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09/30 本文改変

2018 01/16 本文改変

 閉じていた目を開け、仰向けになる。

家の枕よりも柔らかいからだろうか、少し違和感があった。

旅行に行った時みたいに数日しか過ごさないならいいけど、ずっと使うとなると寝れるか不安だ。

そういえば、放置されたままの死体、どうしたらいいのかな。

このまま床に転がしておくのはまずいよな、やっぱり。

ベッドの下に入れておくべきか、風呂場に隠すべきか。

でも、自分が使う場所に置いておくのは嫌だな。

使っている時に視界に入れば、げんなりする。

何より、あの鼻が曲がるような酷い臭いの中で過ごしたくはない。

絶対に嫌だ。

「やっぱり、ここには置いておきたくないな」

 でも、他に隠せそうな場所は思いつかなかった。

しずめが片してくれたらよかったのだが、今更それを言っても仕方がない。

「どうしようかな」

 寝返りを打って、胎児の様に体を丸める。

大きな欠伸がでた。

眠くないけど、こう何度も欠伸がでると眠いような気がしてくる。


 こつこつと足音を響かせて、誰かが廊下を歩いている。

足音が部屋の近くで止まった。

こん、こん、と一定のリズムで扉を叩く音が聞こえる。

また誰か訪ねてきたのか。

「はーい」

 返事をして、ベッドから降りる。

面倒だが出ないわけにはいかない。

本当に用事があった場合困るのはあっちではなく、俺だ。

「さっきから訪ねてくる人、多くないか」と呟きながら、扉の前に立った。

その間も叩く音はやまない。

返事をしたのだからノック止めればいいのに。

「今、行きます」と言ってドアノブに触れたが、扉を開けるのをためらう。

汚れた服も気になるが、死体を見て悲鳴を上げられても困る。

それに、助けてもらえると分かっていても気をつけるにこしたことはない。

殺されかけたわけだし。

ハサミやカッターみたいな刃物が手元にあったなら脅すこともできるのだろうけど、残念ながら筆記用具がはいっている鞄は近くにない。

きっと今頃、道端に置きっぱなしになっていることだろう。

「誰か家に届けてくれてたらいいんだけど」

 扉を叩く音は、いっこうに止まらず聞こえてくる。

「……うるさい」

 苛立ちながら呟く。

一定のリズムで叩かれていた音が少しだけ途切れた。

慌てて口を閉じたが、聞こえたのだろうか。

そんなに大きな声で言ってないから、タイミングが偶然あっただけだろう。

疲れと空腹のせいで、扉の向こうにいる誰かに配慮する余裕がない自分に呆れる。

相手を気遣える余裕がないのは駄目だ。

ちゃんとした会話ができなくなる。

 すうっと息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

死ぬ気で笑って、優しい言葉を心がける。

そう思いながら問いかけた。

「どちら様でしょうか?」

 少し間をおいてからはっきりとした声で「世話係を任されました。エルマです。エルマ・アルティといいます。衣服と食事を運んできました」と返ってくる。

名前を覚えるのは苦手ではないが、今の状態だと忘れてしまいそうだ。

声に出さず繰り返して覚える努力はしておく。

「今、開けますね」

 扉を開ければ、クラシックメイドと言うのだったか、ロングスカートのメイド服を着た少女がいた。

ふわふわした髪を肩までのばした小さな女の子。

俺の腰くらいの背丈しかないが、化粧をしているからか大人っぽく見える。

しかし、左頬から首にかけて焼けただれた痕があるせいで、顔をじっくりと見てはいけない気持ちになってしまう。

「初めまして、勇者様」

 彼女が笑った。

「刺客だと疑われているなら、それは杞憂ですよ。私はあなたを傷つけることは絶対にありません」

 姿勢を正し、

「私たちは嘘を言いません。神様とそう約束をしているので」

 手に持っていた黒い布で包まれた物を手渡される。

お偉いさんに会うのだから正装で来いって意味だろうけど、汚れていたから丁度よかった。

それを受け取って、お礼を言う。

「お風呂の使い方は分かりますか? お手伝いを呼んできましょうか?」

「あー……使い方、教えてもらえますか?」

「お任せください」


 お風呂の使い方を一から教えてもらってから、料理をのせたワゴンを部屋の中に運んでもらう。

「お食事を終えた後は、部屋の前に置いていてください」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 用事を終えた彼女は、一礼して退室していった。

本当に、服と食事を届けに来ただけらしい。

まだ、信頼できると決まったわけではないけど、仕事をしっかりする態度は好感を持てる。

その背を見送ってから、死体に関して何も言わなかったなと息を吐いた。

「気がついてなかったとか? ありえないか」

液体で汚れて酷い有り様になっている床も、頭と体が離れている死体も、入ってすぐに気がつくほど目立っている。

気がつかないわけがない。

「ここの人って皆、同じ神様を信仰しているのか? それとも、彼女は違う国の人だったりするのだろうか?」

 それに、あの傷も気になる。

変な儀式の結果、あの傷を負ったとかじゃないといいけど。

「化粧で隠せばいいのに」

顔を思い出さそうとしても焼けただれた傷痕しか思い出せない。

わざと見せていたのだろうか、悪趣味。

「……エルマ・アルティ」

 名前を声に出して呟いてみる。

しずめは日本的な名前だったが、彼女は外国で聞くような名前だ。

最初に会った女も名前は日本っぽかった。

生まれが違うのか、種族が違うのか。

今の段階では何も分からない。

神様のことだって、一つの神を崇めているのか、複数の神様を崇めているのかで話は違ってくる。

「……今は気にする必要ないか」

 これ以上、考えても堂々巡りになるだけだ。

「風呂入って、寝よう」

汚くなった体を洗うために風呂場に足を向けた。

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