兄妹コント
「おっぱい揉ませて」
いきなりわたしの部屋に入ってきて、アホなことを言ってきたのは実の兄だった。いや、血が繋がっているなんて認めたくないんだけれども。
「帰れ。勉強の邪魔」
「言い直す、おっぱい揉ませろや」
……ぼこぼこにしよう。殴って蹴って縛って庭に埋めよう。お母さんの育てている野菜もきっと喜ぶはずだ。そして、野菜の栄養分となれば共に生きていけるね。
「ちょ、話を聞いてくれ」
変態兄さんは六法全書を握るわたしを必死に止めてくる。
ええーい。そんな段ボールごと川に流された犬みたいな顔をするな!
「で、話って」
「話っていうか大発見だな。俺たちは兄妹だから遺伝子がほぼ同じ。つまり、お前のおっぱいを揉んでも自分のおっぱいを揉むことと変わらないんだ!」
「……わーすごいお兄ちゃん。ノーベル平和賞が取れるね(はーと)」
「ハッハッハッ、まさしく人類みな兄妹ということだな。ピースオブオパーイ」
そんなんで戦争が無くなっても性犯罪が増えるわ。
「じゃあ、わたしと平和条約結ぶ?」
「いただきマンボー!」
餌に釣られた哀れな犬が胸に飛び込んでくる。そっとわたしは右肘を添えた。
「えいっ」
「べぼぉ!」
クリーンヒット。見事に人中(鼻と口の間にある急所)をとらえた。兄さんはのたうちまわっている。
これも兄さんのためだ。心を鬼にしなければ。
「平和条約なんて所詮仮初め。この世は搾取するかされるかだよ兄さん」
「俺は搾乳したいなあ……痛い痛い! すいません、生きててすいません」
こいつは……。搾乳したければ牧場にでも就職すればいいのに。
「で、何でいきなり胸が揉みたくなったわけ?」
「お前のおっぱいレベルアップしたから」
「わたしの胸を経験値が貯まった冒険者みたいに言わないで。あと何で知ってるの。返答によっちゃ奴隷の焼き印つけるから」
確かに兄さんの言う通り、胸のサイズがワンカップ上がった。しかし、下着を変えたのは最近だ。下着を覗いたのだったら一生わたしに尽くしてもらおう。
「俺の眼をなめるなよ。服の上からでも女の子のスリーサイズなんて丸わかりじゃ」
「すごいね兄さん。その眼を調べればノーベル生理学賞が取れるよ」
「まてまてまて! 小指とかリアルすぎて怖いから。にゅるって入りそうだから」
まったく。一つだけ拝借しようと思ったのに。
「なんでそんなに頑ななんだ。揉まれても減るもんじゃない。むしろ増えるぞ」
「ちなみに何が増えるの」
「レベルと快感」
「えいっ」
「ぎゃあー!」
ピースって怖いよね。ちょうど目と指の間隔が同じくらいだから。
「兄さん、真面目に生きないと。社会は犯罪者にすごく冷たいんだよ」
「まだ何もしてねえ」
「まだって罪を犯す気満々なのね……」
昔はまだマシだったのに。どこで道を間違えたのか。
「というか俺は妹がいいんだ」
「えっ」
急に真面目な表情になる兄さん。その真剣さに思わず引き込まれてしまう。
「他の人に興味はない。お前がいいんだ。ダメか?」
「えっと、その」
恥ずかしい台詞をさらりと言われたおかげで、心拍数がすごい上昇している。顔もすごい熱い。やばい、余裕ない。
兄さんの眼はじっとこっちに向いてる。
たまに格好良くなるからずるい。
「……ぅん」
甘い雰囲気に毒されて頷いた。
兄さんの顔が見れない。
「……ぃ」
兄さん?
「どうしたの――」
「ヒャッホーイ! おっぱいただきマックス!」
よし埋めよう。
こいつはあれだ。一度叩き潰さねばならない。躾が足りなかった自分の責任だ。
「せい!」
兄さんの首に腰の入った重い手刀を叩きこむ。我ながらいい角度だ。
「ぶべらっ……い、妹さん。もしかして怒っていますか」
「はいもちろんです。飼い主である自分の不甲斐なさに」
「わ、わんわん! わんわんわん!」
「今ごろお利口さんになっても遅いなあ」
「もう犬じゃなくてどぶねずみを見る目になってるよ!」
そんなことないよ。
ねえ、兄さん。うふふ。
「それはダメだって、ちょ、アッー!」
「おすわり」
「わん」
「お手」
「わん」
ようやく兄さんがいい子になった。愛という名の調教が効いたようだ。
頭を撫でていたら、ふと兄さんの言葉を思い出した。
「そ、そういえば兄さん」
「どうした」
「遺伝子がほぼ同じなら、え、えっちとかも関係ないのかな?」
「お前バカだろ。それは近親相姦といってだな」
「……」
やっぱりまだ調教が足りないようだ。