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習作

【習作】変化したもの

作者: さとう

 部屋でくつろいでいると、世界が一瞬だけ斜めになった。見えてるものが私を通して斜めになっているのか、世界が斜めになって私がそれに合わせているのか分からない。しかし、どちらかなのか結論を出す前に、世界は元に戻った。

 その一瞬の時の中で、世界が壊れそうな揺らぎを感じた。遠く彼方でなにかが瓦解する音とともに、世界を構成するものたちが不穏な気配を感じて微かにざわつき、なにもかもが崩れてゆく景色が想起される、そんな揺れだった。その瞬間の中では恐怖を感じたが、世界が戻ったときには、ほんの数秒前の出来事だったにも関わらず、遠い過去にあったことを思い出すような感覚だけがあった。


 またある日のこと、憂鬱と希望について考えながら散歩をしていると突然、世界が平面になった。どの方向を向いても壁に映る立体映像のようだった。流れる車や歩く人、空を漂う雲、すべてが平面となっていた。実時間からすれば一瞬の出来事だったように思うが、私の主観時間からすると、十分ほどの時間に感ぜられた。

 そして、濃密に凝縮された時間の澱みの中で私は未来を見た。希望は朽ち果て、残酷な狂騒と悔恨に呑まれた憂鬱な世界を。考えていた希望と憂鬱は儚さと美しさを持って描いていたが、垣間見たそれは酷薄で暗澹としていた。

 同時に平面に映る現実と私の内側から湧き上がる未来の映像に挟まれた『私』は、奇異なる感覚に囚われた。すべてが意味をなさなくなったのだ。見える世界も、未来の景色も、私自身でさえも、そこに意味を持たない物質――いや、物ですらない何かに変わった。そこにあるのは統一された意識の塊から見える形という存在だけ。流動する微かな意識を残して、あらゆるものを奪われてしまったようだった。

 しかし、これもまた刹那の時の中でのみ感じたことで、元に戻れば以前と同じく、ほんのすこし前に起こった事のはずなのに、古い記憶を辿るように思い起こすのだった。


 その後で気が付いたのは、私の変化だ。崩壊する世界、何もかもが失われる未来。必ずしもそうなるはずはないのに、私の内側に希望無き未来世界が克明に焼き付き、そこから導かれる諦念が深く根を張り、離れない。諦念は私に負の影響の及ぼした。なにもかも諦めてしまった。生きること、死ぬこと、喜び、悲しみ、幸福も絶望も、なにもかもを諦めた。

 そうなってしまった私は進むことをやめて立ち止まり、流れるままに身を任せ、ただひたすら暗い時間の果てを傍観し滅んでゆくだけの存在に変わってしまった。

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