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R15要素があるかはわかりませんが、一応タグ付けときます。ユキオを生暖かい目で見守ってください。
その日はいつものようにみどり公園を通り抜けて帰るところだった。
みどり公園はバイト先からアパートまでの近道で夜になるとかなり真っ暗になるので、女性はまず避けるような広い公園だ。
今日も疲れたなぁ。バイトなのに正社員並みに働かされて、給料が段違いって無いよなぁ・・・
「転職するべきかな・・・」
そうつぶやいて歩いていると、公園の真ん中あたりにあるベンチの上に誰かが寝ているのを見つけた。暗くて何かが寝ているとしかわからない。下手したら、人じゃなくて何か物が置かれているのかも知れないが。鳥目なので夜はほとんど見えないのだ。それなのに何かあると見つけられたのは、その何かから漏れる小さな灯りを見つけたからだ。
別に近づきたいわけではないが、通り道なので次第に近づいて行く。特に興味は無いのでそのまま通り過ぎようかなと思ったら、小さな灯りがベンチから転がり落ちてきた。
小さな灯りの正体は、スマホだった。どうやら、動画を見ていたようでまだ動画が流れている。
目の前に転がってきてしまったので、拾って返してあげようとベンチに近づく。すると、月が出て来たのか、周りが少し明るくなった。
ベンチに寝ていたのは、美女だった。髪が長く、瞼を閉じていても大きいとわかる目、長いまつ毛、すらっと高い鼻、柔らかそうな唇と誰がどう見ても美女だ。しかも、白いワンピースを着ている。映画やドラマから抜け出してきたかのようだ。思わず周りを見渡すも、もちろん撮影中なわけがない。
そんな美女がベンチで寝ていることに疑問を思いながらも、スマホを返そうと近づくと酒臭かった。どうやら、酔って寝ているようだ。こんな美女が酔ってベンチで寝ているって・・・まな板の鯉ってやつかな?他の男が通ったら、お持ち帰りされるんじゃね?
小心者な私には絶対できないので、そっとスマホを返してから離れようとすると、美女は苦しそうな声を出しながら寝返りをうった。
このまま放置して帰って何かあったら、罪悪感に襲われそうだなぁ・・・
しかたない。公園のトイレ近くにある自動販売機で水でも買って、家に送ってやるか・・・
夜中に公園で酔って寝ている美女と遭遇って、人生初だなぁ。こんな、ドラマみたいなことが現実にあるんだねぇ。なんて思いながら自動販売機でミネラルウォーターとコーラを買ってベンチに戻る。
短い時間なので、特に変化もなく。ベンチで寝ている美女。月明りでその白い肌と白いワンピースが光って見えて幻想的だ。さて、水を買って来たのはいいが、これからどうするべきか・・・
ベンチの前でウロウロする。
立ち尽くす。
ウロウロ再開。
立ち止まって、思い切って声をかける。
「あの・・・そんなところで寝ていたら危ないですよ」
美女は無反応。そりゃそうだ。寝ているんだもんね・・・
しばし悩んだ後。思い切って、冷たいペットボトルを美女の頬に当てる。
「きゃっ!」
美女は多少間を置いたが、冷たさに驚いて起き上がる。そして、ここがどこかわからないのか、しきりにきょろきょろと周りを見渡して、私と目が合う。やっぱり目が大きい。
「誰?」
「さあ?ここで寝ると危ないから起こしてあげた人?」
「ん?ここどこ?」
「みどり公園だけど。これ、とりあえず飲むと良いよ」
そう言って、ミネラルウォーターを渡す。
「ありがと」
良く分からないが、手渡されたものを飲みだす美女。本当に無防備だな。最初に見つけたのが私で良かったかも。なにせ、小心者なので女性を襲おうという気持ちは一ミリもない。いわゆる草食系男子だ。肉は好きだけどね。
「うちに送ろうか?」
「ん。おねがい」
水を飲んで落ち着いたようなので、思い切って声をかけたら即答された。
「ん」
そう言って、手を伸ばしてくる美女。どうやら、手を取って立たせてほしいようだ。手を握るとめちゃめちゃ柔らかい。細い。そして、体重も軽そうだ。そんなに重みも感じないうちに立ち上がった。あ、スマホをベンチに置きっぱなしだ。というか、バッグはないのかな?
「これ、スマホ。無くすよ。あと、バッグ持っていた?」
「バッグ?ん~」
持っていたのかな?ベンチの周りを探してみると、ベンチの下に白いハンドバッグが落ちていた。
「これ?」
拾って見せると、あっていたようだ。
「ん。それ。ありがと」
そう言って、スマホとハンドバッグを受け取る。
「それじゃあ。行きますか。家どっち?」
「あっち」
指をさす方向は私のアパートのほうだった。うちの近くに住んでいるとかいう展開かな?とドラマ的思考をしつつも、そっちに向かって歩こうとすると、何かに服を引っ張られた。立ち止まって、後ろを見ると美女が私の服の裾を掴んでいる。何をしているんだ?
「おんぶ」
「はい?」
「おーんーぶ!」
なんか、子供みたいに駄々をこねはじめた。酔うと幼児化するタイプなのかな?仕方がないのでおんぶをしてあげた。なんか、背中が柔らかい。太もも柔らかい。これはラッキーなのかな?
「こっちで合っている?」
「ん」
確実に私の住むアパートに近づきながらも、時々確認をしながら歩く。公園から私のアパートまでは10分くらいなのだが、美女をおんぶしているので、少しゆっくり目に歩いている。別に背中と手の幸せを長く感じたいわけではなく。あんまり早く歩くと、背中に吐かれそうな気がしたからだ。揺らさないようにしないとね・・・
私の住むアパートを過ぎて5分ほどいった高級マンションの前に来た時に背中から声がした。
「ここ」
マジかー。ここってめちゃめちゃ高そうじゃないか。オートロックはもちろん、一階にロビーがあって、コンセルジュみたいな人がいるようなマンションだよ。美女は美女だけじゃなくてお金持ちの美女だったのか・・・
さすがに中まで入っていくわけにはいかないだろうと思い。美女を背中からおろそうとするが、おりる気配がない。
「あの・・・」
「部屋まで送って」
そう言って、ギュッとしがみ付いてくる。背中が幸せになり過ぎて死にそうです・・・
「わ、わかったから、そんなにしがみつかないで!色々危ないから!」
「ん」
このままだと下半身が反応して歩けなくなりそうだったので、注意したら緩めてくれた。危なかった・・・
大丈夫なのかな?と思いながら恐る恐るマンションに入るが、さすがにロビーに人はいない。どうやって、部屋に向かえばいいのだろう?
「そこの右手に鍵を挿し込むところあるから、鍵はバッグね」
そういうと、白いハンドバッグを私の前に差し出してきた。おんぶしたままさせるんだ・・・
何とか鍵を取り出して、刺し込んで矢印通りに右に回す。すると、ガラスドアが開いたので、閉まらないうちに通り抜ける。たぶん、閉まらないんだろうけどなんだか焦る。
中に入ると、エレベーターが四基も並んでいた。二基ずつ向い合せって、オフィスビルみたいだな。さすが高級マンション。そんな風に思いながら、エレベーターの呼び出しボタンを押す。下は駐車場なのかな?
そんなに待たずにエレベーターが来る。
「何階?」
「15階」
最上階の一階下か。最上階は共有の展望スペースのようだ。ということは、実質最上階に住んでいるのか。この美女は何者だろう?あれ?ボタンが光らないな。これ押したら光るんだよね?
「鍵。そこに挿して」
美女が指した先には鍵穴がある。回す必要はないようだ。よく仕組みはわからないが、鍵を挿しておけばエレベーターを動かせるようだ。セキュリティーが高いって事なのかなぁ。
鍵を挿して、ボタンを押すと今度はちゃんと光った。
エレベーターが動いている間も無言だが、ここに来るまでも特に会話は無い。何を話せばいいのかわからないからだが、そもそも女性と何を話せばいいのか、なんてわからない。
生まれてこのかた女性と付き合うどころか、女友達もいたことがない。別にホモと言うわけではない。単純に女性と関わりあう機会が全くなかった。というか、モテない男のグループに常にいた。いや、そのグループにすら入っていないような一人者だ。休み時間は寝るか、本を読むかの二択だ。本当はラノベが読みたかったが、図書館で借りた文庫本で我慢していた。
学生時代はどうでもいいな。正直そんなに記憶にないし。そんなに時間は経っていないのだろうが、ようやくエレベーターが目的の階に着いたようだ。ドアが開くとそこは玄関だった。
・・・。
これは全フロアが部屋と言うやつか?だから、エレベーターなのに鍵を挿すところがあったのか。って、鍵を取るのを忘れるところだった。危ない危ない。そのまま玄関を上がる。美女はおんぶのまま靴を器用に脱いでいる。おりる気ないんだ・・・
「ベッドまで連れてって、部屋はリビングに入って右の部屋」
軽く言ったが、リビングまでそこそこ長い廊下を通り、めちゃくちゃ広いリビングを右に向かい、部屋のドアを開けたら、キングサイズのベッドがそこそこ距離のあるところに鎮座していた。広いなおい!
まあ、そんなツッコミは口に出さず。美女をベッドにおろしてあげた。
「ん。ありがと。おやすみ」
「え?ああ、うん。おやすみ」
特にこれからの展開を期待していたわけではないが・・・。まあ、寝るよね。さて、帰るか。ハンドバッグを部屋の机の上に置いて、自分のアパートに帰る事にした。
普通の男性なら、何をするのかね?と思いながら書いてます。ちなみにプロットは書いてありません・・・