告白はNGで」


「がーん!」


 また崩れ落ちたし。う~ん。こういうところがリンコさんのわからない部分なんだよなぁ。冗談なのか、本気なのか。


「リンコさん。数撃てば当たるもんじゃないんですよ!・・・きっと!」


「まあ、少なくとも、私には効果ないですね。むしろ、避けてたじゃないですか」


「うん。2人きりになるのを避けられまくっていました・・・」


「ここぞというタイミングに告白しないと!・・・映画やドラマの知識ですけど!」


「押し倒したもん勝ちという考え方は・・・」


「あー。それされたら、一生愛せなくなると思いますね」


「そうですよ!その辺は男も女も同じで傷つくんですよ!・・・たぶん」


「お、おかしいな・・・。私の人生。ほとんどそれで何とかなって来たんだけどな・・・」


「その結果が、今のバツイチという考えには至りませんか?」


「はっ!?」


「至ってなかったんですね・・・」


「ね・・・」


「あ、あの!じゃ、じゃあ!私はどのようにすれば。ユキオさんに好きになって頂けるのでしょうか!?」


「好きですよ?」


「「えっ!?」」


「ただ、異性としてはまだ見れないだけで」


「異性としてみられていない・・・」


「良しっ!」


 リンコさんはがっくりと肩を落とし、メグリちゃんはガッツポーズをしている。う~ん。本当に選ばないといけない状況なのが悔やまれる。できれば、ずれて告白されたかったなぁ・・・


「ふぁっ!?」


 突然、リンコさんがお尻を支えて飛び上がる。どうやら、スマホに着信があったようだ。


「あ・・・。ヒカルコさんがおこです・・・」


 どうやら、帰りが遅いとリコちゃんが怒ってメールをしてきたようだ。


「あ、あの・・・。私と会っていたというのはご内密に・・・」


「ああ。リコちゃんに知られたら、ぶっ飛ばされそうですよねぇ・・・」


「次は骨盤砕かれます・・・」


「「え?」」


 リンコさんの尋常じゃない震え方からすると、冗談じゃないらしい。


「えーっと。じゃ、じゃあ。こうしましょう!」


「それ採用!」


「いや。まだ何も言っていませんけど?」


「ユキオさんのアイデアで私の骨盤は守られます!」


「あ、はい。骨盤に関しては砕かれても困りますので、話を進めますが。メグリさんに相談されていたということにしましょう」


「相談?」


「はい。恋愛相談をされていたことにしたら、嘘はついていないことになるんじゃないかと」


「それ採用!メグリちゃん!それでお願い!」


「えっと・・・。まだ解決していない気もしますが、じゃあそれで!」


「とりあえず。リンコさんは早く帰ったほうが良いですよ」


「うん。それじゃあ、お疲れ様!メグリちゃん。あとでフォローメールお願い!」


「わかりました」


 そういって、慌ててリンコさんは帰って行った。そして、残された2人。


「恋愛相談の結果なんですけど」


「え?は、はい!」


「焦らずに今の状況をしばらく楽しむということで」


「え?」


「私は少なくとも、今が人生の中で一番楽しい時間になっています」


「わ、私もです!」


「だったら、もう少し青春をしちゃいましょう」


「で、ですね!」


「本当は今すぐにでもメグリちゃんと付き合いたいですけど」


「へ?」


 思わず私は本音を言ってしまった。メグリちゃんのことが好きだという気持ちを心に中にしまっておくことが出来なくなっていたようだ。言ってから、自分でもびっくりした。


「でも、そうすると。ただの勢いで選んだことになりそうで。ちゃんと、お互いを知ってから答えを出したほうが良いんじゃないかと。今は思っています」


「私と付き合いたい・・・」


「あれ?メグリちゃん?」


「よっしゃー!一歩リィィィィィィドォォォォォ!!!」


 おや?何かメグリちゃんのキャラがおかしいぞ?


「あ、ごめん。ちょっと興奮しちゃった」


「う、うん」


「だ、だってね?リンコさんほどの経験はまったくないし。リコちゃんの溢れんばかりの若さには私でもこう。ぐらっと行きそうだし?正直、恋愛経験のない私が太刀打ちできないんじゃないかと思っていました」


「そ、そうだったんだ」


「でも、実は私にぐらついていたんですよね!」


「う、うん」


「じゃあ。このまま独走していく覚悟で挑みます!」


「お、おう」


 もしかして、地が出たのかな?今までのおしとやかなメグリちゃんのイメージが崩壊している。


「そ、それじゃあ。今日は帰るね。リンコさんにメールしてあげて」


「はい!ついでにリード宣言もしておきます。くくく。テクニックや若さだけではないのだということを思い知れ!」


 うーん。なんだろうな。とりあえず。メグリちゃんを選んでいたら、ギャップでドン引きしていた可能性があるな。ちゃんと知るって大事だなぁ。そう思いながら、自分のアパートに戻った。




基本的に人は本音と建前を持っていると思います。そのどちらも含めて、その人なのかも知れないけれど、建前だけ知ってその人のすべてを知ったつもりになって、失敗する人が多いんじゃないかなぁ~と、恋愛未経験者は考察します。

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