外伝1
少し長くなりました
初めての外伝です
5話ずつに一回くらいのペースで出していく予定です
内容は食われた魂の話
今回は例の料理人の話です
また、感想も募集中なのでどんどんとお願いします
面倒でなければ評価とかも欲しいところですw
〜ある世界の料理人 ボブ〜
武尊薫は夢を見ていた
それは前世の怪物に魂を食われた人の話
ある世界、ある時間軸、ある場所にいたある「料理人」の話
ボブは元々冒険者だった
自分の拳を信じ振り続けるしがない冒険者
そんな、そこまで有名出ない冒険者に転機が訪れた
その日ボブは稼ぎが悪かった
そのため、もう少し、もう少しと時間を長引かせ基準値まで達しようとしていた
結果的に基準値は越えることが出来た
だが、終わったと思った瞬間にきたのは今まで基準値を越えるという目標があったがために限界以上に動かしていたがための体の異常な疲労だった
一度力の抜けた体にはもう力は入らず
だんだんと外も冷えてきた
それに加えて今までの過酷な状況での暮らしで溜まっていた疲労、ボロボロになりところどころ穴が開き必要以上に通気性が良い防具、夜になると気温が一気に下がるこの地域特有の環境
いろんな小さな不運からつもりに積もっていつの間にか死という大きな不運となっていた
街に戻らなければとは思うものの体はピクリとも動かない
だんだんと体温が奪われ下がっていくのがわかる
数分後、ボブは意識を手放した
ボブは体がポカポカする感じがした
ぼやける視線を必死に合わせる
体も幾分か動かせそうにはなってきたので一先ず街に戻らなければ
そうしなければ死
死という恐怖に突き動かされ慌てて飛び起きる
しかし目に飛び込んで来たのはたまにパチパチと薪から音が鳴り、火花が散る暖炉。
そして、壁一面に広がる赤い煉瓦
「おや、起きたのかい?」
声が聞こえたのは後ろからだ
ボブは慌てて振り返る
そこには腰が曲がり、腕などは細く、骨の上から人の皮をかぶせたような老女だった
「フォッフォッフォッ。元気なようじゃな。」
「あ、はい。あなたが俺を?」
「まあ、そうじゃのう。ここまで運んだのはそこのほれあいつじゃ。」
そう言って、指差す方を見ると居たのはホワイトウルフという魔物だ
「な、なんで魔物がこんなとこに!?」
「大丈夫じゃよ。わしとはそやつが子供の頃からの付き合いじゃ。外にいる魔物とは違う。」
老女の言う通りホワイトウルフは襲ってくる感じは感じず、ただ座っている感じだ
「あ、その、ありがとうございます。助けていただけなかったら死んでいました。」
「そうじゃろうな。まあ、これでも飲んで体を温めておけ。」
そう言って老女がこちらに差し出してきたのはカップに入ったスープだった
ボブはそれを一口飲む
「なっ!」
一口飲んで驚いた
こんなに美味いスープは飲んだことがなかった
冷ましながら一口一口飲んでいく
飲み終わる頃には心も満たされ
心身ともに暖かくなっていた
「本当に重ね重ねありがとうございます。」
「何も、それよりもうあまり無理をするでないぞ。」
「はい!さすがに今回の事があってそれは痛いほどよくわかりました。」
「そうかそうか。出て真っ直ぐ行けば街に出る。迷うことはないと思うが気をつけるのじゃぞ。」
ボブは礼をしてそこを去る
言われた通り真っ直ぐ歩くと街につくことができた
(今度お礼しに行かなきゃな。)
それにしてもあの時のスープの味が忘れられない
心身ともに暖められたあの温かさが
口に広がるあの味が
次の日ボブは導かれるようにまた老女の家に行った
今度はお礼を持って
そんなことが何回もあり、いつしかボブもそれが普通となっていた
そんなある日のことだ
いつも通り老女の家に向かっている途中何か焦げ臭い匂いがした
山火事だと思い老女に知らせねばと走る
老女の家に近づけは近づくほど匂いは鮮明にまた刺激的なものとなっていった
(お婆さんの家の近くかもしれない!早く伝えなければ。)
とうとうたどり着いたそこで見たものは悲惨なものだった
老女の家は燃え、最近よく遊んでいたホワイトウルフは何本もの槍に突き刺され死んでいた
まさに悲劇だ
「嘘だろ…。いや、その前にまだお婆さんが!」
ボブは燃えているドアを蹴破り火傷するのをいとわずに炎が燃え盛る建物の中に飛び込む
燃える建物の真ん中あたりで倒れこんでいる老女を見つけた
幸いまだ息はしていた
老女を抱え込んで外に出るために蹴破ったドアの方へ走る
しかし、運が悪いことに入り口近くに燃える何かが落ち出れなくなってしまった
「クソ!」
ボブは焦ってあたりを見回し、出れる場所がないか探す
しかし、周りが煉瓦出てきてるため無理
一つだけある窓もまず窓枠自体がそれほど大きくない
(どうすれば!!)
そんな焦るボブを落ち着けたのは瀕死の老女の手だった
骨と皮だけかと思うほどのガリガリとも言えるその手がボブを落ち着かせた
「………………。」
「え!?お婆さん何だって?」
ボブは何か喋っている老女の口元に耳を寄せる
「いつも来てくれてありがとう。」
「そんなの当然だよ!俺の命の恩人なんだから!」
「フォッフォッフォッ、嬉しいねー。」
老女の笑いはいつものように大きくなく弱々しいものだった
「お婆さんには感謝してるんだ。だから、こんなとこで───」
「いいかい、よく聞くんだ。この世の中は辛いし逃げたくもなるだろうが、逃げちゃだめじゃ。強く生きるのじゃ。そして、わしの果たせなかった世界の人々が笑顔になる。そんな老人の大それた目標を叶えてくれたら嬉しいのう。それがわしの、お主を助けた命の恩人の最後の頼みじゃ。そして何よりお主自身が生きてくれ。強く、強かに、それでいて周りを笑顔にするような男になってくれ。この力は最後の置き土産じゃ、そろそろかの。それじゃあのう。……最近はとても有意義な時を過ごせたわい。最後は笑顔で送り出してくれぬか?」
「わかったよ、お婆さん。」
ボブは涙を流しながらもしっかりと笑顔を老女に向ける
「本当にありがと、のぅ………。」
それっきり老女はしゃべることはなかった
老女はボブの腕の中で笑顔で息を引き取った
老女から力が流れ込んでくる
最後にくれたお婆さんの置き土産だ
「ありがとう、お婆さん。俺まだ生きてみるよ。そしてみんなを笑顔にさせるから!」
ボブの腕が振るわれ、煉瓦の壁が吹き飛ぶ
ボブは老女を抱え込んでで外に出る
「そこで見ててよ。俺が最後の頼み叶えて見せるから。」
「俺の心の氷結も溶かしてくれたあのスープのように」
「この世界のみんなを俺が温めてみせるよ!」
「だから………安心してみててよ。」
20年後
ボブが開いた「スマイルマジック」という店には連日人が絶えず、また笑顔も絶えなかった
ボブは世界を旅して料理の修行をする傍ら、世界の闇を取り払い人の心に光を届けた
そして、スープを人々に配った
ボブがお婆さんからもらったスープではないが、ボブが練りに練って作った一品
今では店の目玉ともなっているものだ
「なあ、お婆さん。俺はお婆さんの頼みを叶えることが出来たかな?」
「足りないよね…。世界にはまだ行っていないところもあるし、他にもひっそりと住んでる人たちがいたかもしれない。」
「でも、ごめん。もう、体動かないみたいだ。本当、ほんとうにごめん。たのみ、おばあさんのさいごのたのみだったのに……、ごめんね。
「おれじゃ、力が足りなかったみたい。でも、あきらめきれないんだ。ひとを、えがおに、…するの、を。」
「くやしいよ、まだたりないよ、まだしにたくないよ、まだおわってないんだ。おわれないんだ。」
全身を動かせなくなったボブはなみだを流す
しかしそんな時声が聞こえてきた
「はあ、情けないね。お主が笑顔にならんでどうするのじゃ。」
「え、おばあさん?」
「そら、そんなしけた顔してないで笑うのじゃ。」
「でも、おれ…。」
「後悔しておるのか?」
「うん…。」
「そうかえ。でものう、最後くらい笑った方がよい。わしの望みを叶えない気なのかのう?」
「そんなこと…。」
「わしの望みはみんなが笑顔になること。そこにはお主も含まれておるのじゃぞ。」
「そう、だね…。ありがとう、お婆さん。すぐにそっちに行くから、もう少し待っててよ。」
ボブは体に力を込める
もう、何があっても動けないと言われた体が動き出し、なんとか起き上がる
「なあ、誰でもいい。俺の夢を受け継いでくれ。俺が果たせなかった夢を、お婆さんから受け継いだこの夢を。」
『いいだろう』
その声はどこからともなく聞こえた
「そっか、それじゃ頼むわ。」
ボブは笑顔でそう言った
そのままピクリとも動かなくなる
「お爺ちゃん、晩御飯だよー。え…、お、お爺ちゃん!?お爺ちゃん!!」
ボブ143歳
100歳過ぎても料理をし続け、人々を笑顔にしてきた料理人
最後も笑顔でその生涯を閉じた
その後、死んで体から出た魂は怪物の元へと向かっていった
「ふわぁー…。もしかして、あの異形の怪物いいものだったの?」
今回の夢は薫の中に疑問とそして希望を産んだ